上 下
97 / 125

第97話 教皇

しおりを挟む
俺達は、水の都に到着すると、
住人達が船で移動するのを見た。
まさにこれが水の都と呼ばれる所以なのだろう。

魔力で動く無人の魔導船。
ボートのような形をしており、
中央の装置に魔力を送ると動く仕組みのようだ。

そして到着して間も無く、
魔導船に乗って、女神教の本部に向かっている。



「さて、教会本部が見えてきたわよ」


「し、城?」


教会本部は、まさに城に近い外観をしており、
更に煌びやかな装飾が施されていた。
目の前に広がる施設を見ると、
相応の財力が無ければ建設出来ないと分かる。


そして魔導船を降りて、入り口の方へ歩くと、
職員らしき女性が近付き話しかけてきた。


「お待ちしておりました……
 ルミナスの皆様ですね、こちらへ」


職員の女性は、そのように言った後、
俺達を施設の入り口に案内する。
ふと入口に整列する騎士達を見ると、
職員がその疑問について答えた。


「彼らは教会の中で、
 聖騎士団と呼ばれています」


「聖騎士団?」


「女神を守る騎士達のことです。
 国の最高戦力の一つですね」


ふと女神を守るという言葉が気になる。
確かに転生前、女神に遭遇したが、
その表現は、まるで女神が、この世界に存在すると言っているようだ。


「では、私の担当はここまでなので、
 後はこのまま真っ直ぐお進みください」


職員の案内はここまでとなり、
ここから先は、中央の通りを直進する。


そのまま道なりに進むと、
聖騎士2名が入口を塞いで守っていた。
その様子から、奥には要人が待ち受けると分かる。

そして気を引き締めるように、
シャルロットが口を開いた。


「いよいよ会うわね……
 女神教の最高責任者、教皇ラグナ」


事前情報で、教皇は名を世界に轟かせており、
政治的にも影響力が強いと聞く。
そんな相手と対等に話せるのか、
俺は一抹の不安を感じていた。


聖騎士によって部屋の扉が開かれ、
俺達は、前へ進んでいく。


すると室内は、謁見の間に近い構造をしており、
奥には、教皇がいるのが見えた。


「こちらにまいれ……」


教皇の言葉に従い、所定の位置まで歩き、
俺達は次の言葉を待つ。

女神教の教皇は白髪混じりの男性で、
意外と若く50代半ばくらいの年齢に見えた。
教皇と呼ばれるには若すぎるだろうが、
その若さを感じさせない風格がある。


「良くきたな、ルミナスの者達……
 そして覇王を持つ者よ」


「はじめまして、
 クリス・レガードと申します。
 お初にお目にかかれて光栄です」


俺の挨拶を終えると、隣に立つマリアを見ながら、
教皇が口を開く。


「覇王よ、そこにいる聖女マリアと、
 聖剣の契約者に至ったのは本当か?」


教皇の質問に対して、
俺は、契約者に至った事実と経緯を伝えた。
すると突如として、
この場に居合わせる者が、歓声をあげる。
中には泣き叫ぶ者まで出ていた。


「静まれ……」


教皇が一言命令をすると、
聖騎士達は、口を閉じ整列し直す。


「部下達の見苦しい姿を見せたな……
 まあそれだけに悲願なんだよ、聖剣は」


「へ?」


教皇は不敵な笑みを浮かべて一言告げると、
更に、その理由について説明する。


「魔王は、聖剣でしか傷つかない……
 そしてその聖剣は勇者しか持たない!
 そう言われていたのが常識だった」



その事実に、俺は驚愕すると、
顔に出ていたのか教皇は笑みを浮かべる。



「ふふ、驚いているな……
 勇者は存在したし、今もいる……」


「え?」


以前、黒騎士が魔剣を封印されたと言っていた為、
勇者が存在するのは予想出来た。
しかし今も生きているとは思いもしない。



「改めて言っておく……
 勇者は……」



教皇はため息を吐き事実を伝える。
そしてその表情は眉間に皺を寄せて、
瞳には憎しみが込められていた。










「勇者は、世界の敵だ」








その教皇が発した言葉を信じられない。
俺の知識では勇者は世界から愛される存在だった。
しかし教皇の言葉から察すると、
この世界の勇者は、憎まれる対象に他ならない。



教皇が告げた勇者の存在。
そして今から語られる事実に驚愕する。
更に勇者と聖剣の契約者の因縁について知った時、
俺達は更なる苦難乗り越えなければならないと知る……
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

いざ離婚!と思ったらそもそも結婚していなかったですって!

