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第111話 決闘

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俺は戸惑いを隠せない。
憧れの人物でもある初代剣聖に出会えて感動しているが、剣を向けられているからだ。


「私の子分を泣かせるとはな…
 借金なら必ず返すと言ってるだろ!」


どうやら俺のことを金貸しと勘違いしているらしい。
剣を向けて迫ってくるユリスに俺は、
緊張で手が震える。
小さい頃から熱狂的な信者の父上から話を聞かされてきた。



「おやびん、違うんです!
 この人は…」


ガルムの泣き腫らした顔を見て、
俺が脅したとユリスは勘違いしている。


「ガルムは黙ってなさい!
 全く、いつも泣き虫なんだから…」


そして俺もまさか予想外の方向へ話が進むとは思いもしない。


「け、決闘よ!
 私が勝ったら借金をチャラにしなさい!」


「はい?」


う、嘘でしょ…
記憶の世界で初代剣聖と決闘することになるなんて…
その時、俺の通信機から賢者の声が聞こえてきた。


「クリス、良い機会じゃないか…
 決闘に勝ったら龍退治を協力させろ!」


賢者の指示に更に戸惑ってしまうが、
俺自身も将来剣聖に至る存在に、
どれだけ自分の力が通用するか興味はある。
俺はその指示に従い、愛刀を握りしめた。


「ユリスさん、俺が勝ったらどうするの?」


「き、貴様、私に勝つだと?」


「ア、アニキ、駄目だ!
 その人は…」


俺の言葉を聞き、ユリスは不敵な笑みを浮かべながら高らかに宣言する。


「いいわ、何でも言うこと聞いてあげる!
 その代わり私が勝ったら奴隷よ!」


「………」


借金の帳消しから奴隷に変更になっている。
話があらぬ方向に進んで頭が痛い。


「良いですよ…
 多分俺が勝つんで」


そう言い放った瞬間、ユリスの空気が変わり突進をしてきた。
想像以上の速さに驚くがセシル程ではない。
ユリス・レガードは、スキル鑑定で剣術スキルレベル6を発現させた化け物だ。
まだ歳も変わらない今のユリスであれば、
俺でも倒すことができるだろうと判断した。


俺は神速スキルで攻撃を回避して、
蹴りをお見舞いした。
ユリスは、弾きばされてしまい近場にあった木材に激突する。


「な、何だと…
 この私が…」


自分の剣技に自信があったのか、見事な返しにショックを隠しきれない様子だ。
その隙に俺はバブルバレットを放ったが、
ユリスも身体強化を施して回避した。


「魔法まで使うのか…
 ならば本気でいくぞ」


高速で迫るユリスに、俺は大男との戦闘同様に油断するわけにはいかないと判断して、
姿を変えて反撃に出た。


「お、お前、姿が…」


姿を大人に変えた俺に見惚れていたのか、
一瞬、ユリスの攻撃が遅れる。
その隙を見逃さずに神速で移動して、
真後ろから剣を突きつけた。


「俺の勝ちだ…」


「は、反則だ!
 そ、そんな姿になるなんて…」


何とか勝てて安心していると、
唖然と立ち尽くすガルムが目に入る。


「あ、ア、アニキが天才のおやびんに、
 勝ったなんて…」
 

ガルムがそう声を発した瞬間、ユリスは握りしめていた剣を落として立ち尽くしてしまう。


「ユリスさん?」


「ま、負けた…
 誰にも負けたことないのに…」


そして俺は、龍退治を確約させるために、
勝利の報酬を再確認しようと声をかける。


「あの…勝った時に、
 何でも言うこと聞いてくれるって…」


「な!」


俺は死角から剣を突きつけていたため、
ユリスの顔が見えていなかった。
振り返ったユリスの瞳には、溢れる程に涙が溜まっており、今にも泣き出しそうだった…


「酷い!私を奴隷にして、
 好き勝手するなんて!」


「ア、アニキ!
 それだけは、許してやって…」


何故か話の流れから、
俺が悪者になってしまう。


「いや、奴隷にはしないから、
 その代わり…」


「や、やっぱり変なことするんだ!」


ユリスは泣きながら俺を睨みつける。
もう何が何だか分からなくなっていると、
更に俺に声をかける人物が現れた。




「クリス、お前…
 何やってるんだ?」



「は、母上!」




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




ハイエルフのサラに引き連れられて、
ユーリは水の神殿の一室に入ってしまった。


「あ、あの…
 私は人を待たせていて…」


「すぐに終わるよ!
 同族と会えたのは珍しいから、
 ある人に会ってもらいたいんだ」


ユーリの話は聞き入れてもらえずそのまま、
サラの言う人物に会うことになる。


「おや?
 君は見ない顔だね…」


サラの言っている人物とは、
女神教の最高責任者である教皇ラグナだ。


「あの…
 賢者様と一緒に来たユーリです」


「もしかして君はハイエルフかな?」


ユーリを見たラグナは、サラと同様の質問をした。
先程、咄嗟にハイエルフと答えてしまったため同じように答えるしかない。
ユーリは、その問いに無言で頷いた。


「おお、珍しいね!
 君に会えて嬉しいよ…
 私は女神教の教皇ラグナだ」


そう言うとラグナは、手を差し出しユーリと握手する。


「ユーリさん、
 君はいつまでここに?」


「聖剣の儀式が終わるまでは
 いると思いますけど…」


王が言っていた儀式までは最低でも滞在するだろう。
なるべく会話の辻褄が合うように説明する。


「それは良かった…」


「へ?」


ラグナが怪しい笑みを浮かべた気がしたが、あまりに一瞬だったため気のせいか分からないでいる。


「そうしたら是非、
 聖剣の儀式の準備を手伝って貰いたい…
 どうかな?」


ユーリはその質問にどう答えるか迷った。
しかし、クリスの力になれない苦しみが、
ユーリを悩ませていた。
ラグナは偶然にも、その心の隙をつく発言をしてしまう。


「分かりました…
 是非お手伝いさせてください」


ラグナはその言葉を聞き、
明日、この部屋を訪れるよう伝えた。
そしてユーリと別れた後、ラグナは表情を少しずつ変えていく。



「ふはは、
 これは思わぬところで出会った…」



徐々に邪悪な笑みに変わり、
その本性を露わにする。











「新たな生贄に巡り合えた」










ラグナは同一人物とは思えない低い声で言葉を発した。
そして怪しい笑みを浮かべ更に独り言を呟いていく。





「計画まで後少しだ…
 あの力を手に入れ、
 私が世界の王となる」





まさに賢者の警戒していた教皇ラグナの本性だった。
そしてクリスが記憶の世界で試練に明け暮れている間に恐ろしい陰謀が蠢き始めている。
その事にまだ誰も気付けてはいなかった…
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