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第84話 虚像

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クレアの目の前まで迫ったバルガス。
バルガスの悪の手がクレアへ伸びる。


「やはり連れてきて正解だったな」


クレアが捕らえられるその瞬間、
死角からの剣撃がバルガスを狙う。



「雷神剣」



雷の魔法剣は鋼の肉体に電撃を通していく。
バルガスは重度の麻痺を受けた。
そして雷魔法を使える者はルミナスで唯一人だけだ。


「お前を連れてきて正解だよ。
 アリス…」


クレアの娘であるアリスが突如参入した。
クレアは、アリスに魔力制御の才能があると踏んで訓練を徹底的に繰り返した。
そしてやはりアリスは天才だった。
その修行で魔法剣を独自に編み出したのだ。


「な、何だと」


バルガスは急に身体が重くなり更に自由にスキルが使えない症状を体感していた。
まさに重度の麻痺だと速度低下だけでなくスキルも制限されてしまう。
バルガスにとっての天敵はアリスなのだ。


「き、貴様!」


バルガスは怒り狂いアリスに向かっていく。
しかしアリスはニヤリと笑みを浮かべた。
訓練の最大の成果は魔法剣ではない。
クレアによって仕込まれた雷魔法による身体強化だ。
それも足のみ部分的に強化をすることにより高速移動を可能にする。


「き、消えただと…」


アリスは、なんと雷魔法の身体強化によりクレアの神速を再現した。
そしてスピードに特化した攻撃を繰り出していく。


「雷神剣」


後方の死角から雷の魔法剣を当てていく。
そして更に麻痺が上書きされる。
自慢のスキルを封じられたバルガスは更に苛立っている。


「す、凄い」


ユーリは同居人のアリスの実力に驚愕していた。
クリスやユーリは過去の世界で賢者との修行を乗り越えて強くなった。
しかし、アリスはたった半年だが驚異的な成長速度で駆けあがろうとしている。
ユーリは、本物の天才を目の当たりにする。


「雷魔法、厄介だな」


シンは固有魔法同士の戦いは初めてだった。
戦況からしてもアリスを転移魔法で退場させることが一番効果があると判断した。

しかし隙を見せないアリスにシンも苛立ちを見せる。
結果的にバルガスとシンはアリス唯一人に翻弄されていたのだ。


「なるほど、その力が一番魅力がある、
 そう言うことだな」


バルガスはアリスに翻弄されたことで雷魔法こそ最も強力だと言うことに気づく。


「まずはお前からだ…」


シンもバルガスの意図に気づく。
アリスの上空に転移魔法のゲートを呼び出し少しずつアリスへオークを落としていく。
先程と同じようにオークを出してしまうと、
ユーリに全て凍らされてしまうからだ。


「な、何だと…」


アリスの上空からオークが落ちていく。
広範囲にではなく数量を限定することでクレアとユーリの動きは制限されてしまった。


「シンよ、流石だな…
 良い作戦だ」


バルガスは身体全体に地属性魔法の身体強化を纏わせて突進してきた。


ユーリは上空のオークを凍らせるのに精一杯だ。
クレアもバルガスとオークのニ方向へ光の剣を飛ばしているため狙いが定まらない。


「ふははは、当たらないぞ」


アリスへと迫るバルガス。
そしてアリスの目前まで到達してしまった。


「その力、俺のものだ!」


アリスへと迫るバルガスの手。
その瞬間、クレアのよく知る人物が現れる。









「次元結界」








アリスの周りを時空魔法の結界が覆う。
攻撃も回復も受け付けない結界だ。


「こ、これはまさか…」


時空魔法もまた世界で使える人物は唯一人しかいない。


「ロゼ!」


バルガスは後少しのところでアリスを手中に収められると思っていたが、時の賢者ロゼの結界によって邪魔されてしまった。


「し、師匠!」


クレアは心から歓喜していた。
大事な愛娘を殺されるのは我慢ならない。
ここぞと言うところで賢者が救ってくれたことに安堵している。


「みんな、待たせたね」


賢者はニヤリと笑みを浮かべた。
今回の作戦で賢者がこの場所まで到達することが重要だった。
それまではクレア達が時間稼ぎ出来るかに作戦の成功がかかっていたのだ。
そしてアリスの介入により達成してみせた。


