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第158話 笑顔

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風の精霊王が娘を守るために、
突如として現れた。
一瞬の出来事だったが、強力な風の刃で、
闇の精霊魔法を打ち消した。
しかし、それを待っていたかのように、
ユミルは邪悪な笑みを浮かべている。


「貴方達二人を、
 最初から狙っていたのよ!」


言葉を発した途端に、シルフィとエアリーの周りに、無数の扉が現れた。
逃げようとしても別方向の扉に吸収されてしまう。


「シルフィ!エアリー!!」


このままでは、親子を吸収されてしまう。
シャルロットは、瞳に涙を溜めながら、
声を張り上げていた。


「あははは!
 もう遅いわ!この距離では逃げられない」


この瞬間にエアリーは我が子を守るために、
強力な風をシルフィに当てて遠ざける。
そして、その反動でエアリーは扉に吸い込まれてしまった。


「お、お母さん!!!」


別れ際のエアリーの表情は、
娘を助けられたと悟り、優しく微笑むが、
その笑顔は、別れたくない辛さを、
無理矢理抑えているように感じられた……


「賢者様、何か、エアリーを助ける手は……
 賢者様!!!」


シャルロットは、藁にもすがる思いで、
賢者に話しかける。
シルフィが自分の妹であるように、
エアリーも見捨てられる存在ではない。


「動くなよ……
 動いたら、兄が妹を殺す!
 そう言ったのを忘れるな!」


エアリーを吸収して、
再度ユミルの魔力が回復する。
そして精霊喰らいの扉を、
シルフィの上空に生み出した。


「これで逃げられない!
 そのまま吸収されて死ね!」


扉が開き、徐々にシルフィの身体が浮いて、
上空へ引き寄せられる。


もう打つ手がないと思われた。
誰しもが無力に絶望を感じた瞬間、
その絶望を覆す存在が現れる。


神速スキルで瞬く間に射程圏内まで移動し、
聖剣技を放ち、扉を破壊した。


「これは……
 まさか!」


クリスが放った聖剣技によって、
上空に存在していた扉は破壊されたのだ。

そしてこの瞬間、動き出す機会を待っていたとばかりに、賢者が高速で移動を始める。
瞬く間にリルムの目前まで迫り、魔法を唱えた。


「次元結界!」


外からの攻撃で破壊できない結界を生み出し、リルムを守ったのだ。


そしてこの瞬間、
賢者はニヤリと笑みを浮かべる……


「安心しな!
 まだエアリーを救う手はある!
 精霊契約を上書きしろ!」


ユミルに深傷を負わせることが出来れば、
自然と精霊契約が解除される。
その瞬間に魂が分離されるため、
契約の上書きを行い、エアリーを救出していく。


「でも、もう魔力が……」


シャルロットに残された魔力は僅かだ。
今の魔力量では、再度シルフィとの精霊契約を行うことができない。


「マリア!俺の魔力を使え!」


クリスは、聖剣を鞘に収めて、
魔力をマリアに送り始める。
そしてその意図に気付いたマリアは、
シャルロットの背中に手を置いた。


「私たちの魔力をお姉ちゃんに送る!
 エアリーを……お願い!」


クリスの魔力が、マリアを通して、
シャルロットに流れていく。
その輝く力は、精霊と再び繋がる絆へ変わる。



再度精霊契約を行い、シルフィと身体が一体化していく。
先程と違い、精霊契約を終えた今でも、
マリアの魔力が流れている。
そして、エアリーを助けるために、
シャルロットは、火と風の融合魔法に全力を注ぎ込んだ……



「ファイアストーム」



強烈な炎の竜巻は、そのままユミルに向かい、精霊の鎧を破壊する。
そして精霊契約が解除された。


「シルフィ!いくわよ!」


シャルロットとシルフィの魔力が増加する。
失った母を取り戻すために、
必死に魔力を搾り出した。


「帰って来なさい!」


エアリーの魔力が集まる場所へ、
必死に2人で駆けていく……
その中心で精一杯、母親の名前を叫んだ。


そして、シャルロットとシルフィの叫びが、
エアリーに届く……


精霊契約が成功したことで、
エアリーがシャルロットの魔力に融合して、
その命を繋ぎ止めることが出来た。


一方、精霊契約が解除されたユミルは、
無防備になり、クリスはその隙を見逃さなかった。



「使い魔召喚!」



声を発した途端に、ユーリが目前に現れ、
マリアと共に魔力を送り始める。


「ユミル……
 精霊をいくら取り込んで強くなっても、
 俺はお前を否定する!」



自分が強くなるために、
何でも許される訳がない……
そんなやり方を、俺は絶対に認めない。



魔力が制御できたと同時に、
俺は、聖剣技をユミルに向けて放つ。


その輝く光はユミルを飲み込み、
爆発音がルミナスに鳴り響いた。


そして聖剣技の輝きと共に、
ユミルは光の粒子となり消えていく……


無事に守りきれたところで、
精霊の親子も獣人の兄妹も泣きながら、
笑顔で再会を喜び合う……
きっと彼らは、ずっとこの光景を夢見て生きたのだろう……
それを叶えることが出来て、
俺達は少しでも力になれたと思う。
そして、その友人達の喜ぶ様子が、
あまりに微笑ましくて、
俺達も自然と笑顔になった……
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