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第108話 涙

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クリスは聖剣技の強化のために聖剣の記憶の世界に旅立った。
そしてその翌日、クレア達はその情報を聞き水の神殿に向かっている。


「な、なんだ、この水の扉…
 開けることも出来ないぞ…」


せっかく神殿前に来たが、神殿のカギを持っておらずクレア、ユーリ、カートは中に入ることができないでいた。


賢者は、クレア達が神殿まで来れるよう本部の職員に伝えていたが、鍵を渡すのを忘れてしまった。
神殿の入り口には誰もおらず途方に暮れている。


「くそ!
 これでは中に入れないではないか…」


クレアが苛立っていると、
よく知る人物に声をかけられる。


「母上、何をやってらっしゃるのですか?」


クレアの娘、アリス・レガードである。
クリスが聖剣に吸収されたのを目の当たりにして気絶してしまい、ようやく起きて戻ろうとしていたのだ。
そこに偶然クレア達に遭遇した。


「アリス、良いところに来た!」


アリスは首を傾げているがアリスの持つ鍵によりクレア達も入り口を通過できた。
そしてユーリは、ようやくクリスに会えると、胸が躍っている。


「あ、あねご…
 変じゃないよね?」


「ふふふ、綺麗だよ…
 クリスのやつ驚くぞ」


今のユーリは、幻惑の腕輪で高貴な容姿に変化している。
それだけでなくクレアは、綺麗なドレスを買ってユーリに着せていた。
そのドレスを着た姿は美しく、今のユーリを見たら、きっとクリスも惚れ直すだろうと、クレアは楽しみで仕方なかった。


そして賢者がいる部屋へクレア達は向かっていく。


「クリス!賢者!」


クレアが大声で二人を呼ぶ。
するとその声に気付いたのか賢者が現れた。


「クレア、遅かったな~
 どこ行ってたんだ?」


「師匠、遅いなじゃないですよ!
 入れなくて大変だったんですから」


クレアは入り口を通過するのに苦労した事を伝えた。
カートもテティスまで来たが目的を果たせないのでは報われないところだった。


「すまなかったな、
 だが今は一大事だ…
 お前達もちょっと来い…」


そしてクレア達を隣の部屋へ連れていく。
するとマリアとシャルロットもその部屋にいるがクレア達はその事実に驚愕する。


「な、なんだって!
 クリスが、聖剣に吸収された?」


クレアは今の状況を理解できない。
カートは聖剣と同調したという摩訶不思議な話を聞かされて空いた口が塞がらない。


そしてずっとクリスと離れ離れになってしまい、まともに言葉を交わせなかった者が
ついに限界を迎えてしまう。


「ユーリ…」


ユーリが泣き出してしまった。
ルミナス魔宝祭を一緒に回ることができたが大勢の人が集まってしまい話せなかった。
それ以降はずっと会えていない。
婚約者だが全く触れ合えず離れ離れになってしまったのだ。


「あ、あねご…
 わたしは…」


ユーリの瞳に涙が溢れてしまう。
クリスと楽しく過ごしたくて、テティスまで来たが既にクリスは別世界へ旅立ってしまった。


「クレア、ユーリ…
 すまないね…」


賢者がクレア達に全ての事情を説明する。
そして勇者襲撃に備えてクリスを記憶の世界へ送ったと伝えた。


「そんな事に…」


するとユーリは自分の悲しみの矛先をどうすれば良いのか分からなくなってしまった。
クリスは仕方のない事情で旅立っている。
最愛の人が苦しむ今、隣で力になれないのが悔しくて仕方ない。


「あねご、ちょっと私…
 頭冷やしてくる…」


ユーリは、色々な感情がせめぎ合い気持ちの整理がつかず混乱している。
そのため外の空気に当たりたいと一人で出てしまった。


「お、おい、ユーリ!」


クレアはユーリの背中を追いかけようとしていたが、賢者はカートに追わせる。
そしてクレアへと向き合い話し始めた。


「クレア…
お前にも言わなければならない事がある…」


「師匠?」


賢者は今まで以上に厳しい表情へと変わっている。
その真剣な眼差しは修行の時以来でクレアは緊張してしまう。




「お前にも記憶の世界に飛んでもらう」




「はい?」




クレアはその言葉に衝撃を受けた。
クリスは同調スキルで聖剣と同調したと聞いた。
それをまさか自分も行うとは思いもしない。
しかし、賢者の表情は真剣そのものだ。


「勇者はお前よりも遥かに格上だ…」


伝説の存在である勇者。
未知数の存在を前にクレアは、自分の実力が通用するのか分からないでいた。


「だが、手がない訳ではない」


賢者はニヤリと笑みを浮かべた。
そしてクレアに小さいカプセルのような薬を授ける。


「この薬には、先ほどのクリスの
 同調スキルと同じ成分が入っている…」


クレアは、目の前の薬に驚きを隠せない。
この薬を飲めば聖剣と同調できるのだ。
普通に考えれば、そんな薬を渡されても怖くて飲めないだろう。


「疑うのも無理はない…
 現実世界なら後二日間しか猶予はないが、
 記憶の世界なら時間は十分にある…
クリスと同じ試練を受けてお前も強くなれ」


賢者は、残された時間でクレアにも未来を託した。
そしてクレアを送り込む理由はもう一つある。


「クレア、頼む…
 記憶の世界でクリスを助けてくれ…
これから必ず危機を迎えるだろう」


クレアは過去にクリスから救われていたことを思い出していた。
自分は本来なら死んでいたはずが、クリスのおかげで今も幸せに暮らす事が出来ている。
最愛の息子の危機であれば、母として助けに行くのは当然だと考えた。





賢者からクリスの危機を知らされ、クレアも記憶の世界に旅立つことになった。
その賢者の判断は、クリスを救うだけでなく未来を切り開く英断となっていく。
しかし悲しみに暮れるユーリと、ある人物が遭遇する。
その出会いによって歯車は少しずつ狂い始めてしまう…
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