上 下
59 / 182

第59話 海の支配者

しおりを挟む
一夜明けて魔宝祭は終わった。
昨日の活気は嘘だったかのように里は静寂に包まれている。
いわゆる祭りの後だ。
まだ片付けも終わっておらず、
エルフ達は今日も仕事をするのだろう。
百年に一回のイベントは、ようやく終わりを迎えたのだ…


そんな中、クリス達はクラーケン退治に向かうため里の近くの港に来ている。


「みんな集まったな…」


賢者は、全員が集まったのを確認したため、船に乗るよう指示した。
しかし、ここに予想外の二人の来訪者が現れる。


「おじちゃーーん、頑張ってね~」


一人目はイリーナの妹だ。
昨日カートが店の手伝いをしているうちに妹に懐かれたのだ。
クラーケン退治に行くので見送りに来た。


「カートさん、気をつけてくださいね」


二人目はイリーナである。
何とカートは、昨日の魔宝祭で最高金額の売上を達成してしまった。
イリーナは、見たこともない桁の大金を手にしたのだ。
当然ほとんどカートの功績だろう。
しかし男を見せたカートは、全てをイリーナ姉妹に捧げたのだ。
まさに愛である。


「い、イリーナさーーん!」


元気よく手を振るカート。
その光景を見たクレアは驚く。
意外にも上手くやっているじゃないかと感心していた。


「カート、お前やっぱり残るか?」


無理矢理同行させたのは、クレアだ。
何だかカートの大事な時間を奪ってしまっている気がして心苦しくなってきたのだ。


「いや、クラーケンを退治すれば、
 王都に一緒に行けるからな…」


昨日までのカートとは一味違う。
今回のクラーケン退治に一番燃えているのは、意外にもカートなのだ。


「カートさん、頑張ってください」


クリスはカートの恋を心から応援していた。
そして船に乗り込んだのを確認して、賢者が一声かける。


「海の支配者と言われるクラーケンだ。
 気合い入れてくよ…」


賢者が言うには魔物の中でも魔法を操る特異種がいる。
報告では王国騎士団の船は、水魔法によって沈められたとあった。
討伐対象は特異種の可能性が高い。
更に今回の目的は特異種を退治するだけでなく、その魔力を筒に収めることだ。


「クラーケンって食べれる?」


ユーリが真剣な眼差しで言う。
クラーケンを食べるという発想が無かったので、クリスは一瞬固まる。


「イカやタコみたいなものなのか?
 食べてみたい?」


「食べてみたい!」


目をキラキラ輝かせながら言うユーリ。
どんな味がするか楽しみで仕方ない様子だ。
涎も垂らしそうになり、ジュルっと口の中に戻した。
クレアは、食材として狩りに行こうと考えているユーリに、呆れを通り越して感心している。


「筒の回収はクレアの役目、
 そしてクラーケンを倒すのはクリスだ」


クレアは、光の剣を足場に空を移動できるため、魔法の筒を回収するのに適任だ。
だが回収するタイミングに関しては、
攻撃参加出来ないだろう。
そうなるとクリスしかトドメをさせないのだ。


「あとは、他の全員で船を守る…」


ここまでが大まかな作戦だ。
そして定刻になり、船は出発する。
クラーケンの出現ポイントまで距離は遠く、目的の場所まで自由行動となった。



「ユーリ、釣りでもするか?」


ふと思い立ったクリスは、
釣りをしようとユーリを誘う。
ユーリは、暇を持て余していたため、
丁度良かったのだろう。


「魚釣り?
 やる!やる!やる!」


ノリノリで返事をするユーリ。
早速始めるが獲物が釣れたのではないかと、
すぐに竿を引き上げてしまう。
クリスは、そんなユーリを見て苦笑する。


賢者は、サリーの奴隷術が気になっていた。
大人数のエルフを操っていたため、
クラーケンも操れるかもしれない。
賢者は、サリーの実力を確認することにした。


「奴隷術でクラーケンは操れるのか?」


「完全には無理ですね…
 一瞬なら何とか…」


身体の大きい対象を操る場合、魔力も比例して必要となる。
サリーの魔力は四天王を超えるが、それでもクラーケン程の大物を完全には操れない。


「それでも戦力としては大きい…
 ここぞの時に使ってくれ…」


「はい…」


その時、釣りに夢中の二人から歓声が聞こえてくる。
クリスが大きな獲物を釣り上げたのだ。
なんと特大の真鯛である。
釣り上げた瞬間にユーリはご機嫌になり、
目がハートマークになっている。


