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第104話 解決

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賢者が通信機で告げた事実からクリスは、
魔導具研究所の所長の首を見ることにした。
すると擬態スキルの証拠であるアザを発見したのだ。
至近距離でマリアが話しているため、
クリスは無事に回避する策を必死に考えていた。


「賢者、魔族はどんな種類の奴だった?」


「インプだね
 下級悪魔さ…」


下級悪魔のインプはそれほど脅威ではない。
しかし武術などの肉体的な訓練を受けていないマリアが至近距離で攻撃を受けると死に至るかもしれない。


「よし、ここは一芝居打つか…」


俺は、会話によって所長とマリアを引き離す作戦に出ようと考えた。


「所長さん、
 ちょっとこっちに来てください」


「ん?どうしたんだい?」


所長はマリアと楽しく話してるのを邪魔されて苛立ちを見せている。
その表情に俺は理性を抑えきれなくなりそうだが何とか堪えた。


「なんか…
 変な首輪が落ちてるんですけど」


「な、何だと、見せてみろ」


凄い勢いで所長は近づいてくる。
そして俺はマリアとの距離が開いたのを確認して神速スキルで所長の背後に回る。


「やはり下級だったね…」


「な、何だと」


そして相手の首筋に手刀を当て気絶させた。
一瞬のことで、他の女性陣は驚いている。


「な、何があったのよ」


「賢者様、作戦成功だよ…」


俺と賢者の連携によって魔導具研究所の悪事を暴き解決に導いた。
そして疑問に感じている女性陣に説明する


「賢者様が15階で魔族を発見して
 調査したところ、この人も魔族みたい」


その事実を聞き三人揃って驚愕していた。
何しろ魔族が潜り込んでいるとは思いもしない。


「あの、そろそろ解いていい?
 緊張でアリス耐えられない」


アリスは幻惑の腕輪での偽装に耐えられないため解除するとようやく元気を取り戻した。
そして賢者が上階に来るよう呼ぶため全員で15階へ向かうことになった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



賢者は15階に潜んでいた魔族を全て撃破して、捕まっていた職員を救出していた。
そしてエレベーター前まで俺達を迎えにきたのだ。


「賢者様!」


「アリス、良くやったじゃないか
 名演技だったぞ」


褒め上手な賢者にアリスは照れる。
しかしマリアもかなり頑張って時間稼ぎしていただけに苦労が報われたのか複雑な心境だった。


俺は、そんなマリアを見て声をかけようと思った。


「マリア、俺のために頑張ってくれて
 ありがとう…」


感謝は相手に言葉にしなければ伝わらない。
俺はリーナから教えられていたのを思い出した。
するとマリアもあの苦労が報われたのが嬉しくて輝かしいほどの笑顔を見せている。


「えへへへへ」


久しぶりに小悪魔なマリアが出てきて俺の腕を攫ってしまった。
マリアの腕と絡まってしまい抜け出す事はできない。


「ちょっとマリア…」


みんなの前なので恥ずかしい…
周りの女性陣はジト目で俺達を見ている。
特にアリスの目は厳しい。


「お、お兄様!
 ここは敵地になったのですよ」


珍しく正論が妹から飛び出て、たじろいでしまう。
そんな時に兄は適当なことを言って誤魔化すのだ。


「あははは、仕方ないじゃん
 まあ落ち着けって」


「お、落ち着いてられません」


そして埒があかなくなったので、
シャルロットが賢者へと問いかける。


「賢者様、捕らえられた職員は?」


シャルロットが質問すると、全員で職員が捕らえられている場所へと向かうことになった。


「ほら、アンタ達も、
 イチャイチャしてないで行くわよ」


「お、お姉ちゃん!」


マリアが掴んでいた腕を離してしまい、
それはそれで残念に思ってしまった。



そして15階の実験室に到着すると、
全員がその光景に言葉を失ってしまう。


「これって、何?」


「光の粒子にならないギリギリを見定めて、
 魔力の吸収を繰り返していたのさ」


その光景に俺は怒りに震えてしまう。
賢者もその気持ちを察して声をかけてくれた。


「クリス、その怒りを忘れるな…
 魔族は合理的に考える一族だ
 目的のためなら手段は選ばない」


以前賢者から聞いた言葉を思い出していた。
合理的に考える一族だからと言って、
目の前に広がる光景を許せる訳がない…


そして賢者は被害者から魔力を完全に抜き取り光の粒子にして解放させた。
その光は儚げに消え去っていく。


「賢者、俺は魔族を絶対に許さない」


「あぁ、私も同じだよ…
必ず落とし前をつけてもらおうじゃないか」


亡くなった方のためにも魔族討伐を誓い合う。
そして生き残った人々を連れて教会本部へと戻ることにした。


しかしここで賢者は気づく。
魔力を吸収していたはずの契約の腕輪がないことに。
先程はこの場所に置かれていたのを確認していた。


「け、契約の腕輪が無くなっている」


「な、何ですって?」


シャルロットが驚き焦っているのは契約の腕輪の恐ろしさを知っているからだろう。


「何者かが私の隙を見て回収しただと?」


賢者がエレベーター前まで俺達を迎えに行った一瞬の隙に回収した者がいる。
そんな芸当が出来るとしたら余程の実力者である事は間違いない。


「大変なことになってしまった…
 吸収した魔力は全て腕輪に宿っている」


賢者は殺された方を弔ってから契約の腕輪を回収しようと思っていた。
しかしこの後に起こる被害を考えると、
腕輪を肌身離さず持つべきだったと後悔した。


「賢者様…」


「挽回するしかないね…
 奴らに契約の腕輪が渡ってしまった」


魔力を蓄えたウンディーネの契約の腕輪は、
大量の眷属を呼び出してしまう。
そしてテティスを侵攻するだろう。
ルミナスでは奇跡的に侵攻を退けたが、
奇策は二度目となれば通用しない。
賢者はいずれ来る侵攻に向けて対策を考えるのであった。
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