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第163話 闇の契約

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預言者の言葉を信じて、
俺達は精霊の森へ戻っている。
推測レベルでしか無いが、母上が生きている可能性があると聞き、心が救われた……


「精霊界へ行くのに、この森を通るんだが、
 奥深くには瘴気が溢れていてな……」


「瘴気って?」


「精霊の死んだ魂みたいなものさ……
 あの世に行けず、生きる者を呪い殺す」


「え……」


なにそれ……
めちゃくちゃ怖いんですけど……
母上は精霊界に既に着いているんだよね?
真っ先に怖がって逃げそうなんだけど……


「うーん、手がないわけでも無いが、
 その隙に魔物に襲われたら危険だしな」


「そ、そんなに危険ですか?」


「魔族への恨みを募らせた精霊の魂だ!
 その怨念は凄まじいぞ……
 だから魔族は足を踏み入れられない……」


魔族にとっても有害である瘴気。
精霊達は仲間の苦しみを解放したいが、
そうすると精霊界を攻められてしまう……
精霊側にも様々な理由があって、
一筋縄でいかない気がしてきた。


「まあ、瘴気が溢れる場所には、
 それを放つ精霊が存在する筈だ……」


「……」


「そいつを何とかすれば、瘴気は消えるのさ……」


精霊側にも事情があるだろうが、
そうも言ってられない……
今も何処かで母上は、苦しんでいるかもしれないのだ。


「母上を救うのに必要なら、倒すまでだよ」


「そうだな……
 こちらには精霊の仲間も多いしな」


今回はシルフィ、エアリーの他に、
テレサも連れてきている。
本当は置いていこうと思ったが、
ルミナスで問題を起こしてしまうと、
誰も止められないため連れてきたのだ。


そして突き当たりまで歩くと、谷が見えてくる。
森の景色から一転して、まるで大渓谷のような世界に変わってしまった。


ふと周りを見渡すと、大きなムカデが、
ボブゴブリンを喰らい、更にそのムカデを巨大な怪鳥が捕食する。
その光景が野生の厳しい世界を表しており、
目を奪われてしまった……


「す、凄い世界ですね……」


「ここから先が深層と呼ばれる地帯になる!
 正式には、精霊の大渓谷と言うのさ」


森を超えて辿り着いた精霊の大渓谷は、
地上とは比べ物にならない程、
凶悪なモンスターで溢れている……
普通なら関わらないように避けるだろうが、
俺は、こんな時に限って閃いてしまった……


「あの、賢者……
 少しテレサの力を試したいんですけど……」


ユミルが使っていたスキルを、深層の魔物相手に通用するのか試してみたい。
もしテレサが十分な戦力になるのであれば、
深層攻略の負担が大幅に減る……


「テレサ、洗脳をもし使えたら、
 あの怪鳥に試してもらえる?」


テレサは、首を縦に振ると、
急に走り出して、鳥の影に消えてしまう。
しばらく時間が経ち、鳥の瞳が真っ黒に変化して、その意識はテレサに支配された。
そして影から戻ったテレサは、結果を伝える。


「うまくいった……
 焼き鳥でも、照り焼きでも何でも出来る」


「や、焼き鳥!!!」


テレサがふと口にした言葉に、ユーリが身を乗り出して反応するが、ややこしくなるので、一旦落ち着かせた。


「テ、テレサ……
 あの怪鳥に乗れたりするの?」



テレサは二つ返事で俺に答えると、
賢者もその事実に驚き、テレサのスキルについて詳しく尋ねた。


その話によると、洗脳スキルは、相手の影に潜り、相手よりも魔力が高ければ操れる。
しかし相手を操るまでに必要な時間は、
自分の魔力量によって異なる。


「素晴らしいじゃないか!
 これで深層の魔物も操りながら戦える」


「でも、私だけだと力が弱い……」


「なるほどな……
 精霊契約していないからか」


これから先の戦いで凶悪な魔物を相手にする可能性も高いため、是が非でもこの力を活用したい。
賢者は、精霊契約の適性者について、
テレサに問いかけた。


「この中で精霊契約出来る者はいるか?」


賢者が問いかけると、テレサは全員を見渡しながら、品定めをする。
そしてその人物に向けて指を差した。


「消去法だけど……」


「え?俺?」


まさか、聖剣を使う俺に向けて、
テレサが指を差すとは思わなかった……



「テレサよ……
 クリスが適正者なのは何故だ?」
 

「他の人は魔力が足りない」


その力を使うためには、膨大な魔力が必要になる。
テレサは、俺しかいないと断言した。


「ただ、聖剣を出した時は、
 私の力が弱まるから、使えない」


「なるほど……
 光の力と反発するわけか」


闇の精霊魔法を使う瞬間、
聖剣を使用することはできない。
しかし、以前見た力を考えると、
その恩恵は計り知れないと予測した。


「クリス……
 精霊石のかけらを使って、契約してみろ」


賢者は、残り僅かだった精霊石のかけらを俺に渡して、精霊契約を促す。
テレサの方を見ると、嫌な素振りは見せていない。


「テレサ、頼む……
 力を貸してほしい……」


そしてこれから、テレサと精霊契約を開始する……
しかし、まさかその契約が、将来に影響を及ぼすとは思いもしない……
その力は、この先待ち受ける運命が過酷であっても跳ね返してしまう程に強力だった……
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