上 下
39 / 182

第39話 友達

しおりを挟む
翌日になり港町ミゲルの入り口まで歩く。
待ち合わせの時間だ。
門には母上、ユーリと既に到着している。
さてこれからどんな旅になるのだろうか。
母上との旅を今は心ゆくまで楽しもう。


「おはよう、クリス!」


「おっすー、クリス!」


「お二人とも、おはようございます」



これから、ミゲルを出て道路を歩く
この先は森へと続く。
でも、なぜ…



「あの、ところで…
 何で海から行かないのでしょうか?」


「あ~クリスは知らなかったのか!
 1週間前にクラーケンが出てね。
 ミゲルの船は殆ど壊滅…」


「え……」


クラーケンなんているの?
海で遭遇したら一瞬で沈没じゃないか。
前回は遭遇しなくて本当に良かった…


「だから陸路からしか道はないの」


「そういうことですか」


陸路だと、どんな経路なんだろう。
俺達だと日数は、どれくらいなのかな。


「ちなみにどう言うルートで、
 行くんですか?」


「この精霊の森を抜けてジルコット山脈、
 更に迷いの森を抜けた先に
 エルフの里があるわ」


なるほど…
精霊の森→ジルコット山脈→迷いの森
この3つが主なルートになるわけね。


「あの、お二人はどこが、
 目的地なのですか?」


「………」


急に黙ってしまうユーリ。
母上も少し考える素振りを見せると、
口を開く。


「そうね、今は秘密…
 もうちょっとしたら、教えてあげる」


「は、はい…」


「………」


何か話したくないことでもあるのだろうか…
一旦は聞かないほうが良さそうだ。




しばらくすると森の奥から魔物が現れた。
ワイルドボアが2匹だ。


「ちょうど良い、クリス、ユーリ、
 お前達で戦ってみろ!」


モンスターが現れたことで戦闘開始になり、
俺とユーリで一体ずつ相手をして闘う。


「さて、クリスのスキルと、
 戦い方を見せてもらうぞ」


ワイルドボア一体が俺に突進してくる。
俺は強化格闘術でいなしていく、
距離ができると同時に足に向けて水魔法の弾丸を二発飛ばす。
足の自由を奪った所で、強化格闘術の蹴りをお見舞いした。


