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第140話 魔導飛行船

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魔法都市ミストに来て早々に怪しい路地裏を歩いている。
まさかサングラスをかけた怪しい男の後を付いて行くとは思いもしなかった。
ミストは他の国に比べて都市開発が進んでいるが、今歩いている場所は、開発が行き届いていない貧民街のようだ。


「あの……大丈夫なのでしょうか?
 治安悪そうなのですが」


ユーリが心配になり、声をかけている。
こっそりと俺に教えてくれたが、女神が怯えているのだ。


「大丈夫、大丈夫!
 俺は顔が知れているからな」


「そういえば聞いてなかったけど、
 貴方の名前は?」


俺が尋ねると、男はサングラス越しに怪しい笑みを浮かべて声を発した。


「俺はミストの超一流飛行士、ジークだ!
 前を走る奴は、誰であろうがぶち抜くぜ!」


先程営業された時は低姿勢だったが、魔導飛行船のことになると強気になった。


「一応俺達も自己紹介を……」


俺が全員の自己紹介をしつつ、賢者だけは偽名で伝える。
流石に誰に聞かれているか分からないため、
他国では賢者の正体を隠すことにした。


「宜しくな!ところで、空中遺跡には何用で?」


「財宝が眠ってると聞いてな!
 特に精霊石を狙いたい!」


賢者が聞いたこともない鉱石の名前を出して会話を始めている。
しかし余程貴重な代物なのか、ジークのテンションも高い。


「精霊石か!お前達も目がないね~
 しかし気をつけろよ!
 精霊を思うがままにできる鉱石を狙って、
 裏の顔を持つ者が今も遺跡を探している」


ミストの中でも暗躍する者達が精霊石を狙うが、賢者は全く動じていない。
流石はルミナスでも歴戦の戦士だと改めて俺は尊敬していた。


「それなら攻略されていない遺跡に行かないとな」


「ジーク、最近見つかった遺跡で、
 未攻略かつ魔物が強い場所はあるか?」


「魔物?最近見つかった遺跡だと、座標は……」


賢者がジークから座標を聞き、目的地を決めていく。
ミストの上空に、島のような大地が浮かび、
それぞれの浮島に遺跡が存在する。
それを人々は空中遺跡と呼んでいるのだ。

最初はジークを信用していなかったが、
賢者が会話を進めているうちに、
豊富な知識量を全員が認めつつあった。


「よし、後は飛行船を確認して契約したい」


短い時間の中でも賢者がそう判断したため、
飛行士として及第点なのである。
しかし、この後に見るジークの飛行船で一気に評価が変わるとは思いもしなかった……





◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




俺達は、貧民街の奥に来ている。
この場所は、ミストで成功できなかった飛行士達が集まる場所であり、別名飛行士の墓場とも呼ばれる。


「ジーク!客か?
 なんだよ~俺がまた負けかよ!」


「また俺の勝ちだな!
 少しはお前も外に営業に出ろ!」


「余計なお世話だよ!」


気の知れた同業の男と話をすると、
ジークは、俺達を小さな酒場に案内した。
まるで西部劇に出てくるような店構えで、
中には人相の悪い輩がソファーに座っている。


「ジーク!ガキ達連れて保護者気取りか?」


強面の大男がジークを茶化しているが、
ジークは気にせず相手をしない。
その男には、なるべく関わりたくない様子だ。


「おい、クリスと言ったな!
 手出しするなよ」


酒場の中で手を出した者は、飛行勝負で決着をつけるルールになっている。
勝った者はどんな内容であっても、
一つだけ命令できるのだ。


「逃げるのか?腑抜け野郎」


「黙れ!」


「そうか!そのガキ達に守ってもらってるのか!」


普通なら怒ってしまうような乱暴な言葉にも全くジークは耳を貸さない。
簡単に挑発にのらないと心に決めているようだ。


「そこのガキでも良いぞ!
 女を賭けて俺と勝負しろ!」


「なっ!」


俺は唖然としてしまい言葉が出ない……
俺に勝負を挑むならまだしも、
マリアやユーリを賭けろだと?


「ロニー!いい加減にしろよ?
 俺に負けたのがそんなに悔しいなら腕を磨け!」


「ふはは!前の俺とは違うんだよ!
 決着をつけようぜ!」


ロニーと呼ばれた大男は、身を乗り出して、
今にもジークに襲いかかる勢いだ。


「ジーク!」


「分かった!明日の昼にここに来い!
 お前の相手をしてやる!」


そうロニーに向かって宣言して、ジークは俺達を酒場の裏口から外の広場に案内した。
何故わざわざ酒場を通っているのか疑問に感じているとジークが口を開く。


「すまねえな!
 こう見えても俺は有名人でな……
 飛行船を狙う輩も多いのさ」


酒場の裏口を出た先にガレージを作り、
ジーク専用機を保管している。
普段はジークでなければ裏口を通れないようにセキュリティを強化したのだ。


ガレージの前に辿り着き、ボタンを押すとシャッターが開いていく。
しかし、少しずつ見える機体に、俺達は唖然としてしまった。


「どうよ?これが俺の相棒、ファルコンよ!」


ドヤ顔で紹介された飛行船は、濃い青色をしているが美しいとは言い難い。
何故なら飛行場で見た、どの機体よりも遥かに古く、今にも壊れそうな雰囲気を醸し出しているからだ。


「オンボロ飛行船だと?」


小さく呟いた賢者の声が、俺の耳に届く。
果たしてこの飛行船に乗って良いのか、
不安を感じて仕方ない。
一刻の猶予も許されない今、目の前の飛行船を見て、
俺達は途方に暮れて立ち尽くしているのであった……

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