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第117話 隷属

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水の神殿、第二の儀式の間でラグナ達を前に、
賢者は声をあげて宣言した。


「ラグナ、覚悟はいいだろうね……
 私が叩きのめしてやるよ!」


賢者は高速でラグナに迫り、
強化格闘術による蹴りを繰り出した。
しかし、その間にサラが割り込み防御壁を展開する。


「流石に回復魔法のレベルが高いね……」


そして、ラグナはサラのスカーフを外し、
首輪を見せながら口を開く。


「次期聖女も操り、薬漬けにしながら、
 回復魔法のレベルを上げた」


邪悪な笑みを浮かべながら、今までの行いをまるで自慢するかのように話し始める。


「そこのエルフも同じようにするんだよ」


ゆっくりとユーリに近づき魔の手が伸びる。
賢者も必死に近づこうとするが、
サラの強化された防御壁をくぐり抜ける事ができない。


「ふはははは」


その瞬間、ユーリの悲鳴にも近い声が、
儀式の間に響いてしまう。
隷属の首輪がついにユーリに装着されてしまった。




「これでもう、お前は私のモノだ」




ユーリは、意識を全て隷属の首輪に支配され正気を失ってしまった。


「ラグナ、貴様!」


賢者は目の前でユーリを救うことができず、
唇を噛み締めて悔しがっている。


「これは珍しい……
 氷魔法を覚えているのか」


隷属の首輪の所有者は、操った者のスキルを把握できる。
ラグナは、ユーリに氷魔法を使って賢者を攻撃するよう命じた。


無詠唱のコキュートスが賢者を襲う。
その魔法は数々の試練を乗り越えて強化されている。


「まさか、自分の弟子に、
 追い込まれるとはね……」


ユーリを突破して、ラグナに近づけたとしても、
サラの防御壁によって道を塞がれてしまう。
賢者はここに来て手詰まりに悩まされるが、
事前に指示していた対策が功を奏する。



突如として新たな人物が儀式の間へと侵入した。
その人物は、ユーリにとってかけがえのない人物。



「私のユーリに手を出したな……」



その現れた人物は、ルミナス最強の宮廷魔術師、
クレア・レガードだ。


そして上空に無数の光の剣が現れる。
その光の剣の本数は、クレアの怒りに呼応するように増え続け、瞬く間に儀式の間を埋め尽くした。


「ユーリ、今私がお前を自由にしてやる」


試練を乗り越えたクレアは、操れる光の剣の本数が増え威力も向上した。
そしてそれを見た賢者がラグナへ言葉を発する。



「ラグナ、形勢逆転のようだな……
 ここからは私達が、お前を倒す!」




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




500年前の訓練場でイシスと戦うユリスとガルムに加勢をするために、俺と賢者は身体強化を施した。


「私の封印も解けた……
 これで存分に戦える!」


突如として戦いに賢者が乱入し、
イシスは戸惑いを隠せない。
賢者の蹴りを回避して暗黒魔法を放つが、
その魔法を俺が聖剣でかき消した。


「何故、賢者が復活して……
 それにその聖剣は……」


イシスは、それを見て何かを察したのか、
笑みを浮かべながら囁いた。


「そういう事ね……
 貴方も別の次元から来たのかしら……
 多勢に無勢だし、これ以上は付き合わないわ」


するとイシスは、幻惑魔法を発動して姿を変える。
俺は、その姿を見て驚きを隠せない。
それは決して忘れる事が出来ない人物だからだ。


「セ、セシルだと……」


「あら、私を知っている人だったのね……
 でも残念ね、時の腕輪は発動したわ!
 もうすぐ私は時空を超える」


まだ信じられないでいる。
500年前の賢者の側近の正体はセシルだった。
そして回復魔法使いを狙うために未来へ渡るのが目的だった。


「ふふふ、早くしないと、
 私は未来に旅立つわよ!」


「急げ!奴を行かせるな!」


賢者が大声で叫び、全員に命令する。
ユリス達もイシスが姿を変えたのを見て、
戸惑っていたが賢者の声で目を覚ました。



その時、俺の通信機から未来の状況が聞こえてしまう。



「な、んだと……」



その内容は、ユーリがラグナに操られたというものだった。
事実を知った瞬間、俺の心は怒りで満ちてしまう。
すると聖剣技で繋がるマリアも、同じ気持ちなのが伝った。



「マリア、ありがとう……
 ユーリを大切に想ってくれて……」


その想いが俺を更に奮い立たせる。
そして、マリアから送られる魔力を聖剣に集め続けた。



「俺の大切な人を傷つけるなら、
 誰であろうが容赦しない」



転生してから既に二人がいない未来が考えられなくなってしまった。
例えどんな場所でも、二人のためなら駆けつけてみせる。



「セシル、この一撃で終わらせる!」



光り輝く聖剣を握りしめ聖剣技を放つと、
虹色に輝く光の塊は真っ直ぐセシルに向かった……
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