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第63話 時空を超えて

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家族へ別れを告げた夜から清々しい朝を迎える。
そして今日は、この世界で過ごす最後の日。
俺は一日を思う存分楽しむと決めている…
まずはイリーナさんを訪ねて、通い詰めるカートさんを揶揄った。
カートさんはとても焦っていたけどそんな顔を見るのも楽しい…
そして母上、ユーリと一緒に昼食を食べる…
二人と笑いながら食べる食事は幸せな光景だった。
そんな時間がずっと続けば良いのにと思ってしまう。
その最後の瞬間を噛み締めるように大切に味わった…


しかし楽しい時間はあっという間に過ぎるものだ。
今はユグドラシルの大樹を前に全員が集まっている。
ついに旅の終わりを迎えたのだ。
本来のいるべき場所へ帰る時が来た…


「クリス、これからお前を未来へ送る…
 ちょうど黒騎士に出会ってすぐだ」


「あの、元々未来に存在する俺は、
 どうなるのでしょうか?」


未来の賢者とフィリアを救うには、二人が生きている時間に飛ばなければならない。
そうなると、そこにクリス自身も存在している。


「術式を変えてある…
 未来のクリスと存在が融合する。
 まあ、上書きに近いな…」


なんだか少し怖いと思ってしまう…
だが最初からこのために過去に遡ってきた。
今更立ち止まることは出来ない…


「なぁ、クリス…
 お前とは10年後に会えるんだよな?」


クレアは、もう一度会える事を切に願った…
そしてクリスも母親の目を見てしっかりと頷く…


「それならお前に見合う、
 誇らしい息子に育てないとな…」


今もレガードの家にいる二歳のクリスのことを言っている。


「母上……」


そしてユーリがクリスへ告げる。
その瞳は少し潤んでいる…


「クリス…
 待ってるから…ずっと…」


「ユーリ…また会おう…
 絶対に…」
 

ユーリの言葉が胸に響く。
俺もこの世界でユーリに会えて良かった…


「さぁ、そろそろ時間だ…」


賢者は、魔法の筒を飲み干していく。
その身体の周りに黄金に輝く魔力が溢れる。
そしてユグドラシルの枝を媒介に大魔法を発動させた。


クリスの足元に大きな魔法陣が現れる。
その魔法陣が現れた瞬間に、
クレアとユーリが叫ぶ。


「クリス!
 お前との日々、絶対に忘れないからな」


「母上!」


俺は目の前の母親に感謝しても仕切れない。
自分を産んでくれただけでなく、
こんなにも認めて愛してくれる…
それだけで俺は…


「私は……クリスが…
 クリスのことが…大好き!」


ユーリがありったけの思いを言葉にした。
その言葉は苦しいほどに胸に響く…


「ユーリ……ありがとう…」


大切な家族の想いを胸に時空を超えていく。
決して後ろは振り向かない…
前だけを向いて…
未来へ飛び立っていく…





◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







そして、時は流れる…








場所は、因縁の地であるエルフの里…
そして今も壮絶な戦いが繰り広げられている。





「はぁ……はぁ」





賢者は、肩で息をしている。
黒騎士相手に近接戦闘を繰り広げ相手を弾き飛ばしたが想像以上に体力を消耗していた。



そしてセトは、業物の剣を装備し始め、
魔界最強の剣技を繰り出そうとしている。



「殴り合いの中…
 剣の装備は卑怯じゃないかい?」



「戯れにも飽きた…
 一思いに殺してやる」



黒騎士セトが剣での攻撃を繰り出そうとした瞬間…



結界に閉じ込められているクリスの方で激しい次元の歪みが現れる…
その衝撃音が里に響き渡り戦闘を中断させる。


「な、何だと…」


黒騎士は、突然の時空魔法の波動に驚愕している…
目の前にいる賢者は何もしていない。
しかしこの波動と魔力は確かに賢者のものだ。



その瞬間、賢者はニヤリと笑みを浮かべる。


「ふふ、ようやく来たね…
 待ちくたびれたよ」


時空魔法による結界は外からは何も受け付けないが、中からは攻撃により破壊できる。
そして目の前の結界に亀裂が走っていく。


「クリス君?」


フィリアも驚きを隠せない…
クリスを閉じ込めるために賢者が結界魔法をかけたはずだった。
しかしそれをいとも簡単に破壊しようとしている。



そして結界はガラスのように割れ、その中から現れた人物は全速力で駆け抜けていく。
あっという間に黒騎士の目前に迫り強烈な蹴りで弾き飛ばす。


フィリアは、自分よりも遥かに洗練された強化格闘術に驚きを隠せない。
更にクリスは相手に時間を与えず追撃する。
水魔法バブルバレットを放ち反撃の隙を与えない。


「遅かったぞ…クリス」


「おまたせ、賢者!」


賢者はクリスに文句を言いたかった。
待たされた十年は余りに長かったのだ。


「本当にクリス君なの?」


クリスはフィリアの問に無言で頷く。
そしてフィリアに声をかける。


「賢者の元へ、
 後は、俺がやる」


フィリアは、数分前のクリスとは全くの別人のようだと感じた。
クリスは、規格外の四天王を目の前にしても怯えるどころか自信に満ち溢れている。


「クリス、頼んだよ」


賢者は、そんなクリスを見てやはり過去から時空を超えてきたのだと実感する。
目の前にいるのは間違いなく十年前に一緒に旅をしたクリスだ。


「先程とは比べ物にならない魔力、
 しかもロゼよりも上の格闘術…
 面白い」


そしてクリスは姿を変え覇王を発動させ、
覇王の輝きが里に広がり溢れていく。
光溢れる覇王の輝きは、時空を超えても尚衰えることはない。
むしろクリスの意志に応じるかのように更に強まっていく。


「黒騎士、覚悟しろよ!」


そして全身に全ての身体強化をかけて、
黒騎士に急接近していく。


「は、覇王だと?
 貴様、何者だ!」


黒騎士セトは、ルミナス初代国王との間に因縁があった。
覇王との戦いに誰よりも執着している。
それだけに目の前に現れた覇王を放つ存在に興味が尽きない。
そしてその輝きを懐かしいとさえ感じてしまう。


「クリス・レガード…
 時空を超えて…
 黒騎士セト、お前を倒す者だ!」


過去へ遡り沢山の仲間と出会い、
共に困難を乗り越えて成長したクリス。
己の全てを懸けて黒騎士セトへと挑んでいく……
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