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第51話 危機

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カートとユーリは長老の家に入った。
クレアはその様子を遠くの物陰から見ている。
そして隣にいる賢者に話しかけた。


「部屋の中に入った時が、
 最も危険と仰ってましたよね?」


魔女が既にユーリに接触しているかもしれない。
そう思うとクレアは、不安で堪らなかった。


「今は信じるしかないな……
 ユーリ達が出てきてから、
 何かあれば直ぐに助けに入る」


そして先程と違いドアが急に開く。
カートが勢いよく開けたのだ。
ユーリの手を無理に引っ張っている。
誰の目から見ても強引に出たのが分かった。


「お、おい!
 何かあったのか!」


クレアは異変に動揺するが、
賢者は冷静に分析していた。


「クレア、まだ動くなよ」


賢者の言葉は、クレアに届いていない。
ユーリに何かがあったらと思うと、
胸が張り裂けそうで、それどころではないのだ。

そして、カートとユーリの前に、
エルフの剣士達が現れる。
明らかにユーリを捕らえるために立ち回っていた。
 

「おい、あれは何だ!」


まさかエルフが実力行使に出るとは思わない。
賢者は、エレノアの指示を考えている。
それによっては今突撃するのは危険だと考えた。


「クレア、まだ我慢しろ!
 誘き出すための罠かもしれない」


「ダメだ!
 このままではユーリが捕らえられる!」


そしてクレアは賢者の指示を無視して、
突撃してしまう。
上空に光の剣を一時的に呼び出し、
それを足場に空を駆け抜けた。


「あんなこともできるのか……」


クリスはクレアの万能な魔法に呆れたが、
賢者は、先行したクレアに頭を悩ませていた。
エレノアの性格を知る賢者は、
この後に何かが起きると確信している。


「クリス、もし万が一の時は、
 お前だけが頼りだ……」


その作戦に俺は無言で頷く。
そして、エルフ達との戦闘が開始した。
しかしこの瞬間、長老の家の前に霧が広がる。
その霧は瞬く間に広がり何も見えなくなってしまった。


「エレノアが動いた!」


賢者は即座に事態を把握して、
クリスに指示を出す。


「クリス、ユーリの魔力を探知するよ」


賢者との訓練で得たスキルの一つ、
探知を使い指定した魔力を探す。
霧の中で神経を研ぎ澄ませて、
二人はユーリの元へ走り始めた……




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



上空から突如としてクレアが現れた。
目の前に立ち塞がる者が誰であっても、
ユーリのために、クレアは一切容赦しない。


「エルフの騎士達……
 ユーリに危害を加えるなら……」


全方位に合計40本の光の剣を呼び出す。
エルフの頭上に配置して、
いつでも串刺しに出来る状況だ。


「これは素晴らしい!
 さすがルミナスの宮廷魔術師」


エルフの剣士の一人が口にする。
恐怖心は全く無い様子だ。


「いきなり攻撃すれば、
 エルフとルミナスの戦争に発展するぞ」


もう一人のエルフが、
嫌らしい笑みを浮かべて話す。


「何を言う、お前らこそ、
 私の家族を攫おうとしているじゃないか」


クレアは光の剣を後方の者達の足へ飛ばす。
足を刺されたエルフ達は、これで自由に動けない。


「貴様、タダでは済まさんぞ!」


正面こエルフ達が苛ついている。
クレアは更に20本の光の剣を呼び出し、
後方のエルフへ再度剣を向ける。


「二度と立ち上がれないようにも出来るぞ。
 それが嫌なら手を引け」


クレアは本気だ。
ユーリに危害をなす者には容赦しない。
しかし、事態は一瞬の出来事だった。
気付けばユーリとの距離が離れている。
その瞬間を狙われたのだ。


突然、霧を生み出す魔法が発動して、
瞬く間に霧が、長老の家の周りを包み込む。
クレア達は、周りを一切認識することが出来なくなってしまった。


「ユーリ、こっちだ!」


クレアは急いでユーリの手を引いて逃げ出す。


「あ、あねご……」


すぐにクレアと合流出来て、
ユーリも心から安心していた。
その手を握りしめて霧の晴れている場所へ向かう。


「ここまで逃げれば安心だろう」


「あねご、ありがとう……」


そしてクレアはユーリに向き直す。
その笑顔はいつものクレアに見えるが、
ユーリは何か違和感を感じていた。
それは里に入った時にも感じた違和感だ。


「あ、あねご……
 私たちって何のために来たんだっけ?」


「何を言い出すんだ、ユーリ!
 そんな事、皆んなの幸せの為じゃないか」


その瞬間にユーリは悟った。
目の前にいるのは、クレアではない。
クレアの皮を被ったエレノアだと……


そしてユーリの身体から魔力が溢れる。
魔女との遭遇で手を抜いたら、
すぐに支配されてしまう為、
初手から全力を出すと考えていた。


氷魔法レベル4、コキュートス
修行の成果で他にも魔法を覚えたが、
詠唱速度に一番自信がある。



「な、なにをするんだ……
 ユーリ!」


「あねご……
 いや、貴方はエレノアでしょ!」



ユーリの手から放たれた氷の魔法は、
氷柱となり相手に向かう。


「酷いよ、ユーリ……
 お前と私は、友達じゃないか!」


ユーリは許せなかった。
クレアの名前を語るだけならまだしも、
絶対に言わないようなセリフを吐き、
クレアを愚弄したのを許せなかったのだ。


珍しくもユーリは怒りに震えて、
コキュートスを連続で放つ。


しかしその時、
エレノアの周りに魔力が溢れ出した。


「使い魔召喚」


冥界の悪魔、アークデーモンを召喚した。
デーモンは暗黒魔法を放ち、
ユーリの氷魔法と衝突し消滅した。


「それにしても、
 よく気づいたわね」


エレノアは、嫌らしい笑みを浮かべながら、
デーモンに指示を出しユーリに向かわせる。


「コキュートス!」


魔力を込めた氷柱を放つ。
その強力な氷の魔法にデーモンは立ち止まる。


「素晴らしいわ……
 その力、絶対に手に入れたくなった!」


エレノアは再度身体に魔力を集めて魔法を放つ。


「使い魔、召喚」


暗黒の渦から使い魔が現れる。
クリスタルのような形をした生命体だ。


「エレメンタルクリスタルよ!
 氷属性になりなさい」


エレノアが言葉を発すると同時に、
クリスタルの色が白色に変化した。


続けてユーリはエレノアに向けて、
コキュートスを連発する。
しかし、全ての氷魔法はユーリの命令を無視して、
クリスタルに引き寄せられてしまう。
そして全ての魔法は吸収されてしまった。


「ふふふふ、過去の偉大な魔法使い達も
 これに沈んだのよね」


ユーリは唇を噛み締める。
死に物狂いで訓練した氷魔法が、
あっさりと攻略されてしまった。
相性の悪い使い魔により攻撃の手がない。


「さあ、デーモン。
 あの子を捕らえなさい」


ユーリの元にデーモンが迫る。
その姿を目前にした時、ユーリの目に涙が溢れる。


「あねご、クリス……
 ごめんなさい……」



エレノアに捕らえられると、
即座に使い魔にされてしまう。
ユーリの元にデーモンが接近する。

そして、ユーリに危機が迫る中、
今もクリスは霧の中を全速力で駆け抜けていた……
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