上 下
139 / 182

第139話 魔法都市ミスト

しおりを挟む
魔法都市ミストに到着した後、部隊を3つに分けて俺達は行動している。
俺の班は、マリア、ユーリ、賢者、
そしてサラの5名で、担当は魔導飛行船の手配だ。
サラがミストまで同行している理由だが、
俺達の不在時に魔王軍がサラを狙い、
ルミナスを襲撃する可能性があるからだ。

隣でサラを守るのが一番安全であるため、
俺達に同行させている。
サラは幻惑の腕輪を装着していて、
髪も黒く普通の人間にしか見えない。
さらに賢者が常に結界魔法を張り巡らせて、
シンや魔族の脅威から守っている。


「聖剣も大事だが、魔族対策もしないとな」


賢者の言う通り、魔族はどこに潜んでいるか分からない。
そして賢者は、ふと今のサラの格好を見て装備を中心に買い直した方が良いと提案した。


「容姿は普通の人間だけど、
 装いと仕草から気品が感じられるね……
 冒険者に見える装備にした方が良い」


ちょうど飛行場へ向かう道の途中で武器、防具屋があったため、サラの装備を見繕った。


「これでだいぶ印象が変わったな!
 ヘルメットで性別も分からない!
 騎士団の兵士みたいだ」


賢者も絶賛する程に仕上がっており、
これならそう簡単にはバレないと確信した。
そして街を見渡してみると、意外にも獣人やエルフが多いことに気付いた。


「あぁ言ってなかったね……
 隣は獣人の大国イグニスなのさ!
 ミストは近隣国と友好関係を築いている」


賢者が獣人の国という言葉を発すると、
俺は即座にある人物の顔が思い浮かぶ。
しかし、500年前のことではあるし、
恐らく存命ではないと考え直した。


「獣人やエルフに優しい街だからこそ、
 ベルやユーリも訪れやすいのですね」


「あぁ、他の街よりも理解はある……
 連れてきた仲間も安心して待てるだろう」


ベルやサリーのように人族以外の者もいるし、
リリスもしばらくの間ミストで待つことになる。


「そろそろ飛行場が見えてきたぞ!」


賢者の後ろを歩いていると前方に飛行場が見えてきた。
前世で見た滑走路のような道が続いている。
そして魔導飛行船を目にした瞬間、俺はその様子に目が釘付けになってしまった。


「飛行魔術はミストの最高機密だが、
 その仕組みは風の大精霊の加護と噂されている」


風の大精霊の力を借りて空を飛ぶ。
噂話ではあるが、もしも真実であれば他国が到達出来ない技術を扱える理由になる。


「賢者様、人間が殆ど作業していない?」


マリアがふと飛行場内の違和感に気付き、
賢者に問いかけた。
よく目を凝らしてみると魔物が荷物を運び、
整備も行なっている。


「隷属の首輪なしで魔物が従っている?」


「魔物を操る能力が存在すると聞く……
 もしかしたらミストにも所持者がいるのかもな」


魔導飛行船や獣人、エルフに気を取られていたが、冷静に見渡してみると重労働は全て魔物に押し付けている。

俺はこの光景を見て、まるで魔物が奴隷のように扱われているように感じてしまった。
それは気のせいではなく、この場に居合わせる全員が同じ想いを抱いていた。


「この国も秘密が多いな……
 表立ってないだけで裏では色々やっているかもな」


そして賢者の言葉を聞いているうちに、
俺はミストに入って直ぐに、要人に挨拶をしなくても良いのかと疑問に思った。
テティスに初めて入国した時、女神教に挨拶をしていたからだ。


