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第77話 取引

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調査隊の初任務は子供達の救出、
魔族の捕獲と大成功に終わった。
子供達を親元へ帰した後、
調査隊全員は、BARルミナスに集まっている。
そして、これから捕獲した魔族を尋問をするところだ。


「ようやくサリーの出番ってわけね」


「ふふふ、待ちくたびれたわ」


結界の関係で賢者は城外に出れないため、
随時報告はシャルロットが担う。
今回は大手柄だが、ここから情報を聞き出せるかが重要だ。


「さぁサリー、やって」


「貴方たち、私の奴隷にしてあげる」


サリーの言葉を聞いた瞬間、魔族の男がニヤけて鼻の下を伸ばしたのを見逃さなかった。
そのためクリスは、魔族の頭をチョップした。


「どうしたの?クリス?」


「いや、何でもないよ」


そしてサリーの奴隷術が発動すると、
奴隷の証としてピクシー達の腕に奴隷紋が現れる。
魔族の男は、ピクシーからガブと呼ばれていた為、これからはそう呼ぶことにした。


「シャルロット殿下、尋問を……」


「アンタ達、私の質問に答えなさい!
 ちなみに嘘ついたら焼くから」


二人とも顔を青くしながら見つめる。
奴隷術がかかった状態で嘘をつく事はできない。


「アンタ達の目的は?」


「誘拐されてきた子供の見張りです」


「誘拐するのは、アンタ達?」


二人とも首を横に振り否定するのを見ると、
与えられた仕事をこなしているだけのようだ。


「じゃあ、誘拐してくるのは誰?」


「私たちは知らない奴、黒髪の女剣士」


クリス達全員は目を見開き驚く。
その人物は恐らくセシルに間違いない。
ようやく誘拐に関与した手がかりを見つけたのだ。


「そいつとはどこで待ち合わせるの?」


「ちょうど今日、ルミナス港の倉庫内」


ルミナスは他国とも貿易できるだけの港があり、
以前リーベルト伯爵は、この港から逃亡した。
港の倉庫で秘密の取引が行われている。



「な、何ですって!」


「ちなみに引き渡しの時間は?」


「後2時間後……」


「ま、まだ間に合うかも……」


ようやく証拠を掴み、追い込めるかもしれないが、
今日を逃せば魔族を捕まえたのがセシルにも伝わり、姿を隠してしまう可能性が高い。


「今日行くしかないわ!」


「決まりだな」


サリーも今日の勝負に同意する。
幸いにも魔族達を奴隷として使役できるため、
取引現場に平常通り向かうことができる。


「急ごう、必ず捕まえてやる」


そしてクリス達は、
セシルを誘拐の現行犯で逮捕するために、
奴隷の魔族を連れてBARルミナスを出発した。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



そして取引が行われる倉庫に到着したが、
まだセシルは来ていない様子だ。


「本当にアイツらだけで大丈夫なの?
 めちゃくちゃ心配だわ」


ピクシーとガブは取引予定の倉庫前に立っている。
いつもの手筈であれば中に入り、
直接セシルから子供を預かる。


「水魔法を使って会話を聞きます」


クリスは水魔法と探知の融合により、
水のある場所で会話の聞き取りに成功した。
今回は倉庫の近くに海があるため海水を利用している。


「お前、その魔法を悪用するなよ」


「し、しませんよ!」


更にクリスはその音波を自身の水魔法に共鳴させてシャルロット達にも聴こえるように音を出すことに成功した。


「おお、凄い……
 ガブとピクシーの声が聞こえる」


「クリス君……
 この魔法で一儲け出来るわね…。」



クリスのご都合主義とも感じる能力を体験して、
フィリアはジト目でクリスを見ていた。


「アンタ達、静かに……」


少しずつ、ピクシーとガブの声が聞こえる。


「そろそろアイツくるかな?」


「さぁ、どうでしょう」


定刻の時間になったがセシルは現れず、
その後一時間待っても一向に姿を現さない。


「あ~、もう今日は来ないわよ
 どこかで情報が漏れたのかしら」


「まあ流石にセシルは……
 簡単に尻尾を掴ませてくれませんね」


そして誰しもが諦めた時、その容疑者が現れ、
クリスの水魔法を通して声が聞こえてきた。
 

「申し訳ありません、お二人とも、
 今日はお待せしましたね」


黒髪、長身であり容姿端麗。
固有スキル高速剣、暗黒魔法を持つ、
ルミナスの剣聖セシル・フレイヤが現れた。


「いや、俺達も今来たばかりなんだ」


遅れてではあるがセシルの登場に、
クリス達は気を取り直して会話に集中する。


「今日の子供はどこだ?」


「ふふふ、気が早いわよ」


セシルは不敵な笑みを浮かべて、
ある人物について話し始めた。


「ところで、あの方は元気?」


「あの方って四天王の?
 お元気にされているが….…」


いきなり四天王という単語が出てきて、
取引よりも、その人物が誰か気になってしまう。
そしてサリーは、四天王が復讐相手のことを指すのか気になって仕方ない。


「じゃあ伝えて……
 目的の子供は居なかったと」


「あぁ、良いけどよ
 てことは今日の取引は………」


一瞬セシルの空気が変わった。
そして暗黒のオーラを身に纏ったセシルは、
急速にガブの隣に移動して言い放つ。


「聞こえなかったの?
 目当ての子供はいない
 そうね、それと……」


「え?」


「貴方の新しい飼い主にも」


ガブはその瞬間、死の恐怖に支配された。
目の前の怪物との会話で一歩間違えば即死。
命のやり取りをしていたのだと認識を改めた。


そして不気味な笑みを浮かべたセシルは、
付近の障害物を足場に上空を駆け回り、
あっという間に姿を消してしまった……


「な!」


シャルロットは驚きを隠せない。
気付かれるとは思わない中、
サリーの奴隷術を見破られてしまった事に落胆する。


「まだ手がかりは残っているわ……
 それに……」


魔族二人は殺されていない。
その二人の供述からセシルや四天王の陰謀を予測できるかもしれない。
サリーは、次なる手へ望みが消えたわけではないのを伝えた。


「そうね……
 まだ終わったわけではないわ」


「あの二人を回収してBARに帰りましょう」



そして調査隊はBARルミナスへ戻る。
これからセシルと四天王の手がかりを見つけて陰謀を阻止しなければならない。
しかし魔族を回収して街へ戻る途中、
調査隊を不敵に見つめるセシルの姿があったのだった……
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