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第119話 救う者(2)
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龍との死闘からルミナスへ戻った俺達は、
そのままガルムの家に直行している。
リルムの病は龍の生き血で見事に完治した。
「お兄ちゃん…
もう胸が苦しくない…」
「リ、リルム…」
小さい頃から病に苦しんでいたリルムの調子が良くなり、涙腺の脆いガルムは相変わらず大粒の涙を流してしまう。
よほど嬉しかったのか兄妹抱き合って喜んでいた。
「アニキ…
本当に、何とお礼を言っていいのか…」
ガルムは心から感謝を込めて接してくれる。
それはリルムも同じだ。
2人を見ていると協力して良かったと思える。
そして俺はこのタイミングで、みんなに打ち明けようと心に決めた。
「実は、3人に聞いて欲しいことがあるんだ」
「へ?」
別れの直前で正体を明かしてサヨナラは、
余りにも突然で失礼な気がしてしまう。
今このタイミングで俺達が何者なのかを告白したい。
それが例え聖剣の記憶の世界であっても、
ガルム、ユリスへの礼儀だと思っていた。
「実は…俺と母上は、
この世界の人間じゃないんだ」
そう伝えると意外にも二人共驚いていない。
それどころか、どこか納得している表情さえ見受けられる。
「そんなことだろうと思ったわ…
だって、おかしいもの…
そんなに強くて知識も豊富で」
たしかに龍退治の時も賢者の情報とは言え、
この世界の人にとっては知り得ない知識となる。
「でも、アニキじゃなかったら、
俺達は救われなかった!
だから……」
「俺達は、アニキに会えて、
本当に良かった」
真剣な眼差しで感謝を告げられて、
俺も今までの人生が、人の役に立てたと思うと報われた気持ちになる。
その時、転生前の日々を思い出していた…
あの頃もがむしゃらに生きていたけれど、
その姿を見てくれていた人が、いたのかもしれない。
「ガルム、俺だって…
みんなに出会えて良かったよ」
何だか心が温かくなる。
それはきっと信頼の温度なのかもしれない。
冷たい視線があるように、逆に信頼される時には温かな視線がある。
今、ガルムが俺達に向けているように……
「明日、俺と母上は…
自分達の世界に帰るんだ」
ガルムは、その事実を受け入れたくない、
そんな表情をしている。
こんなにも打ち解けあったのに、
すぐに別れが訪れる。時は残酷だと思う。
「アニキ…
明日は必ず俺達が力になります!」
「私達が恩返ししなくちゃね」
ガルムとユリスの言葉には、強い意志が込められている。
「おい、私の屋敷に全員で泊まらないか?
突然だが最後の夜なんだ…
今日くらいは全員もてなしたいんだ!」
急なユリスの提案だったが、ガルム達も
レガードの屋敷には泊まったことがない。
2人とも興味津々なのは表情で分かった。
そして当然だが、俺と母上もこの時代のレガードの屋敷には興味があるため、二つ返事で了承した。
レガードの屋敷では、龍退治したお祝いも兼ねて盛大にもてなされた。
俺と母上にとって初代剣聖との貴重な思い出になったが、恐らく父上に話したら血涙を流しながら嫉妬するだろう。
一夜が明けて…
賢者へ通信機で呼びかけたが返事が無い。
記憶の世界に来てからは、初日を除いて連絡は取れていた。
しかし、初めて応答が無かったため心配になる。
「賢者と連絡がつかない…
ユーリも心配だ!
早く城に向かおう」
賢者の居場所は、城の研究室と言っていた。
その場所に向かうために、龍の素材を持って門番に報告している。
「レガードの剣士、ユリスだ!
リブル山の龍を討伐して、
その報告に参上した」
兵士は、最初は女子供の戯言のように扱ったが、龍の素材を見て腰を抜かしていた。
手筈通り賢者に届けると伝えると、
疑いなく門を通してくれた。
「無事に入れたな…
そのまま研究室に向かおう」
探知スキルで賢者の方向を確認して、
500年前のルミナス城を歩いていく。
儀式に警備の人員を割いており、城内を守る兵士は少ない。
すれ違う人もこの後に始まる聖剣の儀式の準備に忙しそうだ。
「みんな、ちょっと待ってくれ…
この方向と位置は研究室じゃないぞ!」
500年前でも城の構造は変わっていない。
探知スキルが指す場所は、何度も訪れたことがある場所で間違えるはずがない。
「賢者は、訓練場にいる!」
今日の夜に暗殺者である側近イシスに呼ばれていると言っていた。
しかし、何か事情があったのか、
たった今訓練場にいる可能性が高い。
即座に俺達は訓練場まで駆けて行った。
◆◇◆ ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ ◆◇◆
500年前のルミナス城、訓練場で賢者は側近であるイシスに呼ばれていた。
イシスはハーフエルフの女性であり金髪長身の美女である。
接した人物からは優しいと評判で、悪評などは一切聞かない。
「急に改まって何の用だい?」
「ふふふ、是非賢者に見てもらいたい物が」
そう言ってイシスが取り出した物は、
魔導具である宝石だった。
「お、お前、何故それを!
