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第61話 別れ

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海の支配者を討伐してから、
エルフの里に戻り身体を休めている。
各自、自由行動となったのだ。
ユーリはクレアと共に里の食事処に向かった。


カートは、言うまでもないだろう。
イリーナの元に会いに行った。
エルフ達はこれから全員で王都に向かうため、
その身支度で忙しい。
カートはイリーナ姉妹のために、
早朝から手伝っているのだ。


そして、俺は賢者と共に大樹の前に立つ。
二人で話したいことがあり頼み込んだ。


「未来に戻る準備は出来た……
 いよいよだな……」


賢者は、大樹の枝と魔法の筒を手に持ち、
タイムリープに必要な素材を持っている。


「あの……」


中々聞き難いことだが、仕方ない。
未来に関わることなのだ。


「今の俺で黒騎士を倒せますか?」


「まあ、五分五分だね……
 勝てるとまでは断言できない」
 

これから絶対に負けられない戦いに挑むため、
賢者に黒騎士の実力を問いたかった。


「五分ですか……」


「覇王が続く限りは、
 押せるだろう。
 だが……」


魔力が切れる時に俺は負ける。
賢者はそう言いたいのだ。


「魔力次第ってことですか」


「そうだ。
 だから、もしもの時は……」


もしも俺の魔力が尽きた時、
賢者は、その緊急時の最終手段を口にする。
その最終手段を聞いた時、
俺は瞳から涙が溢れそうになった。


「いつ行くんだ?」


「明日の夜に行きます」


賢者は目を見開き驚いた。
エルフをルミナスに送り届けてから、
未来へ旅立つと思っていたのだろう。


「母上のいるレガードの屋敷に行ったら、
 未来に帰りたくなくなる……
 そんな気がするんです……」


「そうか……」


俺がその言葉を伝えると、
賢者はどこか寂しそうな表情を浮かべる。


「クリス……
 お前は覇王を所有している。
 お前を待ち受ける運命は、過酷だろう」


「…………」



「だが、一つだけ言っておく」



賢者は、優しくも真剣な表情に変わり、
俺に言葉を紡ぐ。



「ひたすらに前へ進め!」


「決して後ろを振り返るな……
 困難だろうと関係ない……
 その強い志が、未来を切り開いていく」


「賢者……」


「ふふ、そんな風に生きていた奴を、
 私は知っているし、憧れていた」


遠くを見つめながら話す姿を見て、
賢者の切ない想いに触れる。


「クリス、みんなにちゃんと話すんだぞ」


俺は無言で頷くと、
賢者に頭を下げる。



「一年間ありがとうございました!
 必ず、みんなを救います……」



「あぁ、お前も私の可愛い弟子だ……
 必ずその手で幸せを掴めよ!」



賢者はそう言うと後ろを振り向き、目を拭う。
そして、賢者は涙声で呟く。



「絶対に……生きろ……」



その一言から賢者の想いが感じられ、
言葉の重さを感じてしまう。



「生きて、帰ります……」



賢者に別れを告げて、
俺は大樹を背にして長老の家へ戻った。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




そして夜を迎え、皆んなに別れを告げる時が来る。
長老の家に俺と母上、ユーリ、カートさん、
父上、サリー、そして賢者が集まった。


「みんな、突然で申し訳ない………
 明日、帰ろうと思います……
 元の世界へ」


するとユーリは、その言葉に驚き、
目を見開いてしまう。
その現実を受け入れられず、
気づけば泣いてしまった。


「い、一緒にエルフをルミナスまで
 送り届けてからで良いだろう!」


俺の急な申し出に、母上も反対する。



「きっと、帰りたくなくなっちゃうんだ……」



今の時間を過ごせて、とても幸せなんだ。
こんなにも楽しくて……



「みんなといると……
 別れたくなくなっちゃうんだよ!」



俺がその言葉を発すると、
ユーリも想いを必死に伝える。



「いや……だ……
 いかないで……」



そしてその瞳から大粒の涙が、
ポロポロとこぼれ落ちていく……


「ユーリ……」


俺は、泣き崩れるユーリを見て、
別れたくなくなってしまう。
それほどにユーリは、特別な存在になった。


「俺は、みんなが好きなんだ!
 大好きなんだよ……」


気づけば涙で前が見えなくなっていた。
声も震えて、感情が溢れてしまう。


「わ、私だってそうだ!
 お前は誰がなんと言おうと……
 私の息子だ……」


「母上……」


母上が俺を抱きしめる。
そして、その腕の中で声を上げて泣いてしまった。


「母上に会いたかった……
 なんで死んでしまったのか……
 ずっと思ってた……」


「………」


「でも……ここで会えて……
 一緒に旅ができて、
 俺は、幸せでした……」


その言葉を伝えると、
母上の抱きしめる腕に力が篭る。
気付けばその背中は震えていた。


「夢みたいでした……
 それだけ幸せだったんです……」


「クリス……」


俺は心から母親に出会えたことを、
神様に感謝していた。
二度と会えないと思っていた人に出会えたのだから……


「ユーリにも会えてよかった……
 一緒にいて楽しくて、
 お腹が苦しいほど食べて笑って……」


ユーリと初めて出会った時を思い出す。
浜辺で餓死しそうに倒れていた。
食い意地が悪くて母上に怒られて、
でも、誰よりも優しくて寂しがり屋で母上が大好きで。

俺は、そんなユーリが好きだった……


「ユーリと一緒にいた時間は、
 楽しくて……楽しくて仕方なかった……」


「クリス!」


そして、母上と抱き合っている俺に、
ユーリも抱きついてきた。


「わたしも……
 こんなに……楽しくて……
 幸せだったこと……ない!」


三人で抱きしめ合って声をあげて泣いていた。
悲しくて、切なくて……
でも、嬉しくて……
色んな感情が呼び起こされて涙する。


「クリス、それでもお前は、やはり……
 帰らなければならないんだな」


カートさんが俺に声をかける。
俺のやるべき事、宿命を理解している。


「未来で待っているんだ……
 俺が助けに来るのを……」


そして、父上も、
優しさに満ち溢れた表情で告げる。



「クリス、お前が困った時は、
 俺たちが何度だって助けるさ……
 だって俺たちは、家族なんだからな」



「父上……」



そして最後の夜を大切な家族と共に暮らし、
泣いて笑って過ごした。
明日の夜に、俺はいよいよ元の世界へ帰る。
俺を待っている大切な人を救うために……
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