「食べたい?」


うん、うんと首を何度も縦に振っている。
そこに何故か、カートが現れる。
何と板前セットを持って来ており、
真鯛をあっという間に捌いていく。
刺身の完成である。
そしてユーリは、口の中に刺身を入れた。


「ほわぁ~~~」


口の中でとろけたようだ。
その様子を見て幸せそうだとクリスは思う。
ユーリは嬉しそうに海の幸を満喫している。
一同は、クラーケンの出現する場所にたどり着くまで、海の旅を楽しんだ。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




いよいよクラーケンの出現地点まで迫る。
既に全員臨戦体制だ。
クレアは船の中でも1番高い場所、
見張り台にいる。
そこからなら光の剣で敵を狙い空も移動できるからだ。


そしてついに海の支配者と遭遇し、全員が予想していた以上の大きさに驚愕している。


「こ、こんなのを相手にするのか…」


クリスはデスワームよりも更に大きい巨大モンスターに唖然としていた。


「クリス!しっかりしな!」


賢者が注意するとクリスは我に帰る。
どの道クラーケンを倒さなければ、
未来へは帰れないのだ…
ここで尻込みするわけにはいかない。


クラーケンはイカに近い容姿をしている。
そして特異種と予想していた通り、
青白い魔力のオーラを纏っている。


「クレア、光の剣で牽制できるか?」


賢者が指示するとクレアは光の剣を二十本
呼び出し、クラーケンめがけて放っていく。
しかしクラーケンもバブルバレットを放ち、剣と弾丸が衝突し相殺されてしまう。


「な、光の剣が…」


特異種だけありクラーケンの魔力は強大だ。
レベル3水魔法でこれほどの威力。
そしてクラーケンに濃密な魔力が溢れる。
この波動に賢者は見覚えがあった。


「まずい…この波動は…
 水と風の融合魔法…」


クラーケンは高レベルの魔法を放ってくる。
水と風の融合魔法、バブルハリケーン。
以前にエレノアが融合魔法を使っていたが魔界でも使用者は限られていた。
それだけに高位の魔法なのだ。


「クリス!今すぐに覇王を発動して、
 全力で迎え撃て!」


即座に賢者は警笛を鳴らした。
クリスは賢者からの指示に従い、
姿を変えて覇王を発動した。
海原にクリスの覇王の光が輝いていく。


迫り来るハリケーン。
あまりの突風に近場にある手すりや、荷物に捕まっていなければ飛ばされてしまう。


そしてクリスは覇王の一撃を放った。
覇王の光とぶつかり竜巻魔法は消滅したが、溢れる覇王の光により何も見えなくなってしまう。


「みんな、無事か?」


賢者が全員に安否確認を行う。
声が聞き取れてひとまず安心したのも束の間、光が収まるとクラーケンが目前に迫りつつあった。


「マズイ!
 みんな回避しろ!」


大きな足が甲板へと振り払われた。
賢者はギリギリのところで結界魔法の発動に成功したが、衝撃までは抑えきれなかった。


「クレア!」


ゲイルが大声で叫ぶ。
クレアは、あまりの衝撃に見張り台から飛ばされてしまう。
船から海へ落ちる寸前でユーリがクレアを庇い、ユーリは海に落ちていく。


「ユーリ!!」


ユーリの決死の覚悟によってクレアは救われたが、クラーケンの嵐の魔法によりユーリを見失ってしまう。
悲鳴にも近いクレアの声が響く…
今にも助けに入ろうとするクレアをゲイルが抑えている。



何か、何かないのか…
ユーリを救う手が…



クラーケンの攻撃により、ユーリは海に落ちてしまった。
海に潜り救う手段を誰も持っていない。
このままではせっかく救ったユーリを死なせてしまう…
絶対絶命の状況の中、一人の少女が口を開く。
そして、その言葉が危機的状況を切り開いていく…
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。 それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく…… ※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。 ホットランキング最高位2位でした。 カクヨムにも別シナリオで掲載。

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

転生した社畜は異世界でも無休で最強へ至る(旧題|剣は光より速い-社畜異世界転生)

