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第37話 出会い

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潮風の匂いがする……
波の音、カモメの鳴き声。
手には砂の感触がある。
ここは……海だ。


どれくらい経っているの分からない。
そして無事に過去へ時を遡ったのだろうか……





「フィリア……」




強烈な別れだったため、
脳裏にフィリアの笑顔が焼き付いて離れない。






「クリス君……
 貴方のこと、愛しています」






フィリアとの口づけを思い出す。
気づけば涙が頬を流れていた……
フィリアの想いを知り胸が苦しくなる。



そして最後にフィリアが、
微かに告げた言葉も思い出す……



「クリス君……
 必ず帰ってきて!
 そして……」




「貴方に、もう一度会いたい」





フィリアは、俺にそう告げた……




「フィリア、ずるいよ!
 そんな風に言うのは……」






しばらく経ってから、塞いでいた気持ちも少しずつ落ち着いてきた。
幸い、まだ二人とも救える。
全ては俺次第というわけか……




「10年前なんだよな?」



「ここはどこだ?」




辺り一面に広がる砂浜、海。
人生で一度きりしか訪れたことはないが、
確かここは……




「まさかミゲルか?」




港町ミゲル。
公爵達と出会った場所であり、
ここから船でエルフの里まで向かう事になった。



そして町に向かうために、浜辺を歩き始めると、
一人の少女が倒れていることに気づく……




「え?」




大丈夫か?
死んでないよね?



「おい!生きているか?」



「っう……」



脈拍はある……
魔力も枯渇していないようだ。



「おい!」




「お……」





「ん?」




「……お、お腹すいた」




「はい?」



少女は青色の髪で同い年くらいだろう。
目は彫りも深く、10代前半にしては顔が整っている。
間違いなく美形なのだが、
それも少女の耳を見ると納得した。
そう、この耳はエルフに違いない。
だが何故ミゲルから少し離れた浜辺にいる?



「腹減ってるなら飯食わしてやろうか?」



「ほ、ほんと~!」



目から星が出るのではないかと思うくらいに、
目を輝かせながら飛び上がる。
それくらいに飯の単語に食いついた。



「いや、持ってるお金で足りたらね」


「ゴブリンの指でもオークの足でも、
 何でも良いので、食べさせてください」


「いきなり食欲無くなりそうな事を、
 言わないで」



エルフの髪色で青は珍しいな……
大体緑か金色、茶髪だった気がする。


「名前は何ていうの?」


「私、ユーリ!」


「俺はクリスだ!」



そしけ自己紹介を終えたところで、
ユーリのお腹の音が悲鳴をあげる……



「クリス!早く飯!」


「はいはい!」


ちょうどミゲルまで行きたかったから、
このまま飯行くか……




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



港町ミゲル。
以前来た時はすぐに町を出てしまった……
公爵の家に挨拶に行っただけで殆ど見ていない。
そしてこの世界は、10年前だけど人は多いようだ。


「クリス、クリス!
 串焼きにしよう!」


「おお!海鮮串焼きか!」


海の幸をそのまま塩で食べる串焼き。
魚、イカ、タコ、様々だ。
これは美味そうだ。
食材の良さを引き出すように、塩だけかけて食べる。
余計な味付けは、しないようだ。


「クリス!早く!早く!」


まるでリズムを取るように急かす。
小動物のように可愛らしい。
同い年くらいだろうが背は低い方だろう。



「おっちゃん、串焼き2本!」


「はいよ!」


硬貨は10年前と共通で助かった……
ひとまず食いっぱぐれないで済みそうだ。


「はぁ~~」


串焼きを渡そうとすると、
ハートマークが出そうな瞳で見つめている。
串焼きをだが……


「涎垂らすなよ」


俺が笑いながら言うと、
ユーリはじゅるっと涎を拭く。


「早く!早く!早く!」


もう我慢の限界のようだ……
早く食べさせてあげよう。
浜辺でもだいぶ餓死寸前だったようだし。


「はい!ゆっくり噛んで食えよ」


「がぶっ」


本当に美味しそうに食べるな……
食べっぷりを見てるだけで幸せになる。
結婚の理由にそう言う人がいると聞いたことがある。
それは目の前のユーリの食べっぷりを見ると、
あながち嘘でもないと思ってしまった。


「美味しい~」


目をキラキラ輝かせながら食べている。
今度は目から沢山の星がキラキラ出てきそうな勢いだ。


「良かったな」


こいつの笑顔を見てると、
何か優しい気持ちになる……



「ところで、お前どこから来たんだ?
 誰か知り合いいるのか?」



「あ……」



何か思い出したような顔をしたと思うと、
次には思い出した事に唖然としている。
油断したせいか最後の一口を落としてしまった。


「は~~~」


そして今度は、この世の終わりの顔をしている……



「はははは!
 ほら!俺の分をやるよ!」



「へーーー!
 クリスの良いの?」



「いいよ、食え!」



機嫌を良くしたユーリはまた食べ始めた……
俺の食べかけでも気にせず、
嬉し過ぎて目を輝かせている。



よほどお腹すいてたのかな?
ん?さっき何か思い出したみたいだけど、
大丈夫なのだろうか……



「さて、そろそろ食べ終わったし、行くかな!」



「クリス!串焼きおいしかった!」





そして、そろそろ俺はユーリと別れようと思っていた最中、丁度ユーリを探していた人物が現れた。




「あ~~!やっと見つけた!」



「やべ!あねごだ!」



「あねご、言うなって言ってんだろ!」



その女性はげんこつをユーリの上に落とす。
ごちんと音がした。
とても痛そうにしているユーリを見てると、
こちらも痛みを感じるようだ。



「あ~イタタタ……
 酷いよ~暴力女」



「あ~そんなこと言ったら夕飯抜き!」



「うそうそ!
 あねごは超美人で、超優しい!」



夕飯抜きと言われた途端に、
急にご機嫌取りを始めるユーリ。
分かりやすいくらいに現金である。





「ところでお前……
 どっかで私と会ったことあるか?」






「……………」







「ねぇ………聞いてる?」






「……………」






「…ねえ………

 …………何で…
 
 何で、泣いてるのよ?」







「………母上」







そうだ、この出会いの可能性を、
何故俺は考えていなかったのだろう……
10年前に過去を遡るのであれば、
出会う可能性だってあったはずだ。



目の前にいる女性は、
俺が2歳の時に亡くなった、
世界で俺にとって一人しかいない母親。



クレア・レガードだ……
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