「まあ、こんな感じですね…
 水魔法と強化格闘術です」


「クリス、やるじゃないか!
 最小限の動きでまとめているし、
 誰かに師事しているのが分かる!」


「まぁ、そんなところです」


貴方の弟子に師事してるんだよと言いたい…
でも、この時代のフィリアはまだ小さな子供だろうけど…


「ユーリも!ユーリも!」


次はユーリの番だ。
俺が先ほどの猪を倒したせいで怒っている。
そのままユーリに向けて突進を繰り出してきた。


「アイシクル!」


ユーリの魔力により、地面が凍る。
突進をしてきたワイルドボアは、
そのまま滑ってしまい木に正面衝突した。

その後、ユーリは氷の槍を呼び出して、
ワイルドボアにとどめを刺した。


「おお!凄い」

氷魔法なんて初めて見た。
簡単に槍の形状に変えたのを見ると、
魔力制御のレベルの高さが窺える…


「ユーリ!天才!天才!」


物凄く嬉しそうにドヤ顔をしている…


「ふふふ!見たか!あねご」


「まあ、お前にしては効率的に、
 出来たじゃないか」


「あ、あ、あねごが誉めた……」


母上が誉めてくれた事が、
予想外だったのか驚いているようだ。



「わ、私だって褒めるぞ」



母上は少し頬が赤く心外な表情をしている。



「2人とも良くやったな!
 ワイルドボアも効率的に狩れてるわ。
 2人とも弱点を突いたのが素晴らしいわ」




そして、2人の力の確認を終えると共に、
母上の空気が一瞬変わる。




「クリス、気づいてるか?」


「はい、後方から5人に尾行されてます」


町からの尾行に気づいていたため、
母上は極力戦闘には参加せずに後方への警戒を強めていた。



「前からも5人歩いてきているようだ」



「…………」



人間が現れるとユーリの様子が硬くなる。
微妙な変化に俺は気づいた。



「あのー、人探しをしてるんですけど……」


「誰を探している?
 私たちと面識はないようだが…」



装い自体は、普通の村人に見える。
だが、不気味な笑みと口調から怪しさを感じる。



「俺たちが探しているのは、
 魔女なんですよ」



「ま、魔女………」


魔女という単語を聞いた途端、
ユーリは動揺している。
まるで発作のように身体を震わせて、
身体を抑えながらうずくまってしまう。


「ユーリ!聞くな!」


母上は大声を張り上げるが、
発作に苦しむユーリに届かない。



「私のユーリに酷いことをするなら、
 ただで済まないぞ!」


「俺たちはな、魔女狩りだよ!」


魔女狩りという単語に、更に震えるユーリ。
それをみた母上怒りに震えている。


「これ以上…
 その下衆な声を聞かせるな!」



母上は光の剣を20本呼び出し、話しかけてきた前方の者たちを一撃で全滅させる。


「ふははは、素晴らしい!」


「おまえら!」


俺は、ユーリに駆け寄り背中をさする。
妹のようなユーリの苦しむ姿を放っておけない。


「クリス……わたしは」


「ユーリ!大丈夫だ…
 俺はここにいる」


この時のユーリに友達は1人もいない。
家族すら親しいものは既に亡くなっている。
生まれてこの方一人で生きていかざるを得なくなった。
そこを任務で旅をしていた母上に拾われたのだ。
そして唯一だが友達と呼べる相手になりつつあるのが俺だったのだ。


「クリス…わたしを、
 きらいにならないで…」


震えながら涙を流す。
やっとなれるかと思った友達が離れてしまう事にユーリは耐えられない。


「あははは、魔女に友達か…
 出来るわけないだろ!
 お前に流れてるんだからな!
 魔女の血が」



「いや……ク…リス、
 きか…ないで…」



魔女の血が流れるという事実に、
ユーリは生まれてから苦しんできた。
そしてせっかく親しくなれる者に、
絶対に聞かれたくなかった事実。


【魔女】という単語が何なのか、
俺には分からない。
だが、差別される存在であったとしても、
ユーリが苦しむ必要はないはずだ。


「お前ら、言ったはずだ!
 これ以上、その汚らしい声を聞かせるな」


そして更に母上は光の剣を20本呼び出して、後方の者達へと飛ばし全滅させた。


「ユーリ!もう大丈夫だ…
 やつらは全滅させた!」


母上はユーリを抱きしめる。
そして抱きしめた腕に力をこめて、
言葉を告げていく。


「ユーリ、お前は既に私の家族だ!
 だから、必ず見捨てたりしない!」


ユーリは、涙を流しながら母上に抱きつく。
無言だがゆっくりとその言葉に頷いていく。
俺はその姿を見て、ユーリの事を全く知らなかったと痛感する。


ユーリはふざけて母上に突っかかっていた。
それは、一緒にいてくれる母上への愛情表現だったのだ。
そして母上も理解していため、
いつも本気では怒らずに優しい表情を浮かべながら接してきていた。




「ユーリ…
 俺のことも忘れるなよ」




魔女がどんな意味なのか俺には分からない。
それに今はまだ聞くべきではない。





「……クリス?」




他の誰が何と言おうと関係ない。
俺が誰と友達になろうと文句は言わせない。







「もう既に……俺たちは友達だよ」




その言葉を聞いた、ユーリは涙は流していても、今までで1番綺麗な笑顔をしていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

恋物語

m
青春
中学生の時の恋が大人になってそれぞれ終わりを迎えるまでの4人の恋物語です。 小説をこうして書くのは初めてですのでアドバイスや感想いただけると嬉しいです。 よろしくお願いします!!

