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第29話 信じる想い

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大騒ぎとはいかないまでも、王族との食事会は賑やかで楽しいものだった。
あれから帰宅はしているが翌日にもう一度父上と共に城に来るように言われている。
客間ではあり広めのテーブルに椅子を並べて囲む。


「クリスよ、連日済まないな」


「陛下、昨日は大変お世話になりました」


「うむ、今日は楽にして良いからな」


とは言っても周りには数名役人がいるため、
緊張するのは確かだ。


「今日呼んだのは、今後についてだ
 魔王復活に向けて手を打つ必要がある
 まずは優先度が高いものとして二つ
 一つ目は賢者への面会
 二つ目は其方の強化だ」


「賢者ですか?」


「初代国王とともに国を守った賢者
 そして転生者でもある彼女は、
 人里離れたエルフの里に隠れ住む」


「ま、まだ生きているんですか?」


前に確かリーナが言っていた賢者。
500年前の話しだよな?
伝説の中だけの人物かと思っていたが、
まさかまだ生きているとは。


「今回、2人を集めたのは理由がある。
 絶対に賢者の場所は秘密だからだ!
 例えマリアやシャルロットにもな」


「な、何か盟約があるのでしょうか?」


勘の鋭い父上が尋ねる。
誰にも知られずに、里を訪ねる。
それは盟約が交わされていると予測した。


「そのようなものだ…
 ルミナスに覇王スキル所持者が現れた時、
 極秘裏にその者だけで賢者を訪ねるように
 言われておる」


「そんな盟約が…
 こちらの対価は何なのでしょうか?」


まさに今回の重要な要素になるわけか。
一体何なのだろう?
賢者が与える物。
魔王復活阻止に必ず必要な物。



「まあ、賢者自身だよ」


「へ?」


「エルフの里に迎えに行き、
 ルミナスまで連れてくるという事だ。
 そして………」


その後のルミナスの防衛や魔王復活阻止に尽力してくれると、ルミナス国王は説明した。


「本当に覇王スキルが開眼したか、
 スキル所持者が迎えに行き、
 直接確認するということですね」


父上がまさに答えに辿り着く。
すると俺は一つ疑問を感じた。


「誰にも伝えられないということは、
 一人でエルフの里に行くのでしょうか?」


「まあ心配するでない…
 この件を盟約上でも許可された人物が
 一人だけいる」



「入れ!」


陛下は説明とともに、ある人物にこの部屋に入るよう指示する。
そして俺は扉を開けた人物に驚愕した。


「フィリアさん!」


宮廷魔術師のフィリアだったのだ。
真剣な顔をしているフィリア。


「クリスよ、婚約を正式に発表した翌日に、
 申し訳ないが、護衛はフィリアだけだ!
 しかし腕は一流なのだ…
 更に道中クリス自身の強化もしてもらう」


これが二つ目の優先事項という部分。
魔法について俺自身の強化、
それをフィリアに師事するということか。
母上の弟子に師事するのは、
運命を感じてしまう。


「へ、陛下!
 婚約して早々に女性と二人旅は、
 大丈夫なのでしょうか?」


父上は冷や汗を流しながら陛下に質問する。
フィリアのことを知っているとはいえ、
婚約を済ませたマリアに失礼にならないか心配なのだ。


「まあ、我もクリスを信じておるが、
 間違いが起きたら仕方あるまい」


はっはっはと笑いながら言い切った。
いやいや、笑い事ではないと思うのだけど。


「陛下、出発はいつ頃になさいますか?」


父上が尋ねる。
確かに少しゆっくりしたいが、
あんまりのんびりしていると騎士魔法学園の試験日に間に合わなくなる。


「クリスとマリアも新設される学園の試験を
 受けてもらうからな。
 申し訳ないが、すぐに旅立ってもらう」


父上は苦笑いしながらも陛下の提案を聞いていく。
俺も大体は予想はできていた。


「あの、マリア殿下にどのように、
 お伝えすればよろしいでしょうか?」


「そうだな、私からも関係国に
 覇王スキルの紹介で旅立ったと伝よう…
 だが、せっかく婚約したのだ。
 明日は一日二人でゆっくり過ごしなさい」


俺は昨日までの幸せの時間があっという間に崩れ去るかのように落胆してしまった。
まさか、婚約して早々に離れ離れになるなんて。


「まあそう落胆するでない…
 早く会いたければ、
 早く帰って来れば良いのだ…」


「そ、そうですね…」


確かにそうではあるが、昨日の陛下の民への諸々の対応を見ていた事もあり、
入念な計画のもと賢者の元へ送り込まれている気がしないでもない。
エルフの里は人里離れた場所だ。
3か月くらいは往復でもかかるだろう。
早く賢者を連れて帰らなければマリアの気持ちが薄れてしまうという心理を利用されている気さえする。


たが結局のところ、俺には賢者の場所に行くしか道はないのだ。


「分かりました…
 可能な限り早く戻ってまいります」


「良い!期待しておるぞ」





◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




あれから陛下と別れて翌日のこと、
陛下の言う通り、マリアと二人で会うことができた。
今はマリアの私室にいる。
陛下から指示が出ているのかは分からないが、キャロルは来ていない。


「あのさ、今日は一日中、
 一緒にいても良い?」


「へ?急にどうしたの?」


マリアはいきなり一緒にいたいと言われた事にドキっとしてしまう。


「言いづらい事ではあるのだけど、
 陛下からのお願い事で国を離れるんだ」


「え………」


予想外すぎる内容に言葉を失うマリア。
まさか婚約して二日後に離れ離れになる話をされるとは思いもしない。


「どうして…」


「内容的に機密もあるから詳しくは言えない
 だけど、俺にしかできない事なんだ」


「そう…だよね」


マリアは必死に言葉を飲み込んでいる。
文句を言いたいが、俺の足枷になってしまうかもしれない。
俺を気遣っているような気がした。



「マリア、本当はさ
 俺めちゃくちゃ行きたくないんだ」


「え?」


「だって、せっかく婚約したし、
 マリアともっと一緒にいたいんだよ」



「クリス……」



その言葉を聞いて、マリアは俺の言葉を信じようと決めたのか笑顔に変わる。


「クリスを信じて待ってるよ……
 だって、これからもずっと一緒なんだし」


頬を赤くしながら話した姿が堪らなく可愛くて、抱きしめたい気持ちに駆られる。


「期間は、どれくらいなのかな?」


「3ヶ月くらいじゃないかな」


その期間を聞いてマリアは、
更に安心した表情を見せる。


「びっくりした!
 5年も10年も会えないのかと思ったよ」


マリアは、聖女としても厳しい環境で生き抜いてきた。
やはり芯が強い女性なのだ。


「ふふふ、早く帰ってくるのを、
 楽しみに待ってるね!」


そうマリアから言われて、
俺は今すぐにエルフの里に行き、
明日には城に戻りたいと思ってしまった。




マリアとの婚約後に俺はエルフの里に旅立つことになった。
それをマリアに伝えたが、マリアは俺を信じて待つと言ってくれた。
そしてその想いに応えようと、
俺は心に誓ったのだった……
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