上 下
105 / 125

第105話 心

しおりを挟む
賢者達が居た部屋を飛び出したユーリ。
意外にも足が速くカートは追いつく事が出来ず、
その姿を見失ってしまった。



「はぁ……はぁ」



会えない悲しみが押し寄せていたが、
修行の事情を聞き更にユーリは混乱していた。
クリスは、生死をかけて戦うが、
力になれない不甲斐なさに情けなく思い、
更に、クリスを失う不安に胸が締め付けられた。



そして心を落ち着かせようと思い、
神殿の広場にあるベンチに腰掛けた。



「クリス……
 私の気持ち分かってるのかな……」



過去の世界でクリスに命を救われてから、
一緒に楽しく過ごすのを夢見て生きてきた。
ようやく叶うと思ったが願いも叶わない。



手を額に当てて綺麗な空を見上げると、
そこに見知らぬ女性が近づいてきた。



「貴方は……
 ハイエルフの方ですか?」



ユーリに声をかけたのは、
最近もう一人の聖女と呼ばれ始めた人物、
ハイエルフのサラだった。



ユーリはその質問に一瞬戸惑うが、
賢者の言っていた言葉を思い出す。
賢者は周りに溶け込むために、
ユーリを更に高貴な姿にしたと言っていた。



「ハイエルフですよ……」



「やっぱりそうなのですね!
 私も同じ種族なので、
 お会いできて嬉しいです!」



そしてサラは満面の笑顔でユーリの手を取る。
突然のことでユーリは驚いてしまうが、
怪しまれないように平静を保った。



「ユーリさん、ハイエルフでしたら、
 ぜひ紹介したい人がいるのです」



するとサラは強引にユーリの手を引いて歩き出し、断ることが出来ないまま付いて行ってしまう。
そしてこの出会いが、ユーリの今後を左右してしまうとは思いもしない。





◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





獣人の少年ガルムを救って、
俺はら宿屋で賢者との通話を試みていた。


「おい、クリス聞こえるか?」


結局、昨日は一度も繋がらず、
試練が何なのか全く分からなかったが、
ようやく賢者との通信が回復する。


「良かった、やっと繋がった……」


「すまんな……
 遠距離メガネで、お前の景色は見えていたが、
 通信機だけ繋がらなくてな……」


俺の視界は、賢者の持つ遠距離メガネに繋がり、
自分の視界と同じように見えている。
つまりは、視線の先に気をつけた方が良いのだ。


「聖剣の試練だが、対象者が旅立つと、
 聖剣に文字が刻まれるんだ……
 その文字が試練の内容だ」


聖剣に刻まれる文字次第で、難易度が変わる。
そのため、文字が何なのか気になっていた。


「その文字は、
 記憶の世界の聖剣に触れる、だ」


この世界の聖剣に触れるということは、
持ち主である人物と接触が必要になる。


「賢者、聖剣の持ち主って、
 やっぱり……」



「安心しな、クリス……
 まだ、アイツは聖剣を手にしていない」



「へ?」


そうなると一体誰が持っているのだろうか。
当てもなく探すのは難しい。


「私だよ……」


「賢者、今よく聞こえなかった!
 もう一回言って!」


「だから、この時代で聖剣持っているのは、
 私なんだよ!」


賢者の言葉を聞いて、俺は驚きを隠せない。
まさかこの時代の賢者に会いに行くなんて……


「それなら楽勝ですね……
 だって本人のアドバイス聞けますから」


本人に色々聞ける訳だから先回りも可能だ。
しかし賢者は、声を荒げながら言葉を発してきた。


「馬鹿者!
 この時代の私は転生者で英雄扱いだ!
 会うためには功績を作らなければ会えない」


偉大な人物に簡単に会うことは不可能だ。
俺はこの短い期間で、手っ取り早く功績をあげないといけない。


「まあ、私が気に入る素材を持っていけば良い」


「なるほど……
 それなら直ぐに許可されるのですね」


これから賢者好みの仕事や魔物退治をすれば、
最短距離で賢者に会うことが可能だ。
何しろ本人のアドバイスがあるのは助かる。


「まずは、リブル山の火龍退治だな」


「はい?」


突然の龍退治と言われて一瞬、頭が真っ白になる。
流石に記憶の世界とはいえ龍退治は嫌だ。
普通に考えられば12歳の子供が龍に勝てるわけない。


「火龍は火龍でも幼体だから安心しな!」


「いや、でも……」


そしてこの後、会話が数十分と続いたが、
賢者が全く引き下がらない為、
火龍退治を引き受けようと諦めた。


「わ、分かりました……」


「火龍の素材が手に入れば、
 私は必ずお前に会うよ……
 喉から手が出るほど欲しいからな」




賢者自身が言う火龍退治は、
ある人物にも重要な意味を持っていた。
そしてその人物との出会いは、クリスにとって生涯忘れられない思い出となるのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使う事でスキルを強化、更に新スキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった… それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく… ※小説家になろう、カクヨムでも掲載しております。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

異世界転移ボーナス『EXPが1になる』で楽々レベルアップ!~フィールドダンジョン生成スキルで冒険もスローライフも謳歌しようと思います~

夢・風魔
ファンタジー
大学へと登校中に事故に巻き込まれて溺死したタクミは輪廻転生を司る神より「EXPが1になる」という、ハズレボーナスを貰って異世界に転移した。 が、このボーナス。実は「獲得経験値が1になる」のと同時に、「次のLVupに必要な経験値も1になる」という代物だった。 それを知ったタクミは激弱モンスターでレベルを上げ、あっさりダンジョンを突破。地上に出たが、そこは小さな小さな小島だった。 漂流していた美少女魔族のルーシェを救出し、彼女を連れてダンジョン攻略に乗り出す。そしてボスモンスターを倒して得たのは「フィールドダンジョン生成」スキルだった。 生成ダンジョンでスローライフ。既存ダンジョンで異世界冒険。 タクミが第二の人生を謳歌する、そんな物語。 *カクヨム先行公開

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

処理中です...