丁鹿イノ
ファンタジー
【ファンタジア文庫にて1巻発売中!】 深夜の職場で人生を終えた青桐 恒(25)は、気づいたらファンタジーな異世界に転生していた。 前世の社畜人生のお陰で圧倒的な精神力を持ち、生後から持ち前の社畜精神で頑張りすぎて魔力と気力を異常に成長させてしまう。 そのうち元Sクラス冒険者である両親も自重しなくなり、魔術と剣術もとんでもないことに…… 異世界に転生しても働くのをやめられない! 剣と魔術が存在するファンタジーな異世界で持ち前の社畜精神で努力を積み重ね成り上がっていく、成長物語。 ■カクヨムでも連載中です■ 本作品をお読みいただき、また多く感想をいただき、誠にありがとうございます。 中々お返しできておりませんが、お寄せいただいたコメントは全て拝見し、執筆の糧にしています。 いつもありがとうございます。 ◆ 書籍化に伴いタイトルが変更となりました。 剣は光より速い - 社畜異世界転生 ~社畜は異世界でも無休で最強へ至る~ ↓ 転生した社畜は異世界でも無休で最強へ至る

賢者の幼馴染との中を引き裂かれた無職の少年、真の力をひた隠し、スローライフ? を楽しみます!

織侍紗(@'ω'@)ん?
ファンタジー
 ルーチェ村に住む少年アインス。幼い頃両親を亡くしたアインスは幼馴染の少女プラムやその家族たちと仲良く過ごしていた。そして今年で十二歳になるアインスはプラムと共に近くの町にある学園へと通うことになる。  そこではまず初めにこの世界に生きる全ての存在が持つ職位というものを調べるのだが、そこでアインスはこの世界に存在するはずのない無職であるということがわかる。またプラムは賢者だということがわかったため、王都の学園へと離れ離れになってしまう。  その夜、アインスは自身に前世があることを思い出す。アインスは前世で嫌な上司に手柄を奪われ、リストラされたあげく無職となって死んだところを、女神のノリと嫌がらせで無職にさせられた転生者だった。  そして妖精と呼ばれる存在より、自身のことを聞かされる。それは、無職と言うのはこの世界に存在しない職位の為、この世界がアインスに気づくことが出来ない。だから、転生者に対しての調整機構が働かない、という状況だった。  アインスは聞き流す程度でしか話を聞いていなかったが、その力は軽く天災級の魔法を繰り出し、時の流れが遅くなってしまうくらいの亜光速で動き回り、貴重な魔導具を呼吸をするように簡単に創り出すことが出来るほどであった。ただ、争いやその力の希少性が公になることを極端に嫌ったアインスは、そのチート過ぎる能力を全力にバレない方向に使うのである。  これはそんな彼が前世の知識と無職の圧倒的な力を使いながら、仲間たちとスローライフを楽しむ物語である。  以前、掲載していた作品をリメイクしての再掲載です。ちょっと書きたくなったのでちまちま書いていきます。

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

転生をしたら異世界だったので、のんびりスローライフで過ごしたい。

みみっく
ファンタジー
どうやら事故で死んでしまって、転生をしたらしい……仕事を頑張り、人間関係も上手くやっていたのにあっけなく死んでしまうなら……だったら、のんびりスローライフで過ごしたい! だけど現状は、幼馴染に巻き込まれて冒険者になる流れになってしまっている……

放逐された転生貴族は、自由にやらせてもらいます

長尾 隆生
ファンタジー
旧題:放逐された転生貴族は冒険者として生きることにしました ★第2回次世代ファンタジーカップ『痛快大逆転賞』受賞★ ★現在三巻まで絶賛発売中!★ 「穀潰しをこのまま養う気は無い。お前には家名も名乗らせるつもりはない。とっとと出て行け!」 苦労の末、突然死の果てに異世界の貴族家に転生した山崎翔亜は、そこでも危険な辺境へ幼くして送られてしまう。それから十年。久しぶりに会った兄に貴族家を放逐されたトーアだったが、十年間の命をかけた修行によって誰にも負けない最強の力を手に入れていた。 トーアは貴族家に自分から三行半を突きつけると憧れの冒険者になるためギルドへ向かう。しかしそこで待ち受けていたのはギルドに潜む暗殺者たちだった。かるく暗殺者を一蹴したトーアは、その裏事情を知り更に貴族社会への失望を覚えることになる。そんな彼の前に冒険者ギルド会員試験の前に出会った少女ニッカが現れ、成り行きで彼女の親友を助けに新しく発見されたというダンジョンに向かうことになったのだが―― 俺に暗殺者なんて送っても意味ないよ? ※22/02/21 ファンタジーランキング1位 HOTランキング1位 ありがとうございます!

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

処理中です...