姉が婚約破棄した彼と結婚して、新婚旅行に行くのだと思っていたら、未開の地に辿り着きましたが、本望です

珠宮さくら
恋愛
双子の姉妹ナニラとリムナは、家庭教師の報告を真に受けて、肝心の娘たちのことを見てくれない両親に誤解されていた。 そのせいで褒めるのは、ナニラだけ。出来の悪いリムナが姉の邪魔をしないようにされてきた。 そんな、リムナは一度でも姉に勝てたら両親に褒めてもらえるのではないかと考え、ナニラが婚約破棄した彼と婚約することになる。 わだかまりもとけて、双子はお互い大好きだったことがわかったのだが、肝心の破棄になった理由を知らないまま、リムナは結婚して新婚旅行に行くのだと思いこんで、辺境の地にたどり着くことになるが、落ち込むことなく気持ちを切り替えて、新しい生活を送る。 ※全7話。予約投稿済。

可愛くてピュアなBL短編集✩.*˚

立坂雪花
BL
今まで書いた 可愛くてピュアなBL短編集を まとめたい。 ☆。.:*・゜

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

スキルで快適!異世界ライフ(笑)

夜夢
ファンタジー
若くして死んだゲスい彼「工藤 蓮(23)」は現代文明から中世文明ほどの農民の子へと異世界転生し現在15才。 あまり文明の発達していない世界でもっと快適な生活を送りたいと思った彼は、真面目に勉強した。神からスキルを貰った彼は豹変し、異世界改革に乗り出す。 そんなお話。 ただのエロ小説になるかも。 ※不定期更新です。思いついたら書くので…。

すれ違う道

むちむちボディ
BL
色々と絡み合う恋の行方はどうなるのでしょうか?遅咲きの2人が出会う恋物語です。

冷遇ですか?違います、厚遇すぎる程に義妹と婚約者に溺愛されてます!

ユウ
ファンタジー
トリアノン公爵令嬢のエリーゼは秀でた才能もなく凡庸な令嬢だった。 反対に次女のマリアンヌは社交界の華で、弟のハイネは公爵家の跡継ぎとして期待されていた。 嫁ぎ先も決まらず公爵家のお荷物と言われていた最中ようやく第一王子との婚約がまとまり、その後に妹のマリアンヌの婚約が決まるも、相手はスチュアート伯爵家からだった。 華麗なる一族とまで呼ばれる一族であるが相手は伯爵家。 マリアンヌは格下に嫁ぐなんて論外だと我儘を言い、エリーゼが身代わりに嫁ぐことになった。 しかしその数か月後、妹から婚約者を寝取り略奪した最低な姉という噂が流れだしてしまい、社交界では爪はじきに合うも。 伯爵家はエリーゼを溺愛していた。 その一方でこれまで姉を踏み台にしていたマリアンヌは何をしても上手く行かず義妹とも折り合いが悪く苛立ちを抱えていた。 なのに、伯爵家で大事にされている姉を見て激怒する。 「お姉様は不幸がお似合いよ…何で幸せそうにしているのよ!」 本性を露わにして姉の幸福を妬むのだが――。

平凡だった令嬢は捨てられた後に覚醒する 〜婚約破棄されたので、無敵の力で国を救います〜

 (笑)
恋愛
婚約者である王太子アランに突然婚約破棄を告げられ、全てを失った貴族令嬢リディア。しかし、それをきっかけに彼女は自らに宿っていた強大な力に目覚める。周囲から冷遇され、孤立した彼女だったが、新たな力を手にしたことで、過去の自分から脱却し、未来に向かって歩き出す決意を固める。 一方で、王宮内には不穏な陰謀が渦巻いていた。アランの婚約者となったセリアが王国を掌握しようと暗躍していることを知ったリディアは、王国を守るために戦うことを決意。自らの新たな力を駆使し、陰謀に立ち向かうリディアの成長と戦いが描かれる物語です。 強大な魔法を持つリディアが、王宮に潜む陰謀を暴き、自分自身の未来を切り開いていく壮大な物語が、ここに始まります。

処理中です...