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第50話 作戦

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作戦当日を迎えて各自、集合場所に集まる。
カートの手筈通り、エルフの里には観光客を装い、正門から侵入する計画だ。


大樹に魔力が集まる百年に一度の周期と言われ、
限界量を超えると、少しずつ魔力を放出する。
魔力は黄金に輝き、シャボン玉のように浮き上がる。
古代の学者が、まるで魔力の宝石だと表現した。

そして、その年に行われる祭りを魔宝祭と呼ぶようになったのだ。
その美しい光景を見ようと、他国からも大勢の観光客が訪れる。



「ユーリ、昨日はちゃんと眠れたのか?」


「……はい」


この作戦、ユーリに危険がつきまとう。
安全に終わると信じていても、
魔女の従属化、擬態に不安を感じていた。
それを気にしてか、昨日は全然寝付けなかったのだ。


「ユーリ、協力してくれてありがとう。
 後は俺達が必ず守ってみせる」


カートの言葉が、ユーリの心を落ち着かせる。
囮捜査の謝罪を敢えてせずに、
ユーリの心のケアに専念した。


「カートさん……」


二人は里の門に到着する。
ここまで来たら、信じるしかないと、
ユーリは覚悟を決めて足を踏み入れた。


魔宝祭のために門番が検問している。
観光客に紛れて盗賊が存在する為、
持ち物検査、身体検査を徹底していた。

一瞬、門番がこちらを見て立ち止まり、
沈黙の時間が流れた。
しばらくすると持ち物を調べて通行許可を出す。


「よし、通って良いぞ」


「はい……」


ユーリは心臓が止まりそうだった。
ここで止められて騒がれてしまうと、
全てが台無しになる。
そう思うと緊張で冷や汗をかいていた。



「し、死ぬかと思いました」


「あぁ、心臓に悪いな……」


問題なく門を通過する事ができ安堵した。
更に二人は直進する。


「さあ、長老の家はこのまま直進して、
 一番奥の大きな家だ」


「す、凄い人と出店ですね。
 あ~美味しそうな食べ物が……」


出店で売っている、エルフ人形焼き、
魔宝水飴、オーク肉まんと様々だ。
ユーリにとって涎の出そうな食べ物ばかりで、
今すぐに全てを投げ出して食べたいと心の中で涙するのだった。


「カートさん、
 もし上手くいったら奢ってください!」


「え?」


嫌とは言えない状況に心の底から涙する。
この作戦が終わったら贖罪込めて、
たんまり奢ろうとカートは考えたのだった……


「わ、分かった!
 無事に終えたら奢る……」


「うそ!やったーー!
 

あまりの喜びに大声ではしゃぐユーリ。
いきなり騒がれると変に注目浴びるため、
カートは焦ってしまう。


「お、おい!
 大声を出すな……」


「えへへへへ」


恥ずかしくて、ほんのり顔を赤くする。
美味しい食べ物の為にも頑張ろうと気合を入れた。


「カートさん、ありがとう!
 元気が出たよ!」



「よし、その意気だ!
 とっとと終わらせて祝勝会にしようぜ!」



そしてカートとユーリは前に進む。
人混みの中でも特に目立った気配はない。
だが、そう遠くない距離からクリスや
クレア、賢者が目を光らせる。
特に変な輩が接触しようものなら、
クレアは神速で駆けつけるだろう。


「さあ、目的地まで後わずかだ。
 目の前に見える青い屋根の大きな家が
 長老宅だ」


ついに長老の家に到着した。
ここまで邪魔者はいない。
そしてカートが持つリュックの中には、
納品する果実が沢山入っている。
これから手筈通りに果実の納品を行う。


「ユーリ、いくぞ…」


「はい…」


カートがドアをノックすると、
中から女性の声が聞こえてくる。
ドアは開かれ、40代くらいの女性が現れた。



「果実の納品に来ました!」



「あらあら、ご苦労様。
 そちらの可愛い子さんもありがとう!」


笑顔で挨拶をされる。
とても魔女が化けているとは思えない。
そして納品中、カートは部屋の中を見渡す。
奥の居間に二人の女性がおり、
恐らく長老家の母、娘と認識できたが、
特に変わった印象は無かった。


「重いのに大変だったでしょう~」


「いえいえ、仕事ですので慣れましたよ~」


全く業者にしか見えないカートに、
ユーリは感心していた。
カートは王都で特別な訓練もこなしている。
業者の制服を着たカートは、
どこから見ても騎士には見えない。
今は業者のおじさんである。



「お礼にお茶でも出しますので、どーぞ」


好意で飲み物を出してきたが、
魔女が化けている前で、睡眠薬入りのお茶を飲まされたら即刻従属化されてしまう。



「いえいえ!次のお客さまがいますので……
 おい!いくぞ!」


「あ!ちょっと待って!」



カートはユーリの手を引いて、
強引に外に出た。



「カートさん、痛い…」


「す、すまん!緊急事態だった」


「た、確かにお茶やクッキー出されたら、
 私食べちゃいます……」


ジト目でユーリを見る。
食べ物は最大の弱点だったのだ。


「まあ、ひとまず作戦としては、
 今のところ成功だ……
 変わったところはあるか?」


「あの……違和感を感じています。
 それが何なのか分からないです」



実はユーリはこの里に来て、
ずっと違和感を感じている。
しかし言い表すことができないでいた。


「それが重要な手がかりになる気がする……
 分かったら教えてくれ」


そして来た道を戻ろうと直進すると、
正面からエルフの剣士五人が現れた。
気づくと後方からも五人が近づいている。


「おいおい、なんで魔女じゃなくて、
 エルフの剣士に囲まれているんだ?」



「……………」



急に現れたエルフの剣士達、総勢十人。
カートとユーリは完全に囲まれてしまう。
長老の家の前に観光客はいない。
ここは、襲うためには絶好の場所だ。


「お前たち、何の用だ?」


「その娘を置いていけ」


「断ったら?」


話の通じない相手のようだ。
正面の剣士達が抜刀し始める。
エルフの剣士は元々ルミナスの騎士よりも強い。
精鋭達十人となると、
流石にカートでも手に負えない。



「ここで死んでもらう」


「やっぱりそうなるか……
 だが、簡単には死なないし、
 ユーリも渡さない!」



すると正面の剣士一人が接近する。
カートとエルフの剣士の戦闘が開始した。


「カートさん!」


「ユーリ、絶対に俺から離れるな!」



そしてその時、
更に上空から一名が接近する。
即座にユーリとカートの間にはいる。



その人物は誰しもが知る、
ルミナス最強の宮廷魔術師、
クレア・レガードだ。



クレアはエルフの精鋭達へ戦いを挑む。
だが、魔女エレノアはその様子を遠くから見つめており、不気味な笑みを浮かべるのであった……
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