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第36話 時空

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エルフの里にオーク大群の襲来を予期していたが、
突如現れた魔王軍四天王、黒騎士セト。
その規格外の化け物を目前としている。


「久しぶりに暴れてやろうじゃないか」


賢者はそう言うと、身体の周りに濃密な魔力を纏う。
魔力での身体強化だ。
賢者ほどの熟練した魔力であれば尚更、
身体強化のレベルも上がる。


「セト、叩きのめしてやるよ!」


賢者は黒騎士に急接近して、強化格闘術で戦う。
まるでこの戦い方はフィリアそのものだ。


「フィリア!よく見ておきな!
 これが本当の強化格闘術さ!」


そう言いながら蹴りで黒騎士を弾き飛ばす。
そして黒騎士の乗っていたワイバーンを手刀で撃破した。


「す、凄い!」


フィリアは賢者の血を引き継いでいるだけでなく、
スキルも受け継いでいた事に感動している。
それだけでなく身体強化のレベルが凄まじく高く、
四天王を弾き飛ばしている様に衝撃を受けているのだ。


セトが弾き飛ばされた場所を見ると、
その場所から魔力が漏れている……


「流石にこれで、くたばってくれないか」


「安心したぞ、500年前と変わらない格闘術!
 久しぶりに楽しめそうだ!」


セトも禍々しい暗黒のオーラを纏う。
暗黒魔法をベースに身体強化をしているようだ。


「いくぞ!
 一撃で死ぬなよ、ロゼ」


高速移動したセトが近づき、賢者の背後に周り、
今度は蹴りで反撃する。
弾き飛ばされた賢者は、
魔法の障壁を前方に張り衝撃を和らげた。


「ほう、器用な真似をする」


「長生きしてると色々覚えるんだよ!
 年の功ってやつさ」


改めて暗黒のオーラを纏い、
セトは身体強化を施す。


「次も凌げるかな?」


セトが正面から力押しで攻めると、
それに対して賢者も攻撃を受け止める。
更に両者握り合い力比べになった。
そしてセトの力を利用して賢者は攻撃をいなし、
強烈な蹴りによって再度セトを弾き飛ばした。


「はぁ……はぁ」


明らかに賢者は、疲れを見せていた。
これから使う魔法のために、
出来ればまだ魔法は使わず魔力を温存したい。
だが黒騎士相手に近接戦闘は、分が悪かった。



そしてセトは剣を装備し始める……
魔剣ではないが、所持している剣も業物だ。
黒騎士の剣技は魔界の中でも最高峰であり、
その剣技に魔王が惚れ込んだと言う。
まさに魔界最強の剣技を繰り出そうとしていた。



「殴り合いの中、
 剣の装備は卑怯じゃないかい?」



「戯れにも飽きた……
 一思いに殺してやる」



暗黒魔法を身体強化として体に纏わせ、
強烈な一撃が黒騎士セトから繰り出された。
まさに剣技における最高の一撃。
その一撃が賢者に迫る。




その瞬間、賢者はニヤリと笑みを浮かべた。




「次元結界」




クリスへかけたものよりも、
更に強い結界が黒騎士セトの周りを覆う。
そしてレベルの高いこの結界は、
発動者が死んでも消失はしない。



「万が一に備えていたけど、その程度の剣なら、
 この結界で時間稼ぎ出来る」



「お前、最初から、
 時間稼ぎするつもりだったのか」



セトに結界をかけてから、
賢者はフィリアの元へ歩き出した。



「賢者様、大丈夫?」


「大丈夫……と言いたいところだけど、
 もう魔力も残り僅かだよ」



俺は悔しくて堪らない……
まさか自分が足手まといになるなんて。
守られるだけの存在ではなくなっていたはずなのに。
そして大切な人を守れずに死なせてしまう。
それが悔しくて涙が出てくる……




「賢者様、フィリアさん……」



「馬鹿だね、泣いてるんじゃないよ!」



傷だらけになりながら、
賢者は俺に優しげな笑顔を向ける。



「フィリア、どれくらい完成してる?」



「もう、殆どできてます」



「よし、ここからはクリス!
 お前にしか出来ない事だ……
 よく聞くんだ!」



「賢者様……」



「お前を、過去に送る……
 10年前の私に会いに行くんだ!
 お前をたっぷり痛めつけて鍛えてやる」



「そんな事が……」



賢者は、懐から魔法の筒を取り出す。
その筒に魔力を溜め込んでいた。



「大魔法を使う!
 この筒には私が400年溜めた魔力がある……
 でも、それでも魔力が足りないんだ」



「それじゃあ、どうやって……」



俺は魔力が足りない時の方法を考える。
そして一つの結論に達した。



「まさか!!」



「そう、私たちの生命力だよ……」



「そ、そんなのダメだよ!」



賢者は魔力の筒を飲み干した。
すると賢者の周りに黄金に輝く魔力が溢れていく。



「クリス、お前にしか出来ない、
 覇王を持つ者の運命だ」



「賢者様、でもそんなのって……
 あんまりだよ!
 二人が死ぬなんて……いやだよ!」



「フィリア、時間がない……
 後は頼むぞ」



「クリス、過去の私がお前をこちらに送る!
 今度は、お前が黒騎士を倒すんだ!
 そして私たちを救ってくれ……」



「賢者様!」



そう伝えると魔力を使い切り、フィリアへ送る。
そして生命力を使い果たした賢者は、
少しずつ身体が消えてしまう……


「いやだ……
 い……やだ……」



「賢者様……」



「クリス、後は頼んだぞ……
 これは、お前の物語だ」



賢者ロゼは、光の粒子となり消えていく。
存在自体が無かったかのように……
そして賢者が消えた事で結界も消えてしまった。






「クリス君……」
 





「フィリアさん……」






気づけば俺は、
フィリアに抱きしめられていた。






「クレア様に言われたことが今なら分かる」






「…………」






「私の可愛い弟子……
 気づけば私の中で大きくなって、
 貴方は、私の大切な存在になった……」






「え?」






目に溢れるほどの涙を溜めたフィリアは、
俺に口づけを交わす。






「クリス君……
 貴方のこと、愛しています……」





「フィリアさん……」





そしてフィリアは、
目を輝かせながら俺に話しかける。




「クリス君……
 必ず帰ってきて!
 そして……」




「フィリア!」




その瞬間、フィリアの周囲に魔力が溢れる。
更に生命力を燃やし続けて、
クリスの足元に大きな魔法陣を発生させた。


フィリアが魔法を唱えると共に、
クリスはこの次元から姿を消す。
そして時空を超えていく。


生命力を燃やし尽くしたフィリアは、
光の粒子となり消えていった……
しかし託された想いはきっと伝わっている。
時空を超えたクリスは、
その想いを胸に突き進んでいく。
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