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第105話 陰謀

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クリス達が研究所で事件を解決した後、
クレア達も食事処で昼食を済ませていた。


「はぁ~美味しかった」


ユーリの目は、ハートのようになっており、
まさに至福の時を過ごしたようだ。
その様子をクレアとカートは微笑ましく見つめていた。
思えば今日までずっと元気がなく、
ユーリの笑顔を見ていなかった。


「ユーリ、良かったよ…
 お前が元気になって」


「あねご…
 ありがとう」


ユーリを小さい頃から子供のように育てて、クレアはユーリが可愛くて仕方ない。
まるで親子のように寄り添う姿に、
カートは感心していた。


「本当の親子みたいだよな」


「何言ってるんだ、カート
 私たちは、親子に決まっている
 それに本当の母になるしな」


ユーリは感極まって泣きそうになっていた。
クレアとは固い絆で結ばれていると自分でも思っていたが、口にして言われると込み上げるものがある。


ユーリが目をキラキラさせながら見つめてくるので、クレアは何だか照れ臭くなってしまった。


「ま、まあ何だ…
 早くクリスとの孫を見せてくれ」


「あ、あ、あねご!」


孫という単語を言われて突然焦り出してしまうユーリ。
それを見てクレアは、笑顔でおちゃらけた、ユーリが好きだと改めて思う。
そしてクレアは更にユーリの困った顔が見たくなってしまう。


「なんだお前、
 クリスの子供が欲しくないのか?」


そのクレアの言葉を聞き、一瞬停止する。
そしてユーリは、クリスとの子供を想像してみるみるうちに顔を真っ赤にしていく。


「あ、あねご~」


「ふふふ、
 なるべく早く見せてくれよ」


クレアは、優しく微笑みながら、
ユーリに声をかける。
普段と変わらない風景だが、二人にとっては愛情を確かめ合っていた。


「そうだ、ユーリ…
 これから服でも買いに行こう」


クレアはユーリを連れて水の都を満喫しようと思っていた。
水の都は街並みだけでなく、服や装飾品も美しい。
絹を中心とした衣料が盛んで有名だ。
クレアは、優雅な衣装を身に纏ったエルフとすれ違ってから、絶対ユーリにも着せたいと思っていた。


「クレア、服なんかに興味あったのか、
 てっきり戦いのことしか興味ないのかと」


「カート、お前
 一度死んでみるか?」


カートはつい思ったことを口にしてしまい、
クレアの逆鱗に触れてしまう。
言ってしまってから焦り出している。


「まあ、今日は許してやろう…
 ユーリ、行くぞ!
 せっかく来たんだ、楽しもう!」


そしてクレアはユーリの手を引き、
水の都を歩き始めた。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



クリス達は魔導具研究所を出て、
教会本部に戻っている。
そして研究所が魔族に支配されていた件を、教皇が謝罪する。


「よく戻ってくれた!
 魔族に侵入されたと聞いている…
 迷惑かけてすまない」


「ところで、私たちを呼んだのは、
 理由があるんだろう?」


賢者は事前に大事な話があると教皇から聞かされていた。


「あぁ、すまないな…
 君達を呼んだのには理由がある…」


眉間に皺を寄せて教皇はその事実を告げる。
表情からして重要な問題だと察する。






「勇者がテティスに侵入したとの
 報告を受けた…」






教皇からの衝撃的な事実を告げられた。
世界の敵である勇者の侵入。
そして、それは聖剣の契約者の二人を脅かす存在だ。


「な、何だと…」


賢者もその事実に戸惑いを隠せない。
これほど動揺する賢者は未だかつて見たことがない。


「奴の狙いは、聖剣か?」


賢者が勇者の狙いを教皇に問う。
その賢者の問いに教皇は無言で頷いた。


「聖剣の儀式の日程は変えられない…
 スキルを得られる日が決まっているからだ」 


「そうなると三日後か…」


三日後に聖剣の儀式を行う予定だが、
勇者襲来が予測される。
更に賢者の隙を見てウンディーネの契約の腕輪を奪った者もいる。
三日後の聖剣の儀式に向けて複数の陰謀が重なり合っていた。


そして、賢者がこの絶望的な状況を打破するための作戦を考えた。


「おい、ラグナ…
 今すぐに水の神殿の儀式の間を貸せ!」


「は?」



賢者の予想外の言葉に全員が言葉を失う。
一体何の目的があるのか全く分からない。


「まあ、ちょっとした訓練みたいなもんさ
 残りの期間で聖剣技のレベルを上げる」


聖剣技のレベル上げのために、
あらかじめ水の神殿に入ってしまう。
賢者の奇抜な発想に度肝を抜かれていた。


「そんなことをして危険じゃないの?」


シャルロットが襲撃されるかもしれない場所での訓練は危険だと意見を述べた。


その言葉に賢者はニヤリと笑みを浮かべる。


「ラグナ、水の魔法のレベルが高ければ、
 神殿の防御を強化できるだろう?」


「だが、相当レベルが高くないと
 駄目だぞ…」


そして賢者は、クリスの水魔法がレベル8に
至っていることを伝えた。


「な、何だと…
 化け物か?」


教皇は、驚きを隠せない。
レベルの高い水魔法使いは、このテティスで優遇される。


「それであれば、防衛できるかもしれない」


賢者の作戦に対して、教皇も許可を出した。
残り三日間、儀式の間を借りて、
襲撃に備えて聖剣技を強化する。
しかし、クリス達はまだ隠された陰謀に気付けていない。
その悪意に巻き込まれていくことになるとは思いもしないのだった。
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