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第3話 FIVE
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「……あなた、もしかして、有限空間の人?」
清掃員の格好をしたおばさんが八津を覗いている。
「そういうおねえさんは、無限空間の方ですか」
「やだ、おねえさんだなんて、口が上手いわね」
おばさんの表情は、しかし全然笑ってはいない。
「あんたあれでしょ、あの女の手伝いしてるんでしょ」
「あの女とは」
「とぼけなくていいのよ、あの乳のデカい女のことよ」
さすがはおばさん、何の恥じらいもない。
「悪いこといわないから、よしときなさいよ。きっとロクなことにならないから」
「それはどういう意味です。何かご存じなんですか」
「やっぱり知らないのね? まあ仕方ないけどさ、いいわ、教えてあげる」
おばさんが初めて笑った。扉で半分顔が見切れているので余計に怖い。
「あの女はね、あなたを騙そうとしているのよ。あなたいいように使われてるの」
「そんな気は微塵もしませんが」
「上手いからね、男をたぶらかすの。あなたもう寝た?」
「いいえ」
「でも寝たいと思ってるでしょう」
「できれば」
「気をつけなさいね。あの女に誘われても乗っちゃダメよ」
「ご忠告感謝します」
「あの女が何といったか知らないけどさ、結局足掛かりにしたいわけよ、そっちの世界への」
「有限空間へのですか」
「いずれ全部侵食されてしまうわよ? そうなってもあなた責任持てる?」
「有限空間に侵食して何のメリットがあるんですか」
おばさんがニヤリと笑い、声を潜めた。
「それはね…………よ」
「え?」
よく聞こえない。八津が近づこうとした時、
「ハイ」
とびっきり笑顔の外国人が八津の肩を叩いて振り向かせた。
『バタン』
扉が閉まり、おばさんが消えた。
「コンニイチワ。チョトよろしいですかあ?」
独特のイントネーションだ。日焼けした笑顔がまぶしい。整列した歯は真っ白だ。
「な、何でしょう」
「ニホンの地下鉄、出口探すのムズかし過ぎマース。8番出口はドコですカ?」
そんなの、すぐそこじゃないか、百舌鳥と一緒に下りてきた階段を上がれば……と八津は思ったのに肝心の階段がどこにも見えない。
(げっ、階段消えとる)
さすがの八津も焦った。おばさんと話している間に階段がなくなってしまっていた。
「実ワア、さっきカラおんなじトコロをグルグルグルグル回ってマース。助けてクダサイ、ヘルプミー」
この外国人は、顔は笑っているが目が死んでいる。八津は寒気がした。だがよく考えてみるとこの外国人も無限空間に迷い込んだわけで、八津と境遇は同じといえる。
「えっと、ここから抜け出すには異変を見つける必要があるんです」
「イーヘン? おかしなトコロってコトですカ?」
「はい。ループする異変、点字ブロックの異変、立入禁止の扉の異変、今のところ3つ見つけています」
話しながら、八津はあのおばさんも異変の数に含まれるだろうかと思った。それなら4つで、すでに半分は見つけたことになるのだが。
「あの、俺、八津っていいます。あなたは?」
「ワタシ? スミスといいマース」
「スミスさん。どうやらあなたも無限空間に迷い込んだらしい。協力して脱出しましょう」
「ダメよ」
端末から声が聞こえ、百舌鳥の顔が映っていた。
「八津さん、彼は協力者にはなれないわよ、敵でもないけど」
「お知り合いなんですか」
「ヘイ! ドコかで会ったコトありましたカ~?」
スミスが画面の百舌鳥を見ていう。
「聴いて。その場所に八津さん以外の人間がいたら、それはすべて異変としてカウントしてください」
「じゃあ、スミスさんや清掃のおばさんもですか」
「おばさん?」
「立入禁止の扉が8つあるんですが、そのうちの1つから、清掃員の格好をしたおばさんが話しかけてきたんです」
「何を話したの」
「えっと……」
八津は口ごもった。本人を目の前にしていえる内容ではない。
「いえないの」
「あ、はい、ちょっと」
「つまり、わたしのことなのね」
百舌鳥は思案顔になった。
「わかった、無理に話さなくてもいい。ただ、さっきから端末が正常に作動しないから、何らかの妨害を受けていると考えられる。その清掃員も関わっているかもしれない」
「百舌鳥さん」
「なに」
