109 / 182
第109話 心
しおりを挟む
賢者達が居た部屋を飛び出したユーリ。
意外にも足が速くカートは追いつく事が出来ない。
その姿を見失ってしまった。
「はぁ…はぁ」
クリスに会いたくても会えない悲しみが押し寄せていたが、修行の事情を聞き更にユーリは混乱していた。
クリスが生死をかけて戦っているのに力になれない不甲斐なさ、会えなくなるかもしれない不安に胸が締め付けられる。
そして心を落ち着かせようと思い、
神殿の広場にあるベンチに腰掛けた。
「クリス…
私の気持ち分かってるのかな…」
過去の世界でクリスに命を救われてから、
一緒に楽しく過ごすのを夢見て生きてきた。
ようやく叶うと思ったが願いも叶わない。
手を額に当てて綺麗なテティスの空を見上げていると、そこに見知らぬ女性が近づいてくる。
「貴方は…
ハイエルフの方ですか?」
ユーリに声をかけたのは最近になりもう一人の聖女と呼ばれ始めた人物、
ハイエルフのサラだった。
ユーリはその質問に一瞬戸惑うが賢者の言っていた言葉を思い出す。
賢者は周りに溶け込むために、
ユーリを更に高貴な姿にしておいたと言っていた。
「ハイエルフですよ…」
「やっぱりそうなのですね!
私も同じ種族なので、
お会いできて嬉しいです…」
そしてサラは満面の笑顔でユーリの手を取る。
突然のことでユーリは驚いてしまうが、
怪しまれないように平静を保った。
「ユーリさん、ハイエルフでしたら、
ぜひ紹介したい人がいるのです」
するとサラは強引にユーリの手を引いて歩き出し、ユーリも断ることが出来ないまま付いて行ってしまう。
そしてこの出会いがユーリの今後を左右してしまうことになるとは思いもしない。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
獣人の少年ガルムを救ったクリスは、
宿屋で賢者との通話を試みていた。
「おい、クリス聞こえるか?」
結局、昨日は一度も繋がらず、試練が何なのか全く分からなかったが、ようやく賢者との通信が回復した。
「良かった、やっと繋がった…」
「すまんな…
遠距離メガネは見えていたが、
通信機だけ繋がらなくてな…」
俺の視界は賢者の持つ遠距離メガネに繋がっているのを忘れていた。
これから視線は気をつけた方が良いかもしれない。
「聖剣の試練だが、対象者が旅立つと、
聖剣に文字が刻まれるんだ…
その文字が試練の内容だ」
一体どんな文字が刻まれたのか気になる。
その文字次第で試練の難易度が変わってしまう。
「その文字は、
記憶の世界の聖剣に触れる、だ」
この世界の聖剣に触れるということは、
持ち主である人物と接触が必要ということになる。
「賢者、聖剣の持ち主って、
やっぱり…」
「安心しな、クリス…
まだ、アイツは聖剣を手にしていない」
「へ?」
そうなると一体誰が持っているのだろう?
当てもなく探すのは難しいにも程がある。
「私だよ…」
「賢者、今よく聞こえなかった…
もう一回言って!」
「だから、この時代で聖剣持っているのは、
私なんだよ!」
俺は驚きを隠せない。
まさかこの時代の聖剣の所持者である賢者に会いに行くなんて…
「それなら楽勝ですね…
だって本人のアドバイス聞けますから」
本人に色々聞ける訳だから先回りも可能だ。
しかし賢者は、声を荒げながら言葉を発してきた。
「馬鹿者!
この時代の私は転生者で英雄扱いだ…
会うためには功績を作らなければ会えない」
賢者と呼ばれるだけの偉大な人物に簡単に会うことは不可能だ。
俺はこの短い期間で、手っ取り早く功績をあげないといけない。
「まあ、私が気に入りそうな素材を
持っていけば良いんだ…」
「なるほど…
それなら直ぐに許可されるのですね」
これから賢者好みの仕事や魔物を退治をすることになる。
そして最短距離で賢者に会う事が可能だ。
何しろ本人のアドバイスがあるのは助かる。
「まずは、リブル山の火龍退治だな」
「嫌です…」
俺は何故か食い気味に断ってしまった。
流石に記憶の世界とはいえ龍退治は嫌だ。
普通に考えられば12歳の子供が龍に勝てるわけないだろう…
「お、お前、ちゃんと話は聞け!