ゆるぽ
恋愛
3年間夫婦としての実態が無ければ離婚できる国でようやく離婚できることになったフランシア。離婚手続きのために教会を訪れたところ、婚姻届けが提出されていなかったことを知る。そもそも結婚していなかったことで最低だった夫に復讐できることがわかって…/短めでさくっと読めるざまぁ物を目指してみました。

料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します

黒木 楓
恋愛
 隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。  どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。  巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。  転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。  そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。

バイクごと異世界に転移したので美人店主と宅配弁当屋はじめました

福山陽士
ファンタジー
弁当屋でバイトをしていた大鳳正義《おおほうまさよし》は、突然宅配バイクごと異世界に転移してしまった。 現代日本とは何もかも違う世界に途方に暮れていた、その時。 「君、どうしたの?」 親切な女性、カルディナに助けてもらう。 カルディナは立地が悪すぎて今にも潰れそうになっている、定食屋の店主だった。 正義は助けてもらったお礼に「宅配をすればどう?」と提案。 カルディナの親友、魔法使いのララーベリントと共に店の再建に励むこととなったのだった。 『温かい料理を運ぶ』という概念がない世界で、みんなに美味しい料理を届けていく話。 ※のんびり進行です

独身おじさんの異世界ライフ~結婚しません、フリーな独身こそ最高です~

さとう
ファンタジー
 町の電気工事士であり、なんでも屋でもある織田玄徳は、仕事をそこそこやりつつ自由な暮らしをしていた。  結婚は人生の墓場……父親が嫁さんで苦労しているのを見て育ったため、結婚して子供を作り幸せな家庭を作るという『呪いの言葉』を嫌悪し、生涯独身、自分だけのために稼いだ金を使うと決め、独身生活を満喫。趣味の釣り、バイク、キャンプなどを楽しみつつ、人生を謳歌していた。  そんなある日。電気工事の仕事で感電死……まだまだやりたいことがあったのにと嘆くと、なんと異世界転生していた!!  これは、異世界で工務店の仕事をしながら、異世界で独身生活を満喫するおじさんの物語。

何でも欲しがる妹を持つ姉が3人寄れば文殊の知恵~姉を辞めます。侯爵令嬢3大美女が国を捨て聖女になり、幸せを掴む

青の雀
恋愛
婚約破棄から玉の輿39話、40話、71話スピンオフ  王宮でのパーティがあった時のこと、今宵もあちらこちらで婚約破棄宣言が行われているが、同じ日に同じような状況で、何でも欲しがる妹が原因で婚約破棄にあった令嬢が3人いたのである。その3人は国内三大美女と呼ばわれる令嬢だったことから、物語は始まる。

転生貴族可愛い弟妹連れて開墾します!~弟妹は俺が育てる!~

桜月雪兎
ファンタジー
祖父に勘当された叔父の襲撃を受け、カイト・ランドール伯爵令息は幼い弟妹と幾人かの使用人たちを連れて領地の奥にある魔の森の隠れ家に逃げ込んだ。 両親は殺され、屋敷と人の住まう領地を乗っ取られてしまった。 しかし、カイトには前世の記憶が残っており、それを活用して魔の森の開墾をすることにした。 幼い弟妹をしっかりと育て、ランドール伯爵家を取り戻すために。

クラス転移したひきこもり、僕だけシステムがゲームと同じなんですが・・・ログアウトしたら地球に帰れるみたいです

こたろう文庫
ファンタジー
学校をズル休みしてオンラインゲームをプレイするクオンこと斉藤悠人は、登校していなかったのにも関わらずクラス転移させられた。 異世界に来たはずなのに、ステータス画面はさっきやっていたゲームそのもので…。

最後に、お願いがあります

狂乱の傀儡師
恋愛
三年間、王妃になるためだけに尽くしてきた馬鹿王子から、即位の日の直前に婚約破棄されたエマ。 彼女の最後のお願いには、国を揺るがすほどの罠が仕掛けられていた。

処理中です...