上 下
114 / 182

第114話 龍

しおりを挟む
リブル山の舗装された山道を登っている途中、ガルムがふと口を開いた。


「そういえば、アニキとおやびんって、
 どことなく似てるっすね」


「へ?」

 
一番鈍感そうなガルムがレガードの血筋について気付いた。
母上は咳き込みながら動揺している。
こんな時に母上は表情や仕草に本心が出てしまう。


「そうかな?
 ユリスさんの方が綺麗でしよ~」


「な、何言ってるのよ!」


貴族社会で、これくらいの会話は普通のやり取りだが、相手はレガードの剣一筋のお嬢様だ。


「わ、私が綺麗なわけないでしょ!」


顔を赤くしながら髪の毛を触っているところを見ると、先ほどの言葉をかなり意識しているようだ。
ガルムが発した会話の流れが一転して、
ユリスの容姿の話になった。


「クリス、お手のものって感じだな…
 ユーリに言い付けるぞ…」


「母上、やめてください…」


母上は俺がうまくやり込んだのを見て、
俺をジト目で見ている。
少し居た堪れないので俺は咳をしながら、
その場をやり過ごした。


そして、そんなやり取りを繰り返した後に、
母上が真剣な眼差しで声を発する。


「クリス、力を解放しておけ…
 幼体という話だが、強い波動を感じる」


俺もそれには気づいていた。
もう少しで俺達は山頂に到着するが、
この距離でもドラゴンの強烈な波動を感じている。


「もし成体のドラゴンと遭遇したら、
 クリスは2人を守りつつ戦え、
 私は空から牽制しつつ移動する」


万が一生体のドラゴンがいた場合、
そのブレスを警戒しなければならない。
母上が囮になり、ドラゴンを誘き寄せる作戦だ。


「そろそろ頂上だ…
 幼体のドラゴンがいたら、
 すぐに倒して、逃げるぞ…」


そして山頂まで到着すると、中央にドラゴンの巣を発見する。
親ドラゴンはどうやら、狩りに出かけているようだ。


「親には悪いが、私達も未来がかかってる…
 まずは見つかる前に子供を倒すぞ!」


俺と母上は神速で移動して巣にいる2匹のドラゴンの幼体を撃破する。
可哀想な気もしたが、生きていくためには仕方ない。
2匹の死体を、持ってきた袋に入れて、
母上と一匹ずつ担いでいく。


「意外とあっさりしていたな…」


そして頂上から降りようとしたその時だった。
俺と母上の持っている袋が赤く輝き出す。
 

「な、なんだ?」


「母上、これは?」


俺は聖剣技でマリアと繋がっているため、
本能的に察知できたのかもしれない…



「母上、ドラゴンの親の反応だ!
 魔力で繋がっている!」


「ユリス、ガルム、襲撃に備えろ!
 ドラゴンが来るぞ!」


そして、リブル山の頂上で怒り狂った、
炎の魔力を纏うドラゴンが現れたのだ。



そのドラゴンは俺達を睨みつけて、
途轍もない咆哮を発した。



まるでそれは、目の前で殺された子供を悲しみ、俺達を恨む怨念の声だった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



水の神殿の儀式の間でもサポートは続いている。
マリアは、ドラゴンと対峙したクリスに力を送り続けていた。


「け、賢者様、
 ドラゴンと対峙したんですか?」


まさか成体のドラゴンに遭遇してしまい、
マリアは胸が張り裂けそうな想いだった。


「マズイぞ…あの火龍は、
 魔王の加護を得てるんだ…」


「え?」


賢者には500年前の知識がある。
ドラゴンの特徴を思い出し、
即座に適切な作戦を考えた。
そして賢者は、通信機を片手に取り、
クリスに討伐作戦を伝えていく。


「龍の鎧と呼ばれる魔力の防御壁がある。
 奴の防御壁は、クリスとクレア、
 2人の最大火力の同時攻撃で破れ!」


賢者は緊急事態での解決策を考えて、
唯一攻撃が通りそうな方法を編み出したのだ。


「そして、最後はユリスの剣技スキルだ!
 身体強化を最大限まで高めて攻撃しろ…
 ガルムには何としてもユリスを守らせろ」


賢者がそう言うとクリスも指示に返事をする。
ここからはクリス達に任せるしかない、
賢者は、500年前に災厄とも言われたドラゴンを倒し、クリス達が生きて帰れることを心から祈った。


そして、この部屋に勢いよく飛び込んできた人物がいる。


「賢者様!
 お取込み中、申し訳ありません!」


「何事だ!
 カート、今、大事な時だぞ…」


カートは、息を切らせ慌てて部屋まで入ってきた。
まさに緊急事態を知らせるために来たと賢者も確認して後回しに出来ない。



「賢者様、ユーリが…
 ユーリが何処にもいないんです…」



「な、何だって?」



賢者は、ユーリ、シャルロット、アリスの3人を見守り警護するようカートに指示していた。
しかし今日の朝からユーリの姿が見当たらないため、カートは神殿を探し回っていた。
それでも、何処を探しても見つからなかったのだ。


「こっちも緊急事態だってのに…」


「賢者様、どうすれば…」


賢者はこの瞬間、脳みそをフル回転して最善策を考えた。


「私が探知で探しに行く…
 状況は通信機でクリス達に知らせるよ…
 マリア、お前は聖剣技を引き続き頼む」


そして、カートにはアリスとシャルロットを起こしにいくよう伝えた。
勇者襲撃まで時間がない今、2人にも訓練を行ってきた。
アリスとシャルロットの2人は疲れて寝てしまっていたのだ。



「賢者様、気をつけて…」



マリアが賢者の無事を気遣い言葉をかける。
それに対して賢者は笑顔でマリアへ言葉を返していく。



「マリア、クリスが帰るまで、何としても
 お前がクリスの魔力を保たせるんだよ!」



賢者は、マリアへクリスの支援を託して部屋を飛び出していった。
しかし、探知魔法を使用して向かう先で、
賢者は、想像を超える陰謀を目の当たりにして言葉を失う。
そしてドラゴンと戦うクリス達は、
その陰謀を賢者から聞き怒りに震えてしまうのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。 全力でお母さんと幸せを手に入れます ーーー カムイイムカです 今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします 少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^ 最後まで行かないシリーズですのでご了承ください 23話でおしまいになります

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

Lunaire
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

神に同情された転生者物語

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。 すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情された異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。 悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

幼馴染み達が寝取られたが,別にどうでもいい。

みっちゃん
ファンタジー
私達は勇者様と結婚するわ! そう言われたのが1年後に再会した幼馴染みと義姉と義妹だった。 「.....そうか,じゃあ婚約破棄は俺から両親達にいってくるよ。」 そう言って俺は彼女達と別れた。 しかし彼女達は知らない自分達が魅了にかかっていることを、主人公がそれに気づいていることも,そして,最初っから主人公は自分達をあまり好いていないことも。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

処理中です...