火龍は火龍でも幼体だから安全だ」
「いや、でも…」
そしてこの後、会話が数十分と続いたが、
賢者が全く引き下がらない様子から火龍退治を引き受けようと諦めた。
「わ、分かりました…」
「火龍の素材が手に入れば、
私は必ずお前に会うよ…
喉から手が出るほど欲しいからな」
賢者自身が教えてくれた火龍退治は、
クリスだけでなくある人物にも重要な意味を持っていた。
そしてその人物との出会いは、クリスにとって生涯忘れられない思い出となるのであった。
意外にも足が速くカートは追いつく事が出来ない。
その姿を見失ってしまった。
「はぁ…はぁ」
クリスに会いたくても会えない悲しみが押し寄せていたが、修行の事情を聞き更にユーリは混乱していた。
クリスが生死をかけて戦っているのに力になれない不甲斐なさ、会えなくなるかもしれない不安に胸が締め付けられる。
そして心を落ち着かせようと思い、
神殿の広場にあるベンチに腰掛けた。
「クリス…
私の気持ち分かってるのかな…」
過去の世界でクリスに命を救われてから、
一緒に楽しく過ごすのを夢見て生きてきた。
ようやく叶うと思ったが願いも叶わない。
手を額に当てて綺麗なテティスの空を見上げていると、そこに見知らぬ女性が近づいてくる。
「貴方は…
ハイエルフの方ですか?」
ユーリに声をかけたのは最近になりもう一人の聖女と呼ばれ始めた人物、
ハイエルフのサラだった。
ユーリはその質問に一瞬戸惑うが賢者の言っていた言葉を思い出す。
賢者は周りに溶け込むために、
ユーリを更に高貴な姿にしておいたと言っていた。
「ハイエルフですよ…」
「やっぱりそうなのですね!
私も同じ種族なので、
お会いできて嬉しいです…」
そしてサラは満面の笑顔でユーリの手を取る。
突然のことでユーリは驚いてしまうが、
怪しまれないように平静を保った。
「ユーリさん、ハイエルフでしたら、
ぜひ紹介したい人がいるのです」
するとサラは強引にユーリの手を引いて歩き出し、ユーリも断ることが出来ないまま付いて行ってしまう。
そしてこの出会いがユーリの今後を左右してしまうことになるとは思いもしない。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
獣人の少年ガルムを救ったクリスは、
宿屋で賢者との通話を試みていた。
「おい、クリス聞こえるか?」
結局、昨日は一度も繋がらず、試練が何なのか全く分からなかったが、ようやく賢者との通信が回復した。
「良かった、やっと繋がった…」
「すまんな…
遠距離メガネは見えていたが、
通信機だけ繋がらなくてな…」
俺の視界は賢者の持つ遠距離メガネに繋がっているのを忘れていた。
これから視線は気をつけた方が良いかもしれない。
「聖剣の試練だが、対象者が旅立つと、
聖剣に文字が刻まれるんだ…
その文字が試練の内容だ」
一体どんな文字が刻まれたのか気になる。
その文字次第で試練の難易度が変わってしまう。
「その文字は、
記憶の世界の聖剣に触れる、だ」
この世界の聖剣に触れるということは、
持ち主である人物と接触が必要ということになる。
「賢者、聖剣の持ち主って、
やっぱり…」
「安心しな、クリス…
まだ、アイツは聖剣を手にしていない」
「へ?」
そうなると一体誰が持っているのだろう?
当てもなく探すのは難しいにも程がある。
「私だよ…」
「賢者、今よく聞こえなかった…
もう一回言って!」
「だから、この時代で聖剣持っているのは、
私なんだよ!」
俺は驚きを隠せない。
まさかこの時代の聖剣の所持者である賢者に会いに行くなんて…
「それなら楽勝ですね…
だって本人のアドバイス聞けますから」
本人に色々聞ける訳だから先回りも可能だ。
しかし賢者は、声を荒げながら言葉を発してきた。
「馬鹿者!
