上 下
55 / 125

第55話 愛

しおりを挟む
次元結界でユーリと、デスワームを閉じ込めた。
そしてついにエレノアとの一騎打ちが始まる。


「エレノア、覚悟しろよ……」


覇王の輝きは更に強まり、
クリスは、剣を持つ右手に光を集めた。
そして覇王の一撃を放つ。
輝き溢れる光の塊は、エレノアの元へ向かった。


「な、何だと……」


覇王の一撃の威力が想像以上に強力で、
エレノアは焦っている。
クリスの覇王はレベル6まで上がった。
その威力とスピードは今までとは桁違いだ。


エレノアは何とか魔力の障壁を作り出し、
覇王の一撃を回避する。


「わ、私が間一髪で、死を逃れた……だと」


死を免れた事実を受け入れられない。
目の前にいるのは唯の子供だったはずだ。
それが何故大人の身体に変わり、
更に覇王まで使えているのか。
エレノアは全く理解できないでいた。


「思った以上に威力が強かったな……」


クリスも手加減したが、危うくエレノアを、
倒してしまうところだった……
ユーリを助ける前にエレノアを倒しては元も子もない。


「いや、お前が弱いのか……」


エレノアは今クリスが発した言葉を聞き間違えたのかと思った。


「わ、私が弱いだと?」


魔女は魔界でも特別な存在だった。
成長速度、魔力の質、得られるスキルは、
全てにおいて優秀なのだ。
更にエルフの寿命によって、
鍛錬する時間まで十分にある。
そのため魔界では、魔女というだけで、
優遇される存在だったのだ。

しかし、普通の人間に弱い存在と括られてしまう。
エレノアにとって到底、看過出来ることではない。


「こ、殺す……
 私を、愚弄したな!」


エレノアは怒り狂い目が血走っている。
そして、その身体に魔力が溢れた。


「これが、魔女の力だ!」


炎と暗黒魔法を融合させた魔法、
ヘルフレイム。
暗黒の炎をクリスに放った。


その炎がクリスに届く瞬間、
クリスもスキルを使う。


「炎か……
 運が悪かったな」


クリスの周りに螺旋の炎が現れる。
全ての炎は地獄の業火に飲み込まれた。
イフリートの炎は、いかなる炎も無効化する。


「な、何だと……」


まさか夢でも見ているのかと、
エレノアは現実を受け入れられない。
最高レベルの魔法がいとも簡単に消滅した。
そしてクリスは、かすり傷すら受けていない。


「う、うそだ……
 私は選ばれた存在だ!」


自暴自棄になったエレノアは、
ヘルフレイムを何度も連発するが、
その度にあっさりと無効化される。
そしてエレノアは膝から崩れ落ちた。


「もう手がないようだな……」


クリスはエレノアの首を掴み魔力を送る。
しかし、魔力が枯渇に近づき、
子供の身体に戻ってしまった。


「な、何をしている……」


エレノアは、予想外の行動に狂気を感じていた。
何故魔力を与えるのか。
自分の心をへし折るためなのかと勘ぐっている。


クリスは魔力をエレノアに送ることが出来たため、
蹴りを喰らわせて弾き飛ばした。


「賢者、俺はユーリを助けに行く。
 エレノアを見張っていてくれ」


クリスは、感情の爆発により更に成長している。
その実力は、エレノアを子供扱いする程だった。


「使い魔や奴隷達がいないとはいえ、
 まさかここまでとはね……」


クリスは、これからユーリの元へ向かう。
賢者も察して、ユーリの結界のみ消滅させた。


「クリス、後は頼んだぞ……」


無言で頷き、生気を失ったユーリに向かい合う。



「ユーリ……」



そして俺は、休憩スキルを使用する。
身体の周りに光が溢れていく。



新しいスキル獲得に成功しました。
神速 Lv.5

新しいスキル獲得に成功しました。
従属化 Lv.5






「ユーリ……
 俺の声が聞こえるか?」




「…………」




何も返事はない。
名前も忘れてしまったのかよ……




「おい!食いしん坊!
 目を覚ませよ!」




「………」




「お前が大好きで……
 仕方ない人が沢山いるんだよ!」




母上も、カートさんも絶対悲しむ……





「いつも笑顔で……
 明るくて……
 悪戯好きで……
 でも、優しくて……」





だから一緒にいると楽しくて……







「勝手にいなくなるなよ!」






気づいたら、
俺の中で大きな存在になっていた……







「お前が大切なんだよ!」






視界は涙で見えなくなっていた。
手で涙を拭うと、ユーリの頬にも、
涙が流れるのが見えた。






心から伝えたい……
ユーリに……






「俺は、お前のことが……
 お前のことが好きなんだよ!」






そして……
想いは、相手に届く……






「……くりす……」






「ユーリ!」





俺を呼ぶ声を聞いて、心の中にユーリが存在していると分かり嬉しくて堪らない……




「ユーリ……みんなのところへ……
 一緒に帰ろう」




そして、俺はユーリに口付けを交わす。
その口付けによって新たな魔法が上書きされる。
人はその魔法を、愛と呼ぶのかもしれない……




ユーリの目に生気が戻る。




「クリス……」




そして、俺たちは抱きしめ合う……
ユーリは涙を溜めた瞳を向けて呟く。



「クリス……大好き」



俺の胸にユーリの言葉が響く。
その輝く笑顔は、今までで一番綺麗な顔をしている……
そして先程のお返しをするように、
ユーリから口付けをされる……



その様子を見ていたユグドラシルの大樹が、
二人を祝福するかのように魔力の放出を始めた。
黄金に輝く魔力が、シャボン玉のように浮き上がる。
その隙間から二人の重なり合うシルエットが見えた。




「クリスの声、ずっと聞こえてた……」



「ユーリ……」



「私を救ってくれて……
 ありがとう」




今日から新しい物語が始まる。
愛する人達が生きている……
一緒に過ごす未来が楽しみで仕方ない。
きっと馬鹿な事を言い笑い合う日々だろう。
そんな日々を守るためなら、
俺は何度でも立ち向かっていく……
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使う事でスキルを強化、更に新スキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった… それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく… ※小説家になろう、カクヨムでも掲載しております。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

異世界転移ボーナス『EXPが1になる』で楽々レベルアップ!~フィールドダンジョン生成スキルで冒険もスローライフも謳歌しようと思います~

夢・風魔
ファンタジー
大学へと登校中に事故に巻き込まれて溺死したタクミは輪廻転生を司る神より「EXPが1になる」という、ハズレボーナスを貰って異世界に転移した。 が、このボーナス。実は「獲得経験値が1になる」のと同時に、「次のLVupに必要な経験値も1になる」という代物だった。 それを知ったタクミは激弱モンスターでレベルを上げ、あっさりダンジョンを突破。地上に出たが、そこは小さな小さな小島だった。 漂流していた美少女魔族のルーシェを救出し、彼女を連れてダンジョン攻略に乗り出す。そしてボスモンスターを倒して得たのは「フィールドダンジョン生成」スキルだった。 生成ダンジョンでスローライフ。既存ダンジョンで異世界冒険。 タクミが第二の人生を謳歌する、そんな物語。 *カクヨム先行公開

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

処理中です...