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第67話 帰宅

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少しずつルミナスの街の門が見えてきた。
以前フィリアと一緒に馬車に乗り、
ここから旅立ったのだ。


「やっと帰って来ましたね……」


「あぁ、我が家に着くな……」


旅に出てから、4ヶ月しか経過していない。
しかし過去に遡った分を数えると、
1年以上は家に帰っていないことになる。


そして門をくぐり、ルミナスの城下町を歩くと
俺は周りの景色を見て目を奪われた。


「す、凄い……」


沢山のエルフが笑いながら会話しており、
一般市民として幸せに暮らしている。
その姿を見て、苦しむエルフ達の未来が変わったのだと感動していた。


「これは、お前が守った景色だ……」


母上の説明を聞いた内容だと、
十年前、ルミナスにエルフを避難させて、
王の判断の元、サリーの奴隷術を解除した。
そしてエルフと交渉の後、ルミナスへの移住を受け入れた。


「母上、エルフ達を救えたんですね……」


「それから私とユーリは世界を周り、
 エルフ達を助けているってわけさ」


母上とユーリが積み重ねた歴史が目の前に広がる。
俺達は、改めてこの光景に感激していると、
急に隣にいるユーリのお腹が鳴った。


「あ、あねご!
 私、そろそろ限界……」


「もう少し我慢しなさい……」



ユーリが顔を真っ赤にしながら、
恥ずかしがっている。



「クリス、聞こえたよね?」


「お腹すいたんでしょ?」


くすくすと笑いながら言うと、
ユーリは、恥ずかしかったのか、
真っ赤になって俯いてしまった。


「く、クリス、酷いよ~」


「ご、ごめんごめん……くく」


母上も笑いながら、出店の串焼きを買ってきて、
同行する者達に配り始めた。


「じゃあ、ユーリと二人で
 先に家に帰っていてくれ……」


「え?母上は?」


「そういえば言ってなかったな……
 師匠を連れて王のところに行ってくる」


同行している賢者様を連れて王と謁見だ。
今後について相談するらしい。


「母上も気をつけてくださいね」


「あぁ、まあ私を襲う輩なんていたら、
 塵にしてやるがな」


俺は苦笑しながら母上、他のみんなと別れた。
するとユーリが壁に貼ってあるポスターに気づく。


「あ!そういえば来月になるのか!」


「ん?」


「ルミナス魔宝祭!」


一瞬何のことだか分からず固まってしまう。
今までルミナスに祭はなかったはずだ。


「あぁ、エルフが移住したから、
 気づいたら毎年やるようになったんだ」


「へーなるほどね!」


確かに永続的にルミナスに住み続けるなら、
異文化交流は良い試みだと思う。
十年前の魔宝祭を見てエルフの祭への入れ込み具合に感心していたのだ。


「エルフは、お祭り好きだよね……」


「そうね、毎年気合い入ってるみたい」


ユーリは、少し顔を赤らめながら、
俺に頼み事を言ってきた。


「私、あねごと一緒に出張続きで、
 お祭り行ったことないから……」


「ん?」


髪の毛を触りながら恥ずかしそうにして、
ユーリは言葉を続けていく。


「私と一緒に、
 お祭り周ってもらっても良い?」


「お祭り?
 良いけど……」


「やったーー!」


ユーリは、子供のようにはしゃいで、
スキップをしながら歩く。
その姿が可愛くて、見惚れてしまった。


「ん?どうしたの?
 クリス?」


「い、いや、何でもないよ」



慌てて普段通りの自分を演じて誤魔化すと、
そんな俺を見てユーリは微笑む。



「ふふふ、じゃあ約束だからね!」


「わ、分かったよ~」


そして二人の時間を楽しみながら、
俺たちはレガードの屋敷へ帰った。



「や、やっと我が家に着いた~」



「ふふふ、クリスにとっては
 ニ年ぶりくらいだもんね……」


そしてレガードの屋敷の前に着き、
ドアを開けようとすると、
物凄い勢いで走る音が聞こえた。


「あ~~~~!!!!」


「はい?」


「お、お兄様!!」


後方から勢いよく抱きつかれると
もう離さないと言わんばかりに、
力強く捕まえられてしまった。


「いたたた、アリス……
 急に飛び込んでくるな……」


「もう、逃がしません!
 あああああああお兄様……」


なんか背筋がゾッとしてきたので、
アリスの頭をチョップしてしまった。


「あ~いたい……
 半年近くも待ったのですから、
 嗅がせてくれても良いじゃないですか」


「き、気持ち悪いわ!」


そこにベルも挨拶してきた。
久しぶりだが落ち着いた印象は変わっていない。


「お帰りなさいませ。
 クリス様……」


「ただいま、ベル……」


隣にもう一人、驚くほど美女がいるのに気付くが、
そんな人物いたのかと分からず、一瞬混乱した。
赤い髪をしたスレンダーな美人で、
髪はストレートの長髪だ。


「おかえりなさい……」


「え?
 もしかしてサリー?」


「ふふふ、そうね……
 あなたの方は久しぶりなのね」


忘れていたけれど、母上がサリーを保護して、
更に監視することになっている。
ユーリと同じように成長して大人になっていた。


「サリーおばちゃーん、待って~」


突如、七歳くらいの女の子の声が聞こえてきた……
そして俺の顔を見た途端、目をキラキラさせている。


「え?誰?」


すると女の子は少しずつ表情が変わり、
みるみるうちに泣き出してしまった。



「うぇーーーーーーん……
 クリスお兄しゃまが……
 お兄しゃまが……
 ……ひっく……うぅ……」


「お兄様……
 流石にリリスが可哀想ですわ……」


アリスは呆れ果てた顔で俺を睨むと、
サリーも俺をジト目で見ていた。


「え?もしかして俺の妹?」


その時、もしかしたらの可能性を考えた……
母上が生きているならば、
子供を作っても不思議ではないと気付いた。


「あ、当たり前じゃないですか!
 クリス様!」


そう言って現れたのはリーナだ。


「リーナ……
 久しぶりに会えて嬉しいよ……」


「私もです……
 でも本当は一言、声をかけてから、
 出かけて欲しかったのですが……」


そういえば王からの命令で、
秘密で賢者を訪ねるように言われていた。


「申し訳ないと思ってるよ……」


「本当ですよ~」


リーナは呆れた目で俺を見るが、
こんな時は苦笑して誤魔化すしかない。


「さぁ中に入りますよ……
 そろそろ夕飯ですから……」


リーナの夕飯という言葉に、
ユーリの身体が反応したのを見逃さなかった。



「中に入るぞ、ユーリ……」



そして俺達はレガードの屋敷に入る。
未来を変えた影響で、まさか妹が産まれていたなんて思いもしない。
でも、一緒に手を繋いで歩く妹を見ると、
可愛すぎて自然と笑みが溢れた……
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