「信用していいんですよね」
「もちろんよ」
画面が真っ暗になった。発見済みの異変は、5つ。
清掃員の格好をしたおばさんが八津を覗いている。
「そういうおねえさんは、無限空間の方ですか」
「やだ、おねえさんだなんて、口が上手いわね」
おばさんの表情は、しかし全然笑ってはいない。
「あんたあれでしょ、あの女の手伝いしてるんでしょ」
「あの女とは」
「とぼけなくていいのよ、あの乳のデカい女のことよ」
さすがはおばさん、何の恥じらいもない。
「悪いこといわないから、よしときなさいよ。きっとロクなことにならないから」
「それはどういう意味です。何かご存じなんですか」
「やっぱり知らないのね? まあ仕方ないけどさ、いいわ、教えてあげる」
おばさんが初めて笑った。扉で半分顔が見切れているので余計に怖い。
「あの女はね、あなたを騙そうとしているのよ。あなたいいように使われてるの」
「そんな気は微塵もしませんが」
「上手いからね、男をたぶらかすの。あなたもう寝た?」
「いいえ」
「でも寝たいと思ってるでしょう」
「できれば」
「気をつけなさいね。あの女に誘われても乗っちゃダメよ」
「ご忠告感謝します」
「あの女が何といったか知らないけどさ、結局足掛かりにしたいわけよ、そっちの世界への」
「有限空間へのですか」
「いずれ全部侵食されてしまうわよ? そうなってもあなた責任持てる?」
「有限空間に侵食して何のメリットがあるんですか」
おばさんがニヤリと笑い、声を潜めた。
「それはね…………よ」
「え?」
よく聞こえない。八津が近づこうとした時、
「ハイ」
とびっきり笑顔の外国人が八津の肩を叩いて振り向かせた。
『バタン』
扉が閉まり、おばさんが消えた。
「コンニイチワ。チョトよろしいですかあ?」
独特のイントネーションだ。日焼けした笑顔がまぶしい。整列した歯は真っ白だ。
「な、何でしょう」
「ニホンの地下鉄、出口探すのムズかし過ぎマース。8番出口はドコですカ?」
そんなの、すぐそこじゃないか、百舌鳥と一緒に下りてきた階段を上がれば……と八津は思ったのに肝心の階段がどこにも見えない。
(げっ、階段消えとる)
さすがの八津も焦った。おばさんと話している間に階段がなくなってしまっていた。
「実ワア、さっきカラおんなじトコロをグルグルグルグル回ってマース。助けてクダサイ、ヘルプミー」
この外国人は、顔は笑っているが目が死んでいる。八津は寒気がした。だがよく考えてみるとこの外国人も無限空間に迷い込んだわけで、八津と境遇は同じといえる。
「えっと、ここから抜け出すには異変を見つける必要があるんです」
「イーヘン? おかしなトコロってコトですカ?」
「はい。ループする異変、点字ブロックの異変、立入禁止の扉の異変、今のところ3つ見つけています」
話しながら、八津はあのおばさんも異変の数に含まれるだろうかと思った。それなら4つで、すでに半分は見つけたことになるのだが。
「あの、俺、八津っていいます。あなたは?」
「ワタシ? スミスといいマース」
「スミスさん。どうやらあなたも無限空間に迷い込んだらしい。協力して脱出しましょう」
「ダメよ」
端末から声が聞こえ、百舌鳥の顔が映っていた。
「八津さん、彼は協力者にはなれないわよ、敵でもないけど」
「お知り合いなんですか」
「ヘイ! ドコかで会ったコトありましたカ~?」
スミスが画面の百舌鳥を見ていう。
「聴いて。その場所に八津さん以外の人間がいたら、それはすべて異変としてカウントしてください」
「じゃあ、スミスさんや清掃のおばさんもですか」
「おばさん?」
「立入禁止の扉が8つあるんですが、そのうちの1つから、清掃員の格好をしたおばさんが話しかけてきたんです」
「何を話したの」
「えっと……」
八津は口ごもった。本人を目の前にしていえる内容ではない。
「いえないの」
「あ、はい、ちょっと」
「つまり、わたしのことなのね」
百舌鳥は思案顔になった。
「わかった、無理に話さなくてもいい。ただ、さっきから端末が正常に作動しないから、何らかの妨害を受けていると考えられる。その清掃員も関わっているかもしれない」
「百舌鳥さん」
「なに」
「信用していいんですよね」
「もちろんよ」
画面が真っ暗になった。発見済みの異変は、5つ。
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