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第161話 魔界へ

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陛下との謁見を終えて、母上の帰りを待っていたが、予定日を超えても帰ってはこなかった……
早くリリスに会いたいと願う母上が、
余計な道草を食う筈はない。
つまりこの状況で帰らないのは、相応の理由があるのだ……


「よし、みんな集まったな!」


賢者が一声かけると、
捜索隊のメンバーは返事をした。
陛下もこの状況を異常事態と判断して、
今回の作戦に十分な戦力を割いている。


「ミゲルまで、ユーリが一緒だった……
 だが、そこから消息が不明なんだ!
 万が一、今も強敵と戦っていたとしたら、
 ゆっくりしている時間はないだろう」


もし馬車で向かうと、ミゲルまで1ヶ月程かかってしまう。
時間を短縮するためにも、
賢者はある人物に声をかけていた。


「ジーク!済まないな!
 急に頼んでしまって……」


賢者は、この日のために、
ジークに協力を仰いだ。
飛行船でミゲルに移動出来れば、
一気に時間も短縮出来る。


「空からミゲルに行くのですね?」


「そうだ!到着次第、情報収集して、
 ミゲルにクレアがいないと分かれば、
 すぐに別の町に移動する」


そしてルミナスの港に停めてある飛行船に、
全員が乗り込み、出発準備が完了した。


「ミゲルに到着次第、クレアを探知で探す!
 シャルロットも精霊魔法を使い、
 何か気付いたら教えてくれ!」


賢者がそのように告げると、
俺達を乗せる魔導飛行船は、風に乗って浮き上がり、ミゲルに向けて出発を開始した……



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



ミゲルに到着すると、
町は異様に静かになっていた……
明らかに町の活気が感じられなくなっている。


「あの……何かあったのですか?」


俺達は複数の住民に声をかけると、
最初は笑顔で会話をしてくれるが、
町の話になると、はぐらかされてしまう……
やはりミゲルに何かが起きていると確信した。


「住民は何かを隠していますよね?
 明らかに様子がおかしい……」


「だが、洗脳もされていないぞ!
 その波動を全く感じないからな」


俺と賢者は、この町に何かが起きていると、
確信するが住民からは何も情報を掴めない。
そして探知を使っても反応が得られず、
途方に暮れていると、ガルムが口を開いた。


「クレア様の私物はありませんか?
 俺の鼻で追跡できるかもしれないです」
 

「え?あねごから貰った物で良ければ、
 この腕輪があるけど……」


ユーリが昔、誕生日に母上から貰った、
魔導具の腕輪をガルムに渡した。


「匂いは薄いですが、微かに残っています!
 魔力を使って追跡しますね!」


ガルムのスキルを頼りに、母上の痕跡を辿っていくと、町の外に出て行く……
そして懐かしい場所でもある精霊の森に到着した。


「ここに入ったのか?」


「アニキ、申し訳ありません……
 複数の魔物の匂いが強すぎて、
 ここからは分からないです」


森に入ったと同時に襲われたのか、
それとも魔物から逃げるために森に入ったのか、真相はわからない……
母上の匂いは、ここで途切れてしまった。


「シャルロット!
 精霊に呼びかけてもらえないか?」


シャルロットは、エアリーに頼み込んで、
森に潜む精霊に問いかける。
すると妖精の姿をした精霊が、
目の前に現れて俺達を案内し始めた。


「怪我をして奥に進んだみたい……」


精霊の後を追い、母上が逃げたであろう道に進むと、行き止まりに辿り着く。


「間違いでしょうか?」


「いや、正解だよ」


今度は、俺の問いかけに賢者が答えた。
何かを察知した賢者は、とても険しい顔をしている。


「賢者?一体……」


「どうやら、クレアは……
 魔界へ行った可能性が高い」


「な、何だって!!」


同行する俺達は驚愕に目を見開いてしまう。
何故母上が魔界へ旅立ったのか、全く理由が分からない。


「危険だが、行くか?
 魔界に……」


俺達全員の答えは既に決まっている……
そしてその答えを聞いた賢者は、
魔界へ移動するための魔法陣を展開する。


「魔界に行けばクレアが誰と戦っているのか、
 理由が分かるかもしれない……」


過去まで遡って救えた母上を、
このまま見殺しになんて出来ない……


「よし、魔法陣も完成した。
 お前達、覚悟は良いね?」


俺達は魔界へ旅立つ覚悟を決めて、
目の前の魔法陣に足を踏み入れる。
そして輝く光と共に、
精霊の森から俺達の存在は消えていった……




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




精霊の森から魔界に旅立った筈だが、
辺りの景色は全く変わっていないように感じられる。


「魔界にも精霊の森があるからな……
 現れる魔物も強いから気をつけろよ!」
 

森を抜けてミゲルの方向へ進むと、
賢者がその町について説明をし始める。


「この町は、ミゲルと同じ港町だ!
 名前は港町リール!
 ここは比較的落ち着いた魔族が多いが、
 念のため変装しよう!」


このまま人間として町に入ると、
即座にトラブルになってしまう。
それを避けるために、幻惑魔法で魔族への変装を施すことになった。


「よし、準備完了だ……
 今から魔界への潜入を開始するぞ」


ついに、俺達は魔界へ足を踏れた。
そして港町リールで予想外の景色を目の当たりにしてしまう。
母上が何故ルミナスに帰らず、魔界で戦う選択をしたのか、その理由が分かった時、
俺達は更に魔族への怒りを抑えきれなくなるのであった……
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