ルミナスの宝物庫に保管していた筈だ」
宝物庫から盗み出されたのは魔封じの宝石。
その宝石を使うと対象となる人物の魔法を封印する。
「貴方を1人だけ呼び出したのは、
これで魔法を封印するため…」
イシスは言葉を発したと同時に、宝石を賢者へと投げつける。
そして瞬く間に輝き、賢者から時空の波動が消え、魔法が封印されてしまった。
「当然だけど、強化格闘術も、
これで脅威では無くなった」
イシスは怪しく笑みを浮かべながら、
賢者に言い放つ。
「お前、一体何を企んでいる…」
「貴方の持つ、時の腕輪…
その魔法で私は未来に飛ぶ」
500年前の賢者が持つ秘宝、時の腕輪。
その効果は、一度限り未来にのみ時空を超えられる。
「未来に行って、何があるというんだ!」
「ふふふ、
仲間の預言スキルで反応があったの…
未来で回復魔法使いが沢山生まれるのよ」
そう呟きながら、イシスは邪悪な笑みを浮かべ、賢者に高速で接近する。
そして固有スキルである剣技、高速剣を繰り出した。
「そして、未来で私は…
真の存在へと生まれ変わるの」
魔法を封じられた賢者は高速剣を防ぐ手段を持ち得ず、正面から斬撃を浴びてしまう。
ゆっくりと近づき、イシスは時の腕輪を奪い取った。
「………イシス、待て…」
「賢者様、今解き放ち自由にしてあげる…」
まさに賢者へのトドメの攻撃を繰り出そうとした刹那…
その場に神速を使った2人の人物が現れる。
その内の1人は瞬く間に割り込み、
高速剣を聖剣で受け止めた。
「何者だ、貴様は……」
そして、その人物は決意を込めて高らかに宣言する。
「クリス、レガード…
今日ここで…
賢者を…救う者だ!」
賢者の危機に駆けつけたクリス。
イシスの裏切りに、ユリスは悲しみと怒りに震えてしまう。
そして、その感情がユリスの才能を更に開花させ真の実力を呼び覚ます。
更に攻防の最中、イシスの正体が判明し、
その場に居合わせる者は言葉を失ってしまうのであった。
そのままガルムの家に直行している。
リルムの病は龍の生き血で見事に完治した。
「お兄ちゃん…
もう胸が苦しくない…」
「リ、リルム…」
小さい頃から病に苦しんでいたリルムの調子が良くなり、涙腺の脆いガルムは相変わらず大粒の涙を流してしまう。
よほど嬉しかったのか兄妹抱き合って喜んでいた。
「アニキ…
本当に、何とお礼を言っていいのか…」
ガルムは心から感謝を込めて接してくれる。
それはリルムも同じだ。
2人を見ていると協力して良かったと思える。
そして俺はこのタイミングで、みんなに打ち明けようと心に決めた。
「実は、3人に聞いて欲しいことがあるんだ」
「へ?」
別れの直前で正体を明かしてサヨナラは、
余りにも突然で失礼な気がしてしまう。
今このタイミングで俺達が何者なのかを告白したい。
それが例え聖剣の記憶の世界であっても、
ガルム、ユリスへの礼儀だと思っていた。
「実は…俺と母上は、
この世界の人間じゃないんだ」
そう伝えると意外にも二人共驚いていない。
それどころか、どこか納得している表情さえ見受けられる。
「そんなことだろうと思ったわ…
だって、おかしいもの…
そんなに強くて知識も豊富で」
たしかに龍退治の時も賢者の情報とは言え、
この世界の人にとっては知り得ない知識となる。
「でも、アニキじゃなかったら、
俺達は救われなかった!
だから……」
「俺達は、アニキに会えて、
本当に良かった」
真剣な眼差しで感謝を告げられて、
俺も今までの人生が、人の役に立てたと思うと報われた気持ちになる。
その時、転生前の日々を思い出していた…
あの頃もがむしゃらに生きていたけれど、
その姿を見てくれていた人が、いたのかもしれない。
「ガルム、俺だって…
みんなに出会えて良かったよ」
何だか心が温かくなる。
それはきっと信頼の温度なのかもしれない。
冷たい視線があるように、逆に信頼される時には温かな視線がある。
今、ガルムが俺達に向けているように……
「明日、俺と母上は…
自分達の世界に帰るんだ」
ガルムは、その事実を受け入れたくない、
そんな表情をしている。
こんなにも打ち解けあったのに、
すぐに別れが訪れる。時は残酷だと思う。
「アニキ…
明日は必ず俺達が力になります!」
「私達が恩返ししなくちゃね」
ガルムとユリスの言葉には、強い意志が込められている。
「おい、私の屋敷に全員で泊まらないか?
