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第132話 寝たふり

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久しぶりにレガードの屋敷で朝を迎えたが、
今は日常とは全く異なる状況だ。
それは俺の隣でマリアとユーリが寝ているのだ。
昨日は何とか眠れたが、どうやら相当二人を意識してしまい一番早くに起きてしまった。


「二人ともこんなに綺麗で可愛いけど、
 俺の奥さんになるんだよね」


二人の寝顔を見ながら、そう思うと幸せな気持ちが溢れてくる。
きっと幸福感に浸っている俺の顔は、
凄くだらしない顔をしているだろう。


しばらく二人を眺めようと思った矢先に、
寝ている筈のユーリが足を絡めてきた。
予想外の事態に朝から心臓の鼓動が鳴り止まない。


「ちょっと……」


まるで抱き枕のように抱きつかれ、
身体が密着している。
しかし、それだけでは終わらなかった。
なんと隣のマリアも両手を俺の身体に回し始めたのだ。


ちょっと待って……
二人とも寝ているよね?
魔力から感情を読み取りたいけど、
冷静に頭が働かない。


この状況をどうすれば良いか悩んでいると、
二人がクスクスと笑い始めた。


「おはよう、クリス」


「二人とも起きていたの?」


「ふふふ、魔力に反応があったら、
 クリスを驚かせようってね」


実は最初から二人とも寝たふりをしながら、
俺が起きるのを待っていたのだ。
するとユーリが俺の感情を読み取りながら口を開く。


「クリス、嬉しいみたいだね……
 私たちも一緒だよ」


そう言いながら、俺の頬に口付けをしてきた。
気持ちが分かり合えた途端に、
ユーリは積極的になり始めている。


「もう!ユーリばかりずるい」


「ふふふ、マリアもしちゃえば良いじゃん」


気付けば二人とも仲が良くなっており、
呼び捨てでお互いを呼び合っている。


「クリス……」


急に頬を赤くしながら俺に口付けをしてきた。
ちなみに頬ではなく唇だ。


「マリア、ずるい!」


マリアは小悪魔な笑顔を向けながら、
ユーリに言葉を発する。


「ユーリこそ、しちゃえば良いじゃん」


まるで仕返しとばかりにユーリに言葉を放つと、
ユーリも負けじと口付けをしてきた。
もう俺は何が何だか分からなくなっている。


「二人ともいつのまに仲が良くなったのね」


「ふふふ、お互い奥さんになるからね」


二人とも将来を考えて良い関係を築こうとしている。
俺は、そんな二人の気遣いが心から嬉しい。


そしてふとユーリの魔力から感情の変化を感じ取り、観察すると何か話したいような印象を受けた。


「あの……マリアが帰りたくないって言ってるんだけど」


「はい?」


俺は口が開いたまま塞がらず、
マリアの方を見ると恥ずかしそうに呟いた。


「だってユーリばっかり、ズルい……」


「あはは、私もマリアが好きだし、
 もっと一緒にいたいなって」


ユーリに友と呼べる者は少ない。
今まで魔女で苦しんできた分、仲の良い存在が出来たのが余程嬉しいのだろう。


「流石に怒られるでしょ……」


「たぶん大丈夫かも……
 だって、クリスは覇王もあるし、
 聖剣の契約者だし」


強引ともいえる提案に俺は不安を感じたが、
マリアは覚悟を決めて宣言する。


「決めた!私、帰らない!」


何と、王女が男爵の家に籠ると宣言してしまった。
絶対にトラブルの予感がするが、
こうと決めたら引かないのがマリアである。


「マリアの気持ちも嬉しいけど、
 ひとまず母上に相談しよう」


ここで父上ではなく母上と言ってしまったが、間違いなく我が家の力関係では母上の方が強いのだ。

そして俺達は、旅立つまでの数日間、
レガードの屋敷にマリアを同居させるという計画を決めたのであった。


俺たちがそんな話をしていると、急に部屋のドアを開けて中に入った人物がいる。


「おはようござ……
 お、お、お兄様!こ、これは?」


「あ、アリス、朝から五月蝿いぞ」


俺を起こそうとアリスが部屋に入ったが、
仲睦まじく過ごす三人の姿を見て嫉妬に狂っている。


「だ、だ、黙ってられません!
 男女が同じベッドに……
 しかも三人でなんて」


俺たちの状況を見て何か勘違いをしているようだ。
二人とも俺に抱きついていて、
気付けば二人の服も少しはだけている。


「ふしだらです!」


「まあ、落ち着けって……」


言われていることは正しい気もするが、
俺達は婚約しているのだ。
しかし、アリスが騒ぎ出したことで二人とも残念そうに起き上がった。


「落ち着いてられません!」


アリスは息を切らしながら声を荒げていると、
その声を聞きつけてリーナが現れる。


「おはようございます、クリス様」


「リーナ、おはよう」


リーナは周りを見渡してジト目で俺を睨みつけながら、ため息を吐いた。
そしてアリスを抱きしめて宥め始める。


「うっ……っう、リーナ~
 お兄さまが……アリスのお兄さまが」


アリスの頭を撫でながら宥める姿を見て、
改めてメイドとして優秀なリーナに感謝した。


「リーナ、後は頼んだ…」


リーナに軽く睨まれながらも、
俺たちはそそくさと部屋を出て客間へ向かって行ったのだった……
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