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第40話 目覚める力

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魔女狩りを倒し、森を進んでいる。
ユーリの精神状態も落ち着き、
ようやく前進できるようになったのだ。

それにしても魔女狩りの目的が分からない。
ユーリの隣には母上がいる。
母上がいる以上、戦力を揃えなければ自殺行為だ。


「まあ、安心しなさい、この私がいるのよ。
 どんな敵でも一瞬で塵にしてやるわ」


二人とも不安が顔に出ていたのか、
俺とユーリを元気づけようと母上が言った。
しかしあながち嘘ではなく、
本当に有言実行してしまう気がする。


「ユーリ!ここを出たら美味い物食おうぜ!
 クレアさんの奢りで」


「な、何!あねごの奢り!
 何と幸せを感じる響き」


「お、おい」


いきなりユーリは星のように目を輝かせて笑顔になった。
俺はアリスを妹に持つ兄であるため、
こんな時にどんな言葉を選べば良いのか、
経験で分かっている。


「ここを出たら確か、
 山脈の前に小さな村があったような」


ユーリは記憶の中から、
その村の名産を必死に思い出そうとしている。


「わかった、麓の村まで着いたら、
 何でも奢ってやる!」


「あねご、一生付いていきやす!」



奢ってくれると分かってから、
ユーリはいつもの調子を取り戻した。
俺も母上と距離を縮めることが出来て嬉しく思う。




そして一同が前向きに歩き出して1時間経過する。
モンスターも出現したが、
俺とユーリだけでも対処できる相手ばかりだった。



せっかくユーリも調子を取り戻したが、
俺と母上は、途轍もない魔力の波動を感知する。



「おい!お前たち!
 今すぐに私の後ろに隠れろ」


「あ、あねご!」


母上も相当の強者だと感じ取ったようだ。
魔力の質からして魔女狩りや魔物の比ではない。


「私が前衛でいく!
 お前たちは私を援護しろ」


「あねご、何が来るのさ?」



俺も、まさかここで出会ってしまうとは思ってもいなかった……
精霊の中でも精霊王は圧倒的な存在。
炎を操る精霊王は、その者だけだ。
そして、その名は……




「精霊王イフリート」




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



急激な速度で俺達の前にイフリートが現れた。
容姿は獅子に近く、
身体は彫刻のような肉体をしている。


「ほう、お前が理を覆すものか……
 意外と小さいな」


な、何なんだ?
理を覆す者?


「意味が分からないようだな……
 まあ良い、我が炎、その身に刻め!」


イフリートの周りに螺旋状の炎が現れる……
シャルロットが使っていた絶対防御の炎だ。


「燃え尽きろ」


イフリートが声を発すると共に、
俺たち三人の足元に魔法陣が生まれる。
そして強烈な火柱を発生させた。


全員、何とか回避したが、
俺とユーリは間一髪での回避だった。


「インフェルノ、だと?」


母上は、インフェルノを間近で見て、
イフリートの力に唖然としている。


「全員回避したか……
 どこまで続くかな?」


更にイフリートは俺の前に接近して、
殴りかかってきた。


「クリス!」


意外にも一番に反応したのはユーリだった。
ユーリの氷魔法による壁が、
俺とイフリートの間に現れて攻撃を防いだ。


「良くやった、ユーリ!」


ユーリには間違いなく魔法の才能がある。
唯一の固有魔法である氷魔法に加えて、
卓越した魔力制御、戦闘においては意外と冷静な状況判断。
魔女狩り絡みの件は置いておくと、
その才能は同年代とは思えなかった。


俺は反撃のチャンスを狙い、
手に魔力を溜め水の弾丸を連射した。
それは訓練中にフィリアから教えてもらった、
水魔法レベル3バブルバレッド。


しかしイフリートの螺旋の炎により、
全て防がれ高熱の炎に、水の弾丸は簡単に消滅した。


「ほう、水魔法を使うとはな……
 だが我の炎にその程度の威力では無意味」


イフリートの周りに炎のオーラが溢れ、
真紅の色が徐々に青色へ変化する。



「ユーリ、お前は先ほどの氷の壁を、
 すぐに発動できるように準備しておけ!」



イフリートから感じる魔力は、
間違いなく高密度の魔力だ。
もし高位の魔法を発動した場合、
母上はユーリに氷の壁で防ぐように指示をした。



「この魔法まで防げるかな」



イフリートの青い炎が魔法に変わり、
目前に炎の竜巻を発生させる。


「クリスが狙われる!」


「クリス!」


突如のことだった。
二人とも俺が狙われるのを察知すると、
必死な形相で近付いてきた。


更にこの瞬間、
仲間を救いたいという強い気持ちが、
ユーリの力を目覚めさせる。


「コキュートス」


密度のある氷柱が連続で立ち、
炎の竜巻に向かう。


「ほう、素晴らしい魔法だが、
 まだ練度が足りないな」


炎の竜巻は氷柱を少しずつ飲み込み、
俺の元に近づいて来る。


「私を、舐めるなよ……」


母上の身体にも光のオーラが溢れて、
上空に巨大な光の剣を発動した。


俺は母親の圧倒的な力に驚愕している。
複数の小剣ならまだしも、巨大な光の剣を出した事に驚きを隠せない。


その光の剣を竜巻にぶつけて、
凄まじい破壊力により竜巻は消滅した。


「素晴らしいぞ、其方達!」


巨大な光の剣を出してみせた母上。
強力な氷魔法を発動したユーリ。
イフリートは二人を讃えていたが、
すぐにその視線は、俺に切り替わる。
それはまるで覇王に対する興味が更に湧いたようだった。




「そうか、ならば……
 邪魔者が入らぬようにしてやろう」





再度イフリートの周りに魔力が溢れる。




「無限牢獄」




そして何人たりとも入れない炎の牢獄が現れ、
結界のように俺とイフリートを囲んでしまう。
外の景色も見えなくなってしまった。




「クリス!」




母上の声が一瞬聞こえたが燃え盛る炎の音に、
その声はかき消されてしまう。





「やってくれたな……
 イフリート……」




しかし精霊王を前に、何故か恐怖を感じない。
炎の牢獄に閉じ込められていても、
自分自身が戦いたいと願ってしまう。
そう心が、覇王が突き動かしている。





「見せてみろ……
 お前の本当の力を……」





イフリートが声を発すると同時に、
俺も姿を変えて、覇王を発動する。
そして精霊王に共鳴するように覇王が進化した。



スキルがレベルアップしました。
覇王Lv.1 → 覇王Lv.2



「覇王を持つ者よ……
 全力でかかって来い……」



「後悔させてやるよ!
 イフリート……」




そして、更なる覇王の力に目覚めたクリスと、
精霊王イフリートの戦いが幕を開ける……
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