この時代の私は転生者で英雄扱いだ…
会うためには功績を作らなければ会えない」
賢者と呼ばれるだけの偉大な人物に簡単に会うことは不可能だ。
俺はこの短い期間で、手っ取り早く功績をあげないといけない。
「まあ、私が気に入りそうな素材を
持っていけば良いんだ…」
「なるほど…
それなら直ぐに許可されるのですね」
これから賢者好みの仕事や魔物を退治をすることになる。
そして最短距離で賢者に会う事が可能だ。
何しろ本人のアドバイスがあるのは助かる。
「まずは、リブル山の火龍退治だな」
「嫌です…」
俺は何故か食い気味に断ってしまった。
流石に記憶の世界とはいえ龍退治は嫌だ。
普通に考えられば12歳の子供が龍に勝てるわけないだろう…
「お、お前、ちゃんと話は聞け!
火龍は火龍でも幼体だから安全だ」
「いや、でも…」
そしてこの後、会話が数十分と続いたが、
賢者が全く引き下がらない様子から火龍退治を引き受けようと諦めた。
「わ、分かりました…」
「火龍の素材が手に入れば、
私は必ずお前に会うよ…
喉から手が出るほど欲しいからな」
賢者自身が教えてくれた火龍退治は、
クリスだけでなくある人物にも重要な意味を持っていた。
そしてその人物との出会いは、クリスにとって生涯忘れられない思い出となるのであった。
0
お気に入りに追加
1,270
あなたにおすすめの小説

最強賢者の最強メイド~主人もメイドもこの世界に敵がいないようです~
津ヶ谷
ファンタジー
綾瀬樹、都内の私立高校に通う高校二年生だった。
ある日、樹は交通事故で命を落としてしまう。
目覚めた樹の前に現れたのは神を名乗る人物だった。
その神により、チートな力を与えられた樹は異世界へと転生することになる。
その世界での樹の功績は認められ、ほんの数ヶ月で最強賢者として名前が広がりつつあった。
そこで、褒美として、王都に拠点となる屋敷をもらい、執事とメイドを派遣してもらうことになるのだが、このメイドも実は元世界最強だったのだ。
これは、世界最強賢者の樹と世界最強メイドのアリアの異世界英雄譚。
転生幼女が魔法無双で素材を集めて物作り&ほのぼの天気予報ライフ 「あたし『お天気キャスター』になるの! 願ったのは『大魔術師』じゃないの!」
なつきコイン
ファンタジー
転生者の幼女レイニィは、女神から現代知識を異世界に広めることの引き換えに、なりたかった『お天気キャスター』になるため、加護と仮職(プレジョブ)を授かった。
授かった加護は、前世の記憶(異世界)、魔力無限、自己再生
そして、仮職(プレジョブ)は『大魔術師(仮)』
仮職が『お天気キャスター』でなかったことにショックを受けるが、まだ仮職だ。『お天気キャスター』の職を得るため、努力を重ねることにした。
魔術の勉強や試練の達成、同時に気象観測もしようとしたが、この世界、肝心の観測器具が温度計すらなかった。なければどうする。作るしかないでしょう。
常識外れの魔法を駆使し、蟻の化け物やスライムを狩り、素材を集めて観測器具を作っていく。
ほのぼの家族と周りのみんなに助けられ、レイニィは『お天気キャスター』目指して、今日も頑張る。時々は頑張り過ぎちゃうけど、それはご愛敬だ。
カクヨム、小説家になろう、ノベルアップ+、Novelism、ノベルバ、アルファポリス、に公開中
タイトルを
「転生したって、あたし『お天気キャスター』になるの! そう女神様にお願いしたのに、なぜ『大魔術師(仮)』?!」
から変更しました。

転生したおばあちゃんはチートが欲しい ~この世界が乙女ゲームなのは誰も知らない~
ピエール
ファンタジー
おばあちゃん。
異世界転生しちゃいました。
そういえば、孫が「転生するとチートが貰えるんだよ!」と言ってたけど
チート無いみたいだけど?
