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第68話 妹

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俺たちはレガードの屋敷に帰ってきて、
今は父上の書斎に呼び出されている。
父は王国騎士団に報告に向かい、
俺達のすぐ後に帰宅したのだ。


「改めてだが、
 よく戻ってくれたな……」


「父上、やっと……
 家に帰れました」


俺の声を聞き優しい表情に変わるのを見て、
母上が亡くなった世界線の父上よりも、
今は表情が柔らかくなっているのかと思った。
そして俺は幼い妹について話を聞く。


「驚きました……
 俺に妹が出来ていたなんて……」


「ん?そうか、お前の世界では、
 リリスは産まれていなかったな……」


「リリスは、今は七歳くらいですか?」


「あぁ、そうだ……
 だが、せっかく産まれたのに、
 すぐクレアに出張命令が出てな……」


母上は幼いリリスに殆ど会うことができず、
父上はそんな母上を気に掛けていた。


「エルフも増えて王都の警護も大変だった
 だから育てるのにリーナを雇った……」

 
もしかするとリーナがいない未来の可能性もあったのを考えると、母上の出張に感謝してしまう。
何だか矛盾した複雑な思いだ。


「父上、大変だったんですね……」


「まあな……」


そして父上からその事実を告げられるまでは、
俺もすっかり忘れていたことがあった。
それは……


「騎士魔法学園のことだが、
 入学試験まで後、十日もないからな……」


「はい?」


「試験勉強、死ぬ気でやれよ!」


俺は顔が青くなっているだろう。
勉強なんてせず修行に明け暮れていたせいで、
何もかも忘れてしまった。


「が、頑張ります……」


そして母上が王宮から帰ってきて、
ユーリの元気の良い声がレガードの廊下に響く。


「おーい!クリス~!
 夕飯だぞーー」


ユーリはスキップしながら皆を呼びに行くが、
本来はメイドの仕事なのだ。
しかし何故かユーリが率先と動いている。


「そんなに急がなくても、
 無くならないのに……」


ゆっくり歩きながら食卓に向かい、
帰ってきた母上に挨拶する。


「お帰りなさい……母上」


「ただいま、クリス……」


俺と母上が挨拶を交わし合うと、
そこにリリスが現れた。


「母~~」


リリスは嬉しそうに飛び跳ねて、
母上に元気よく抱きついた。
そんな娘を見て、母上は疲れが吹き飛ぶように笑顔に変わった。


「ただいま、リリス!」


そして家族全員が食卓に集まる。
使用人は別で食事するが、大所帯には変わりない。
集まっているのは父上、母上、アリス、リリス、ユーリ、サリー、そして俺だ。
気づけばうちも賑やかになった。



そしてテーブルを囲んでいる中、
母上が俺を激励する。



「クリス……
 試験勉強頑張れよ!」



「ま、全くやってないので、
 心配ですが……」 



不安でしかないのだが、
大丈夫なのか心配になる。



「まあベルに教えてもらえ……
 ベルもかなり頑張ったからな」


ベルも一緒に学校に通うのを忘れていた……
魔力がないと獣王剣を使えないから、
訓練のために学園に通うのだった。


「わ、私で良ければ……」


「宜しく頼むよ……」


使用人に勉強教えてもらうとか情けない。
十日間、死に物狂いで頑張らなくては……



そして続けて母上は、
明日の予定を知らせる。



「クリス……勉強もだが、
 明日は王との謁見だからな……」



「陛下ですか?」



俺が聞き返すと、母上の空気が変わり、
その姿に圧力を感じてしまう。



「お前……
 マリア殿下と婚約していたんだな……」


「はい……
 婚約しております」


ずっとマリアの事は考えていて、
決して忘れていない。
回復魔法を使う度に思い出していた。
マリアとの日々を……
そして母上たちに言うタイミングを逃していた。



「それでもユーリが好きなのか?」



「はい……」



俺は真っ直ぐ目を見て伝えた。
ここで言い訳をしてはいけない気がしたのだ。



「はぁ……」



母上はため息を吐きながら俺を見ると、
ユーリも俺を直視していた。



「分かった……
 お前のことは事前に王へ伝えてある。
 処刑されることはないから安心しろ」



「え?」



処刑だと?



「フィリアとなら王の責任にも繋がるが、
 他の女に手を出したらお前の責任だぞ」



母上の視線が痛い……
でも、好きになってしまったから、
それは仕方ないのだ……



「まあ良い……
 私もユーリは可愛いからな……
 お前と一緒になってくれるのなら安心だ」


「あ、あねご……」



母上は、ユーリに顔を向けると、
優しい笑顔に変わり言葉をかけた。



「そうなったら本当の家族だな……
 ユーリとも……」


「え?
 そしたら、あねごじゃなくて、
 おかあちゃんって呼んだほうが良いの?」


「やめてくれ……
 あねごで良い……」



俺は二人のやり取りを聞きながら、
今後のことを考えていた。



「クリス……
 マリア殿下には誠実に対応しろよ……
 既に事情は伝えてある。
 でも、お前自身が伝えないと駄目だ」


「誠実にですね……」


マリアからすると嫌な話に違いない。
婚約者から他に好きな人が出来たと言われたら、
どんなに嫌なことか……
正直、誠実もへったくれもない。
でも正直に嘘をつかずにありのまま全てを話そう。
そうすべきだと俺は思っている。


「明日、陛下との謁見後に、
 マリアに会えますかね?」


「大丈夫だろう。
 まあ事前に話はしてやったからな。
 私に感謝するんだぞ!」


母上は、話し終えると夕食を食べ始めた。
確かに過去に遡った事情が伝わっていれば、
俺からも打ち明けやすい。
今回も俺は、母上に返しきれない恩を感じていた。



そしてマリアに誠実に話せば分かって貰える。
この時まではそう信じていた……
しかし既に歯車が狂い始めていたことに全く気づいていなかった……
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