「そういえばミストの要人への挨拶は?」


「それはシャルロットが対応中だ」


今回の任務を達成できなければ、世界の滅亡を引き起こしかねない。
1秒たりとも時間を無駄に出来ないため、
賢者はシャルロットに別行動でミストとの交渉を任せていた。


「確かにそれなら俺達も聖剣探しに専念できる」


「ミスト側の許可も降りたから、
 直にシャルロットも合流できるだろう」


そして、俺達は飛行場の入り口に向かうと、
既に長い行列が出来ているのに気付いた。
早く手配を完了したいが、どれくらいの時間がかかるか見当もつかない。


「何だと!空中旅行ブームだと?」


賢者が貼ってあるポスターを見て、飛行船の絶大な人気を知り途方に暮れている。
俺達も他に空を飛ぶ手段がないため立ち尽くしていた。


「賢者、どうしよう……
 このままだと空中遺跡に行けない」


「こりゃぁ困ったね……」


俺達が立ち往生していると、ふと背後から声をかけてくる人物がいた。
髭を生やした中年の男性で、サングラスをかけている。
見るからに怪しい人物だ。


「お前さん達、困っているようだな」


「いえ!間に合ってます!」


何故だが身の危険を感じた俺は、
相手の言葉を聞かずに速攻で断りを入れてしまった。
時に思い切りも大事なのだ。


「いやいや、待て!
 話くらい聞かんか!」


サングラスの男は俺達の進行方向に立ち塞がり、どうしても話を聞いてほしいと主張する。
何か裏がありそうだと推測するが、
男も必死になり頼み込んできた。


「すいません……
 もし宜しければ話だけでも聞いてください」


そしてゆっくりと話を聞いているうちに、
賢者はその男の正体を察知し問いかける。


「お前、フリーの魔道飛行士だな?
 個別で営業しているんだろう?」


「その通りです!先程は偶然にも、
 空中遺跡と仰ったのを聞いてしまい、
 是非お力になれればと思いました」


「念のため、船を見せてもらおうか」


聖剣を入手するために一刻も早く空中遺跡に向かわなければならない。
しかし今すぐに魔導飛行船を確保したいが、
予約待ちとなり俺達は途方に暮れていた。
そして突如としてフリーの飛行士が現れる。
見るからに怪しいが、その男との出会いが俺達の未来を変えていくとは思いもしないのであった……
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

恋物語

m
青春
中学生の時の恋が大人になってそれぞれ終わりを迎えるまでの4人の恋物語です。 小説をこうして書くのは初めてですのでアドバイスや感想いただけると嬉しいです。 よろしくお願いします!!

姉が婚約破棄した彼と結婚して、新婚旅行に行くのだと思っていたら、未開の地に辿り着きましたが、本望です

珠宮さくら
恋愛
双子の姉妹ナニラとリムナは、家庭教師の報告を真に受けて、肝心の娘たちのことを見てくれない両親に誤解されていた。 そのせいで褒めるのは、ナニラだけ。出来の悪いリムナが姉の邪魔をしないようにされてきた。 そんな、リムナは一度でも姉に勝てたら両親に褒めてもらえるのではないかと考え、ナニラが婚約破棄した彼と婚約することになる。 わだかまりもとけて、双子はお互い大好きだったことがわかったのだが、肝心の破棄になった理由を知らないまま、リムナは結婚して新婚旅行に行くのだと思いこんで、辺境の地にたどり着くことになるが、落ち込むことなく気持ちを切り替えて、新しい生活を送る。 ※全7話。予約投稿済。

可愛くてピュアなBL短編集✩.*˚

立坂雪花
BL
今まで書いた 可愛くてピュアなBL短編集を まとめたい。 ☆。.:*・゜

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

スキルで快適!異世界ライフ(笑)

夜夢
ファンタジー
若くして死んだゲスい彼「工藤 蓮(23)」は現代文明から中世文明ほどの農民の子へと異世界転生し現在15才。 あまり文明の発達していない世界でもっと快適な生活を送りたいと思った彼は、真面目に勉強した。神からスキルを貰った彼は豹変し、異世界改革に乗り出す。 そんなお話。 ただのエロ小説になるかも。 ※不定期更新です。思いついたら書くので…。

すれ違う道

むちむちボディ
BL
色々と絡み合う恋の行方はどうなるのでしょうか?遅咲きの2人が出会う恋物語です。

冷遇ですか?違います、厚遇すぎる程に義妹と婚約者に溺愛されてます!

ユウ
ファンタジー
トリアノン公爵令嬢のエリーゼは秀でた才能もなく凡庸な令嬢だった。 反対に次女のマリアンヌは社交界の華で、弟のハイネは公爵家の跡継ぎとして期待されていた。 嫁ぎ先も決まらず公爵家のお荷物と言われていた最中ようやく第一王子との婚約がまとまり、その後に妹のマリアンヌの婚約が決まるも、相手はスチュアート伯爵家からだった。 華麗なる一族とまで呼ばれる一族であるが相手は伯爵家。 マリアンヌは格下に嫁ぐなんて論外だと我儘を言い、エリーゼが身代わりに嫁ぐことになった。 しかしその数か月後、妹から婚約者を寝取り略奪した最低な姉という噂が流れだしてしまい、社交界では爪はじきに合うも。 伯爵家はエリーゼを溺愛していた。 その一方でこれまで姉を踏み台にしていたマリアンヌは何をしても上手く行かず義妹とも折り合いが悪く苛立ちを抱えていた。 なのに、伯爵家で大事にされている姉を見て激怒する。 「お姉様は不幸がお似合いよ…何で幸せそうにしているのよ!」 本性を露わにして姉の幸福を妬むのだが――。

平凡だった令嬢は捨てられた後に覚醒する 〜婚約破棄されたので、無敵の力で国を救います〜

 (笑)
恋愛
婚約者である王太子アランに突然婚約破棄を告げられ、全てを失った貴族令嬢リディア。しかし、それをきっかけに彼女は自らに宿っていた強大な力に目覚める。周囲から冷遇され、孤立した彼女だったが、新たな力を手にしたことで、過去の自分から脱却し、未来に向かって歩き出す決意を固める。 一方で、王宮内には不穏な陰謀が渦巻いていた。アランの婚約者となったセリアが王国を掌握しようと暗躍していることを知ったリディアは、王国を守るために戦うことを決意。自らの新たな力を駆使し、陰謀に立ち向かうリディアの成長と戦いが描かれる物語です。 強大な魔法を持つリディアが、王宮に潜む陰謀を暴き、自分自身の未来を切り開いていく壮大な物語が、ここに始まります。

処理中です...