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第107話 決闘

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近い未来、剣聖に至る憧れの存在を前に、
俺は戸惑いを隠せない。
初代剣聖に出会えて感動しているが、
何故か剣を向けられているからだ。


「私の子分を泣かせるとはな……
 借金なら返すと言ってるだろ!」


どうやら、俺を金貸しと勘違いしているらしい。
剣を向けて迫るユリスに、俺は緊張で手が震える。
小さい頃から熱狂的な信者の父上から話を聞かされてきた。



「おやびん、違うんです!
 この人は……」


ガルムの泣き腫らした顔を見て、
俺が脅したとユリスは勘違いしている。


「ガルムは黙ってなさい!
 全く、いつも泣き虫なんだから……」


そして俺もまさか予想外の方向へ話が進むとは思いもしない。


「け、決闘よ!
 私が勝ったら借金をチャラにしなさい!」


「はい?」



まさかこの世界で初代剣聖と決闘するとは思わず、
唖然としていると、通信機から賢者の声が聞こえてきた。


「クリス、良い機会じゃないか……
 決闘に勝ったら龍退治を協力させろ!」


賢者の指示に更に戸惑うが、
初代剣聖に自分の力が通用するか興味はあるため、
俺はその指示に従い、愛刀を握りしめた。


「ユリスさん、俺が勝ったらどうするの?」


「き、貴様、私に勝つだと?」


「ア、アニキ、駄目だ!
 その人は……」


俺の言葉を聞き、ユリスは不敵な笑みを浮かべながら高らかに宣言する。


「いいわ、何でも言うこと聞いてあげる!
 その代わり私が勝ったら奴隷よ!」


「………」


勝手に借金の帳消しから奴隷に変更になった。
幸か不幸か、俺が勝てば龍退治を頼める。


「良いですよ……
 多分俺が勝つんで」


その言葉を発した瞬間、
ユリスの空気が変わり突進してきた。
想像以上の速さに驚くが、セシル程ではない。
ユリス・レガードは、12歳のスキル鑑定で、
剣術Lv.6を発現させた化け物だ。
しかし、まだ歳も変わらない今のユリスであれば、
今の俺でも倒すことが出来ると判断する。


衝突の瞬間を狙い攻撃を回避して、
思いきりユリスを蹴飛ばした。
ユリスは、回避できずに弾き飛ばされて、
近場にあった木材に激突する。


「な、何だと……
 この私が……」


自分の剣技に自信があったのか、
見事な返しにショックを隠しきれない様子だ。
その隙に俺はバブルバレットを放ったが、
ユリスも身体強化を施して回避する。


「魔法まで使うのか……
 ならば本気でいくぞ」


高速で迫るユリスに対して、大男との戦闘同様に、
油断するわけにはいかないと判断して、
俺は姿を変えて反撃に出た。


「お、お前、姿が……」


姿を大人に変えた俺に驚いたのか、
一瞬、ユリスの攻撃が遅れる。
その隙を見逃さずに神速で移動して、
真後ろから剣を突きつけた。


「俺の勝ちだ……」


「は、反則だ!
 そ、そんな姿になって卑怯だ!」


何とか勝てて安心していると、
唖然と立ち尽くすガルムが目に入る。



「あ、ア、アニキが天才のおやびんに、
 勝ったなんて……」
 


ガルムがそう声を発した瞬間、
ユリスは、握りしめる剣を落として、
その場に立ち尽くしてしまう。


「ユリスさん?」


「ま、負けた……
 誰にも負けたことないのに……」


そして俺は、龍退治を確約させるために、
勝利の報酬を再確認しようと声をかける。


「あの……勝った時に、
 何でも言うこと聞いてくれるって……」


「な!」


俺は死角から剣を突きつけていたため、
ユリスの顔が見えていなかった。
振り返ったユリスの瞳には、溢れる程に涙が溜まっており、今にも涙が泣き出しそうだった……


「酷い!私を奴隷にして、
 好き勝手するなんて!」


「ア、アニキ!
 それだけは、許してやって……」


何故か話の流れから、
俺が悪者になってしまう。


「いや、奴隷にはしないから、
 その代わり……」


「や、やっぱり変なことするんだ!」


ユリスは泣きながら俺を睨みつける。
もう何が何だか分からなくなっていると、
更に俺に声をかける人物が現れた。




「クリス、お前……
 何やってるんだ?」



「は、母上!」






◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇





ハイエルフのサラに引き連れられて、
ユーリは水の神殿の一室に入ってしまった。


「あ、あの……
 私は人を待たせていて……」


「すぐに終わるよ!
 同族と会えたのは珍しいから、
 ある人に会ってもらいたいんだ」


ユーリの話は聞き入れては貰えず、
そのままサラの言う人物に会うことになる。


「おや?
 君は見ない顔だね……」


サラの言っていた人物とは、
女神教の最高責任者である教皇ラグナだ。


「あの……
 賢者様と一緒に来たユーリです」


「もしかして君はハイエルフかな?」


ユーリを見たラグナは、サラと同様の質問をする。
先程、咄嗟にハイエルフと答えてしまった為、
ユーリは、その問いに無言で頷いた。



「おお、珍しいね!
 君に会えて嬉しいよ……
 私は女神教の教皇ラグナだ」



そう言うとラグナは、
手を差し出しユーリと握手する。


「ユーリさん、
 君はいつまでここに?」


「聖剣の儀式が終わるまでは
 いると思いますけど……」


事前に賢者から予定を聞いていた為、
王が言っていた儀式までは最低でも滞在すると、
会話の辻褄が合うように説明する。


「それは良かった……」


「へ?」


ラグナが怪しい笑みを浮かべた気がしたが、
あまりに一瞬の出来事だった為、
気のせいか分からないでいた。



「そうしたら是非、
 聖剣の儀式の準備を手伝って貰いたい……
 どうかな?」



元々、クリスの力になれない不甲斐なさで、
ユーリは悩み続けて来た。
ラグナは偶然にも、その心の隙をつく発言をしてしまう。


「分かりました……
 是非お手伝いさせてください」


ラグナはその言葉を聞くと、
明日、この部屋を訪れるよう伝える。
そしてユーリと別れた後、
ラグナは表情は少しずつ変化した。



「ふはは……
 これは思わぬところで出会った!」



徐々に邪悪な笑みに変わり、
ラグナは、その本性を露わにする。











「新たな生贄に巡り合えた」










同一人物とは思えない低い声で言葉を発すると、
怪しい笑みを浮かべて、更に独り言を呟く。





「計画まで後少しだ……
 あの力を手に入れ、私が世界の王となる」





まさに賢者の警戒した教皇ラグナの本性だった。
そしてクリスが試練に明け暮れている間、
恐ろしい陰謀が蠢き始めている。
その事にまだ誰も気付けてはいなかった……
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