「アリス、良くやったね!
 抱きしめてやりたいくらいだよ」


賢者の懸念を解消してみせたアリス。
賢者はアリスの才能に惚れ惚れしていた。


「許さんぞ、ロゼ」


バルガスは過去に賢者に散々やり込められた経験があり目が血走っている。
賢者を見るだけで頭に血が昇ってしまうのだ
そして、その時シンは異常を感じ取る。


「な、なんだ…
 転移魔法が使え…ない」


「ふふふ、やっと気づいたね…
 結界を張り巡らせたんだよ」


賢者の結界魔法で転移魔法を封じ込めた。
この場に賢者がいる限りシンは転移魔法を使えない。
そしてシンはその事実に納得出来ない。


「ありえない…
 俺達は城に侵入するときに、
 結界を破壊した筈だ」


「ふふふ、幻だったんじゃないかい?」


賢者は耳に装着された通信機に手を当てる。
そして今回の作戦が成功したことを告げた。


「クリス、大成功だ…
 解除して良いぞ…」


突如のことだった。
賢者がその言葉を発した瞬間に、
辺り一面の景色が変わる。



「な、何だ…
 何が起きている…」


バルガスもシンも状況を理解できない。
まやかしの世界が真実へと変わっていく。
周りの景色は気づけば城ではなく、
旧魔法学園の中央校舎、大広間に変わった。


「こ、これは…」


シンはようやく理解する。
幻惑魔法で虚像を見せられていたことに。


「分かったようだね…
 お前達が攻めた場所も殺した奴も
 全てはまやかしさ」


融合魔法によってクリスの幻惑魔法と賢者の結界魔法を融合した。
融合魔法の結界をルミナス中に張り巡らせたのだ。


「幻惑結界さ…
 元々ルミナスにいる人物には効かないが、
 侵入した者は騙される」


クリスに用意させた魔法の筒で大魔法を発動したのだ。
殆ど犠牲を出さずに旧魔法学園へ誘導してみせた。


「クソ、クソ、クソが!」


シンは全て賢者の掌の上で転がされていたことを受け入れられない。
更に賢者が目の前にいることで転移魔法が使えない。



そして、更に賢者は耳に付いた機器へ手を当てる。


「気をつけろ、そろそろ奴が来る筈だ
 奴だけには幻惑結界は効いていない」


ここまで極秘の計画は全て成功した。
しかし間違いなく城でも死闘を迎えていく。
賢者は愛してやまない弟子の無事を心から祈った。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



城内を走りながら逃げていく。
まだ敵はそれほどに侵入していない。


「はぁ……はぁ」



「マリア様、後少しです…」


キャロルに手を引かれマリアは逃げていく。
城門で襲撃があった場合、別の出口から非難する。
その出口は訓練所を通過しなければならない。



そして訓練所に到達すると、
ある人物が目の前に現れる。







「剣聖セシル」






キャロルは信じられないでいる。
何故、目の前にセシルがいるのか。
襲撃があった場合、セシルへの指示は城の警護ではない。



「見つけたわ、マリア様」



セシルは邪悪な笑みを浮かべる。



「……………」



「マリア様、私と一緒に行きましょう
 ここよりも楽しい世界に」



キャロルはセシルの様子がおかしい事に気づく。
こんなセシルは未だかつて見たことがない。



「何を言ってるんだ、
 セシル…」



「そう、ここよりも楽しい
 死の世界にね……」



そしてゆっくりとルミナスの剣聖は、
マリアへと近づいていく…






そして、その瞬間……













「インフェルノ」











セシルの足元に大きな魔法陣が生まれ、
強烈な火柱がセシルを包み込む。
間違いなくルミナスの中では最強格の火魔法
レベル4インフェルノ。



「やっぱりあんただったのね…セシル…」



インフェルノの炎が消えていく中、
暗黒のオーラを身に纏うセシルが呟く。




「あなたは……シャルロット殿下」




マリアの姉であるシャルロット・ルミナス…
ここから間違いなく激しい死闘が繰り広げられる。
しかし、その様子を見ていたマリアは笑みを浮かべているのであった…
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