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第71話 シャルロット

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訓練場でマリアと会ってから一ヶ月が経過して、
今日は、騎士魔法学園の入学初日となる。

ベルのおかげで何とか試験を合格できた。
なんと、休憩スキルは記憶にも効果があり、
ズルしてる気分だが存分に活用した。
更に、俺のスキルレベルは規格外なので、
実技試験は手加減して臨んでいる。
悪目立ちするのを避けたのだ。
なるべく水魔法と格闘術だけで穏便に済ませた。



そして今、俺は自分のクラスに向かうため廊下を歩いている。



「お、お兄様!」



よく知る人物の声が聞こえて、
その声の方へ振り向くと、アリスがいた。



「同じクラスですね!
 これは運命と言わざるを得ません」 



「アリスも一緒なのか、
 確かに心強いな」



旅の道中でも友達や仲間を作ってなかったため、
アリスが同じクラスなのは、本当に心強かった。


「この学園でも女共からお守りしますわ」


そう言いながらアリスは番犬のように、
通りすがりの女子達を威嚇する。


「入学初日から変なことは止めてくれ」


アリスにチョップした後、廊下を歩き続けると、
偶然想い人とすれ違い、心臓が飛び跳ねた。



「お、おはよう、マリア」


「クリス、おはよう」



この間の件があっても、
変わらずにマリアは笑顔を見せている。



「クリスも入学おめでとう、
 ようやく同じ学園に通えて嬉しいです」


「俺もだよ……
 マリアのおかげで入学できた」



お互いに少し気まずい空気が流れると、
マリアが一瞬話をしようと口を開く。



「クリス、私……」


「もうすぐ時間だから行くわよ!」


マリアが何かを話そうとしたが、
隣のシャルロット殿下がマリアを急かす。
確かに朝礼が開始してしまう時間だ。



「アンタ、後で屋上に来なさい……
 そうね、放課後が良いわ……」



去り際にシャルロット殿下が呟いた。
その表情は若干呆れているように見える。



そして俺とアリスは、自分達のクラスに入ると、
ベルも席に座っているのを確認した。



「ベルも同じか、
 もしかすると運命かもな」



「お、お兄様!」



俺はアリスを揶揄いながら席につく。
ベルはまだ意味が分からず頭をかしげていた。



しばらくすると教官が入って授業が始まるが、
俺はマリアのことが頭から離れず話半分で授業を聞いていた。



そして時は早くも過ぎて放課後になり、
屋上に行くとシャルロット殿下と対峙する。



「アンタ、私の妹を泣かせたわね」


「あの、それは……
 そうですね」


殿下の視線が痛い。
でも、何故か怒ってはいないようだ。


「今すぐに焼き殺したいけど、
 我慢してあげる」


「そ、それはどうも、
 ありがとうございます」



殿下は呆れた表情で俺に話しかける。



「キャロルから聞いたわよ、
 セシルのこと」


「襲撃していなかったんですね、
 セシルは」



セシルが襲撃していない。
その言葉が事実であるとシャルロットは頷く。
マリアと会った時には予想にもしていなかった。



「アンタは過去に遡ったと聞いたけど、
 その前はセシルが襲ってきたって事?」


「はい、キャロルさんも死にそうに、
 そして殿下も……」


「まあ……
 そんな事だろうと思ったわ」



殿下は俺の言葉を信じて頷いた。



「極秘裏に進めていることだから、
 秘密にしてほしいけど、
 セシルは間違いなく、クロよ」



やはりセシルはこの時代でも……
変わらず悪意に満ちている。



「襲ってきた敵を倒しても、
 全く無くならないのよ」



「何がですか?」



「子供の誘拐が」



そういえばそんなこともあった。
確か陛下は、宮廷魔術師を向かわせて、
子供達を救出したと言っていた。



「それで部下に追わせてたの、
 良い固有スキル持ちがいたからね」


「なるほど、それで追跡していると」


「でも、やられてしまったわ」


「え?」


少し辛そうな顔を見せると、
そのスキルについて、シャルロットが口を開く。


「探知のスキルもない。
 もう奴を追う事はできないわ」


「あの……
 持ってるんですけど……探知」


「な、なんですって!」


その後、どうやって探知を取得したのか、
根掘り葉掘り聞かれた。
しかし賢者に魔力を送り、
休憩スキルで取得したなんて言えない……


「はぁ……はぁ……
 アンタも中々強情ね」


「はぁ……はぁ……
 そりゃあ、どうも」


そして殿下は一呼吸して俺に呟く。


「マリア、反省してたわよ……
 アンタに言い過ぎたって」


「え?」


何でマリアが……
状況的に婚約者に告白もせずに、
別の女を作って帰ってきている。
謝る方はむしろ俺の方だろう。


「マリアも一度話したいんだってさ、
 しっかりと誤解を解くのよ」


「シャルロット殿下……」


俺はシャルロット殿下に足を向けて寝れない。
やはり妹思いの優しいお姉さんなのだ。


「あ!でも陛下にちゃんと説明するのよ……
 処刑撤回を考え直すって言ってたから」


「は?」


俺はきっと顔が青くなっているだろう。
陛下は、マリアを泣かせたのを怒っているのかもしれない。


「マリアを溺愛してるからね……
 陛下は……」


「まあ確かにあんだけ可愛い娘がいたら、
 その気持ちも分からなくもないです……」


するとシャルロットはジト目になり俺に言い放つ。


「その可愛い妹と破断になったら、
 次は私なんだからね」


俺はルミナスのしきたりを忘れていた。
覇王を生み出すために繰り返してきた歴史。
そのことを殿下は言っている。


「わ、忘れてませんよ」


「勘弁してよね……
 マリアと上手くいかなくて、
 アンタとその、あの……」


シャルロットはいきなり顔を赤くして、
しどろもどろになっている。


「シャルロット様?」


「う、うるさい!」


するとすぐさま後ろを振り向き、
俺に言い放った。



「と、とにかくマリアと仲直りしなさい、
 じゃないと焼き殺す!」


「わ、わかりましたよ~」



そして俺たちはそれぞれの家路に向かった。
明日は予定外だが陛下に呼ばれている。
気を重くしながら俺は帰宅していくのであった……
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