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第114話 救う者(1)

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クリス達が記憶の世界に旅立っている最中、
教皇は別の目的のためユーリとサラを連れて水の神殿を歩く。

そして教皇に連れられて部屋に着くと、
ユーリは、その部屋が儀式の間と殆ど同じ構造だと気付いた。


「さぁ、ユーリさん、
 その杖を持つんだ」


ユーリは、儀式の手伝いのために神殿に来たが、
何故か儀式で使う衣装を着せられている。
突然のことでよく理解出来ないでいた。


「あの、私は一体何を……」


祭壇の前に立たされて杖を持っている。
この衣装と杖は、聖女が身につける物だ。
しかし、これではまるでユーリ自身が儀式を担うかのように見えてしまう。


「リハーサルだよ……
 試してみるだけ良いじゃないか
 ひとまずその祭壇に立ってくれ」


教皇の言葉に流されている気がしたが、
今更帰ると言えない空気があった。
そして、ユーリはそのまま教皇に従い祭壇に立ってしまう。


「ふははは!」


ユーリが祭壇に立った途端、
ラグナは声を上げて笑う。


「馬鹿め……
 その祭壇は水魔法の結界により、
 抜け出せない牢獄になるんだよ」


ラグナがそう発言したと同時に、
ユーリの周りを水魔法の壁が覆い、
水の牢獄に閉じ込められてしまった。


「な、なんで!」


ユーリはまさか罠に嵌められるとは思いもせず、
自分を利用する理由が分からないでいた。



「お前は、私のために生贄になってもらう」



「え?」



ラグナは邪悪な笑みを浮かべて、
隣のサラに命令を下す。


「サラ、やれ!」


すると回復魔法のプロテクションを発動すると、
水魔法の壁の上に結界を被せて、
物理攻撃でも破壊出来ない結界に強化した。


「それなら、私も魔法で」


「無駄だよ」


ユーリが氷魔法を発動しようとした瞬間、
祭壇の床に描かれた魔法陣が光る。


「発動した魔法は全て祭壇に吸収される!
 祭壇に立った時点で、お前は魔法が使えない」


ユーリは、氷魔法を封じられて、
攻撃手段を持ち得ない。
発動できず悔しさに唇を噛み締めていた。


「残念だ、サラは身体が弱くてな……
 これからの儀式に耐えられない」


更にラグナは嫌らしい笑顔を向けて、
今まで隠していた企みを打ち明ける。



「お前を見つけて、歓喜したよ……
 代わりの生贄が現れたのだからな!」








「さぁ、隷属の首輪で身も心も、
 全て私のモノにしてやる……」








気づけばユーリの瞳は涙で溢れていた。
こんなことのために生まれてきたわけではない。
しかし、檻の中に閉じ込められたままでは、
何も出来ずに操られてしまう。


「クリス、あねご……
 ごめんなさい……」


愛する者達に二度と会えないかもしれないと、
後悔で頭が一杯になってしまった。



そして着々とラグナの魔の手が迫る最中、
ユーリはクリスとの幸せな日々を思い出していた。
全てがユーリの中では色鮮やかで、
幸せな思い出ばかりなのだ。
その日々を思い出しながら、いっそのこと、
このまま幕引きをするか考える。


しかし、きっとクリスを悲しませてしまう。
そう思った瞬間、杖で必死に水魔法の壁を叩く。
手が赤く腫れても必死に、泣きながら叩き続けた。


「いや……だ……
 いやだ……よ」


涙が溢れて止まらない。
ユーリは、既に愛する家族との日々が、
何よりも大切だった。





そして、もう駄目かと思った瞬間……
この部屋の扉を破壊して何者かが侵入する。



「ようやく、たどり着いた……」


その者はクレアの師でもあり、
クリス以外で唯一探知スキルを使える人物、
賢者である。


「ユーリ、お前も私の可愛い弟子なんだ……
 そんなお前をラグナに渡すわけないだろう」


賢者の周りに密度の濃い魔力が溢れ、
身体強化を施す。



「ラグナ、覚悟はいいだろうね……
 私が叩きのめしてやるよ!」



ユーリの危機に賢者が駆けつけてみせた。
賢者が発する言葉は、ユーリだけでなく、
通信機を通してクリスへ届き、心を奮い立たせる。
そして賢者は、ラグナの陰謀を阻止するために、
その拳を握りしめた……
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