突然だが最後の夜なんだ…
今日くらいは全員もてなしたいんだ!」
急なユリスの提案だったが、ガルム達も
レガードの屋敷には泊まったことがない。
2人とも興味津々なのは表情で分かった。
そして当然だが、俺と母上もこの時代のレガードの屋敷には興味があるため、二つ返事で了承した。
レガードの屋敷では、龍退治したお祝いも兼ねて盛大にもてなされた。
俺と母上にとって初代剣聖との貴重な思い出になったが、恐らく父上に話したら血涙を流しながら嫉妬するだろう。
一夜が明けて…
賢者へ通信機で呼びかけたが返事が無い。
記憶の世界に来てからは、初日を除いて連絡は取れていた。
しかし、初めて応答が無かったため心配になる。
「賢者と連絡がつかない…
ユーリも心配だ!
早く城に向かおう」
賢者の居場所は、城の研究室と言っていた。
その場所に向かうために、龍の素材を持って門番に報告している。
「レガードの剣士、ユリスだ!
リブル山の龍を討伐して、
その報告に参上した」
兵士は、最初は女子供の戯言のように扱ったが、龍の素材を見て腰を抜かしていた。
手筈通り賢者に届けると伝えると、
疑いなく門を通してくれた。
「無事に入れたな…
そのまま研究室に向かおう」
探知スキルで賢者の方向を確認して、
500年前のルミナス城を歩いていく。
儀式に警備の人員を割いており、城内を守る兵士は少ない。
すれ違う人もこの後に始まる聖剣の儀式の準備に忙しそうだ。
「みんな、ちょっと待ってくれ…
この方向と位置は研究室じゃないぞ!」
500年前でも城の構造は変わっていない。
探知スキルが指す場所は、何度も訪れたことがある場所で間違えるはずがない。
「賢者は、訓練場にいる!」
今日の夜に暗殺者である側近イシスに呼ばれていると言っていた。
しかし、何か事情があったのか、
たった今訓練場にいる可能性が高い。
即座に俺達は訓練場まで駆けて行った。
◆◇◆ ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ ◆◇◆
500年前のルミナス城、訓練場で賢者は側近であるイシスに呼ばれていた。
イシスはハーフエルフの女性であり金髪長身の美女である。
接した人物からは優しいと評判で、悪評などは一切聞かない。
「急に改まって何の用だい?」
「ふふふ、是非賢者に見てもらいたい物が」
そう言ってイシスが取り出した物は、
魔導具である宝石だった。
「お、お前、何故それを!
ルミナスの宝物庫に保管していた筈だ」
宝物庫から盗み出されたのは魔封じの宝石。
その宝石を使うと対象となる人物の魔法を封印する。
「貴方を1人だけ呼び出したのは、
これで魔法を封印するため…」
イシスは言葉を発したと同時に、宝石を賢者へと投げつける。
そして瞬く間に輝き、賢者から時空の波動が消え、魔法が封印されてしまった。
「当然だけど、強化格闘術も、
これで脅威では無くなった」
イシスは怪しく笑みを浮かべながら、
賢者に言い放つ。
「お前、一体何を企んでいる…」
「貴方の持つ、時の腕輪…
その魔法で私は未来に飛ぶ」
500年前の賢者が持つ秘宝、時の腕輪。
その効果は、一度限り未来にのみ時空を超えられる。
「未来に行って、何があるというんだ!」
「ふふふ、
仲間の預言スキルで反応があったの…
未来で回復魔法使いが沢山生まれるのよ」
そう呟きながら、イシスは邪悪な笑みを浮かべ、賢者に高速で接近する。
そして固有スキルである剣技、高速剣を繰り出した。
「そして、未来で私は…
真の存在へと生まれ変わるの」
魔法を封じられた賢者は高速剣を防ぐ手段を持ち得ず、正面から斬撃を浴びてしまう。
ゆっくりと近づき、イシスは時の腕輪を奪い取った。
「………イシス、待て…」
「賢者様、今解き放ち自由にしてあげる…」
まさに賢者へのトドメの攻撃を繰り出そうとした刹那…
その場に神速を使った2人の人物が現れる。
その内の1人は瞬く間に割り込み、
高速剣を聖剣で受け止めた。
「何者だ、貴様は……」
そして、その人物は決意を込めて高らかに宣言する。
「クリス、レガード…
今日ここで…
賢者を…救う者だ!」
賢者の危機に駆けつけたクリス。
イシスの裏切りに、ユリスは悲しみと怒りに震えてしまう。
そして、その感情がユリスの才能を更に開花させ真の実力を呼び覚ます。
更に攻防の最中、イシスの正体が判明し、
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