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第76話 幻惑

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旧魔法学園の地下1階教室前に到着した。
突入して子供達に危害が加わらないように、
静かにドアを開ける。


「いくわよ……」


シャルロットが、ゆっくりとドアを開けると、
教室内の様子は見えたが、そこに誰もいない。


「探知魔法は、反応しているのですが……」


クリスは、探知魔法の場所が誤っていると思えず、
この現象を疑問に思っているとフィリアが答える。


「もしかして幻惑魔法?」


「フィリアさん、それって?」


「まやかしの世界を作ったり、
 姿を変える厄介な魔法よ」


本当に幻惑魔法が存在するならば、
教室の真の姿が別にあると言う。
更にフィリアは幻惑魔法に警笛を鳴らす。


「最大限警戒して!
 幻惑魔法は、かなり高位の魔法よ!」


「解除はどうすれば?」


するとフィリアは、何故か胸元から小瓶を出して、
俺達の前に見せた。


「ア、アンタ、どこにモノを入れてるのよ!」


「ふふふ、気にしないで」


妖艶に微笑むフィリアを見て、
俺は、大人の色気に惑わされないと心から誓った。


「聖水をばら撒いてから、
 水魔法を撃つと幻惑魔法は消える」


幻惑魔法は暗黒魔法をベースにしており、
聖水を使うと、その効果は弱くなる。
早速フィリアは聖水を教室内に撒いた。


「準備は良い?」


フィリアが水魔法の弾丸を発射すると、
聖水に当たり、更に霧のように部屋中に拡散した。
そして霧が収まると同時に幻惑魔法が解除される。



徐々に周りの景色が変わると、
教室の奥に牢屋が設置してあり、
三十名ほどの子供が閉じ込められていた。


「な、何者だ、お前達!」


俺達に気付いた魔族の男が叫ぶが、
過去に戦った者達と比べると、
圧倒的に弱い存在だと窺える。


「気をつけて!
 幻惑魔法使いは別にいる」


目の前の敵から幻惑の波動を感じなかったため、
フィリアは、隠れる幻惑使いに警笛を鳴らした。


そしてクリスは、水魔法の弾丸を魔族に放つが、
当たる寸前で何者かに防がれてしまう。


「な、何だ?
 何かに守られた?」


何者かが、水魔法から仲間を守ると、
シャルロットはその人物が幻惑使いだと判断した。
そして遠隔で直接攻撃できる火魔法を使用する。


「インフェルノ」


魔族の男の足元に魔法陣が現れると、
幻惑に隠れる魔族が魔法陣の外へ押し出した。


「今よ、フィリア」


咄嗟にフィリアは聖水を周囲に振りかける。
その後バブルバレットを発射すると、
辺り一面に霧が広がった。


そして霧が消えると同時に、
羽の生えた魔族、ピクシーが現れた。
その見た目はまさに……


「え?妖精?」


「クリス、やつはピクシーよ」


魔族の血を引く妖精、ピクシーは、
魔力も相当高いと窺える。
幸運なことに幻惑魔法で攻撃される前に、
聖水をかける事ができた。


「な、なんてことなの……
 私の幻惑魔法が……」


相手の唯一の攻撃手段を封印して、
まともに戦えなくなった。
しかし、追い込まれた誘拐犯を刺激すると、
危険な行動に出てしまう。



「動かないで……
 動いたら子供を殺すわよ」


「な!」


ピクシーは、右手に火魔法を呼び出して、
その手を牢屋の方へ向けた。
至近距離から魔族の魔法を喰らうと、
まだ儀式を迎えて間もない子供は、死んでしまう。


「ひ、卑怯よ!」


「さぁ、ガブ!
 奴らを殺してきて!」


魔族の男が、笑みを浮かべながら近づく……
しかしフィリアが黙っている筈がない。
魔族が目前に迫ると強化格闘術で弾き飛ばした。


「お、お前!
 なら人質は殺してやる!」


クリスは、その一瞬の隙を見逃さなかった。
神速スキルでピクシーと牢屋の間に入る。


「これで、もう人質で脅せないよ」


「っく……」


そして、ピクシー達の足元に魔法陣が現れる。
この魔法陣は、シャルロットのインフェルノだ。



「動かないで!
 動いたら焼き殺すわよ」



魔族を無力化し子供達の救出に成功した。
子供達の人数はあまりに多いため、
増援を呼びに戻らなければならない。
しかし灯を照らしながら戻れるのは、
シャルロットだけだ。
王女を一人で帰らせるわけにもいかず、
子供達の見張り番はフィリア一人でするしかない。
思い出の学園とはいえ廃校舎に取り残されて、
フィリアは寂しく涙するのだった……
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