おばあちゃんよく分かんないわぁ。
頭は老人 体は子供
乙女ゲームの世界に紛れ込んだ おばあちゃん。
当然、おばあちゃんはここが乙女ゲームの世界だなんて知りません。
訳が分からないながら、一生懸命歩んで行きます。
おばあちゃん奮闘記です。
果たして、おばあちゃんは断罪イベントを回避できるか?
[第1章おばあちゃん編]は文章が拙い為読みづらいかもしれません。
第二章 学園編 始まりました。
いよいよゲームスタートです!
[1章]はおばあちゃんの語りと生い立ちが多く、あまり話に動きがありません。
話が動き出す[2章]から読んでも意味が分かると思います。
おばあちゃんの転生後の生活に興味が出てきたら一章を読んでみて下さい。(伏線がありますので)
初投稿です
不慣れですが宜しくお願いします。
最初の頃、不慣れで長文が書けませんでした。
申し訳ございません。
少しづつ修正して纏めていこうと思います。

神様の願いを叶えて世界最強!! ~職業無職を極めて天下無双する~
波 七海
ファンタジー
※毎週土曜日更新です。よろしくお願い致します。
アウステリア王国の平民の子、レヴィンは、12才の誕生日を迎えたその日に前世の記憶を思い出した。
自分が本当は、藤堂貴正と言う名前で24歳だったという事に……。
天界で上司に結果を出す事を求められている、自称神様に出会った貴正は、異世界に革新を起こし、より進化・深化させてほしいとお願いされる事となる。
その対価はなんと、貴正の願いを叶えてくれる事!?
初めての異世界で、足掻きながらも自分の信じる道を進もうとする貴正。
最強の職業、無職(ニート)となり、混乱する世界を駆け抜ける!!
果たして、彼を待っているものは天国か、地獄か、はたまた……!?
目指すは、神様の願いを叶えて世界最強! 立身出世!

異世界に転生したのでとりあえず好き勝手生きる事にしました
おすし
ファンタジー
買い物の帰り道、神の争いに巻き込まれ命を落とした高校生・桐生 蓮。お詫びとして、神の加護を受け異世界の貴族の次男として転生するが、転生した身はとんでもない加護を受けていて?!転生前のアニメの知識を使い、2度目の人生を好きに生きる少年の王道物語。
※バトル・ほのぼの・街づくり・アホ・ハッピー・シリアス等色々ありです。頭空っぽにして読めるかもです。
※作者は初心者で初投稿なので、優しい目で見てやってください(´・ω・)
更新はめっちゃ不定期です。
※他の作品出すのいや!というかたは、回れ右の方がいいかもです。

【完結】投げる男〜異世界転移して石を投げ続けたら最強になってた話〜
心太
ファンタジー
【何故、石を投げてたら賢さと魅力も上がるんだ?!】
(大分前に書いたモノ。どこかのサイトの、何かのコンテストで最終選考まで残ったが、その後、日の目を見る事のなかった話)
雷に打たれた俺は異世界に転移した。
目の前に現れたステータスウインドウ。そこは古風なRPGの世界。その辺に転がっていた石を投げてモンスターを倒すと経験値とお金が貰えました。こんな楽しい世界はない。モンスターを倒しまくってレベル上げ&お金持ち目指します。
──あれ? 自分のステータスが見えるのは俺だけ?
──ステータスの魅力が上がり過ぎて、神話級のイケメンになってます。
細かい事は気にしない、勇者や魔王にも興味なし。自分の育成ゲームを楽しみます。
俺は今日も伝説の武器、石を投げる!
転生したから思いっきりモノ作りしたいしたい!
ももがぶ
ファンタジー
猫たちと布団に入ったはずが、気がつけば異世界転生!
せっかくの異世界。好き放題に思いつくままモノ作りを極めたい!
魔法アリなら色んなことが出来るよね。
無自覚に好き勝手にモノを作り続けるお話です。
第一巻 2022年9月発売
第二巻 2023年4月下旬発売
第三巻 2023年9月下旬発売
※※※スピンオフ作品始めました※※※
おもちゃ作りが楽しすぎて!!! ~転生したから思いっきりモノ作りしたいしたい! 外伝~

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる