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第4話 ミノタウロスの砦
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「……しかし私はただでは帰りたくない。自分だけ快便となって帰るのは不義理に思えるのだ」
私は三人にそういっていた。こうなったら四人全員快便となってすっきりした上で帰還したい。
「そういってくれるのは有難いが、俺の便秘はなかなか頑固でな」
「お申し出は嬉しいけど、わたしは自力で出してみせるわ」
「わしにしてみれば五百日も千日も同じことじゃて」
三人はそういって首を振ったが、私は納得しなかった。
「みんなちょっと聴いてほしい。便秘への対応策としていくつか調べてみたことがあるんだ」
「もしかして、スマートホンでか」
オークの口からその単語を聞くと何だか不思議な感じがした。
「前の転移者はスマートホンを持っていて、グルグルで調べ物をよくしていた」
「グーグルな。んで、便秘になったらまず食物繊維の豊富な食べ物を摂るようにするんだ」
「ショクモツセンイ」
エルフが繰り返した。
「大豆、こんにゃく、さつまいも、ごぼう、きのこ、海藻……今いったものを積極的に摂るといいんだが」
「そりゃ無理じゃよ、若いの」
ドワーフが言下に答えた。
「何故だ。森にきのこくらい生えてるだろう」
「生えてたとしても、みーんな毒キノコよ」
「毒キノコしか生えない森なのか」
「違うわ。ミノタウロスの手下どもがみーんな採っていくのよ」
ミノタウロス? あの牛頭人身の魔物のことか。
「今手下といったが、ミノタウロスがこの辺りを牛耳っているのか」
「う~ん……この辺りってことはないんだけど、森を抜けた先、丘の向こう一帯は支配してると思う」
何だ。やっぱり敵はいるんじゃないか。
「敵っていうか、ただのわがままっていうか」
「以前は誰からも愛される性格だったと聞いている。ただ突然、配下の者たちを使って悪さを働くようになったらしい」
「じゃから、わしらの主食は木の実なんじゃよ。蓄えの小麦粉もそろそろ底を尽きかけておるし……どうしたものかの」
ここにきて食糧事情が逼迫していることもわかった。
「よし。では四人でそのミノタウロスを倒しにいこう」
「「「えええっっっ!!!」」」
三人同時に叫ぶ。
「む、無茶いわないでよ……そりゃわたしたちも困ってるけどさ」
「ミノタウロスは俺の倍以上の体格がある。俺たち四人まとめて踏んづけられるのがオチだろう」
「これ若いの。お前さんはあくまで転移者であって勇者ではないのじゃぞ」
「みんな、聴いてくれ。このままここにいても快便は無理だと思う。せめて何らかの突破口は必要だ。聞けばそのミノタウロスが森のきのこをごっそり持ってったそうじゃないか。そんな無理無法は断じて許されない。四人で力を合わせて悪を打ち砕こう」
「でも……」
「大丈夫。これでも異世界については多少の心得がある」
「心得って、あなた転移者じゃないの」
「私は転移者であり、作家だ。作家の想像力を馬鹿にしてはいけない」
本当に大丈夫かな……という空気をよそに、私は席を立っていた。
森で魔物に遭遇したら、とりあえず逃げようと身構えていたのだが、ドワーフいわく木と毒キノコしかめぼしいものがない場所なので魔物も棲息していないという。
やや肩透かし気味に森を抜けて辿り着いた砦は見るからに堅牢な造りで、オークと同じくらいの背格好のミノタウロスたちが辺りを警戒して立っていた。
「何だお前たちは!?」
ミノタウロス衛兵二人が早速飛んできて怒鳴る。
「恐れ入ります。私は見ての通り異世界からの転移者でございますが、この地域を支配しておられる御方に一度お目にかかりたいと思いまして」
「ほう、転移者か」
「久方ぶりだな」
衛兵はそれぞれ両手斧を手に互いに何やら話し始めた。
「本当に転移者だろうか」
「弟よ、見るがいい。あの戦う気の一切ない服装はまさしく転移者だ」
「確かに。しかし転生者かもしれない」
「この際、転移者でも転生者でも別に構わない。大事なことはボスに有益か否かだ、弟よ」
「確かに」
見た目のどこで区別するのか正直全然わからないが、おそらく兄の方が私に話しかけた。
「転移者よ。して貴様は我々のボスに対して何を与える?」
「はい。私が住んでいる世界の話をいたします」
「……要らん。異世界の話は聞き飽きておる」
ありゃりゃ? 転生者も転移者も多いからなあ……。
「……わかりました。では逆にお訊ねしますが、あなた方のボスが欲しいものは何ですか」
私がそう質問すると、ミノタウロス衛兵の兄と弟は再び顔を見合わせて話し始めた。
「兄さん。この転移者にも知恵を借りましょう」
「馬鹿いうな。ボスはあの転移者に騙されたのかもしれないんだぞ」
「この転移者はあの転移者とは違う気がしますよ、兄さん。一度謁見させてみましょう」
「ううむ……」
兄は相当悩んでいる風だったが、弟の説得に押し切られた。
「……よし。ボスへの謁見を許す。但しよく聴けよ転移者。我らのボスは気が短い。もし一言でも気に障ることをいってみろ、貴様の頭と胴体は永遠におさらばするぞ。わかったな」
「はいっ」
私は三人にそういっていた。こうなったら四人全員快便となってすっきりした上で帰還したい。
「そういってくれるのは有難いが、俺の便秘はなかなか頑固でな」
「お申し出は嬉しいけど、わたしは自力で出してみせるわ」
「わしにしてみれば五百日も千日も同じことじゃて」
三人はそういって首を振ったが、私は納得しなかった。
「みんなちょっと聴いてほしい。便秘への対応策としていくつか調べてみたことがあるんだ」
「もしかして、スマートホンでか」
オークの口からその単語を聞くと何だか不思議な感じがした。
「前の転移者はスマートホンを持っていて、グルグルで調べ物をよくしていた」
「グーグルな。んで、便秘になったらまず食物繊維の豊富な食べ物を摂るようにするんだ」
「ショクモツセンイ」
エルフが繰り返した。
「大豆、こんにゃく、さつまいも、ごぼう、きのこ、海藻……今いったものを積極的に摂るといいんだが」
「そりゃ無理じゃよ、若いの」
ドワーフが言下に答えた。
「何故だ。森にきのこくらい生えてるだろう」
「生えてたとしても、みーんな毒キノコよ」
「毒キノコしか生えない森なのか」
「違うわ。ミノタウロスの手下どもがみーんな採っていくのよ」
ミノタウロス? あの牛頭人身の魔物のことか。
「今手下といったが、ミノタウロスがこの辺りを牛耳っているのか」
「う~ん……この辺りってことはないんだけど、森を抜けた先、丘の向こう一帯は支配してると思う」
何だ。やっぱり敵はいるんじゃないか。
「敵っていうか、ただのわがままっていうか」
「以前は誰からも愛される性格だったと聞いている。ただ突然、配下の者たちを使って悪さを働くようになったらしい」
「じゃから、わしらの主食は木の実なんじゃよ。蓄えの小麦粉もそろそろ底を尽きかけておるし……どうしたものかの」
ここにきて食糧事情が逼迫していることもわかった。
「よし。では四人でそのミノタウロスを倒しにいこう」
「「「えええっっっ!!!」」」
三人同時に叫ぶ。
「む、無茶いわないでよ……そりゃわたしたちも困ってるけどさ」
「ミノタウロスは俺の倍以上の体格がある。俺たち四人まとめて踏んづけられるのがオチだろう」
「これ若いの。お前さんはあくまで転移者であって勇者ではないのじゃぞ」
「みんな、聴いてくれ。このままここにいても快便は無理だと思う。せめて何らかの突破口は必要だ。聞けばそのミノタウロスが森のきのこをごっそり持ってったそうじゃないか。そんな無理無法は断じて許されない。四人で力を合わせて悪を打ち砕こう」
「でも……」
「大丈夫。これでも異世界については多少の心得がある」
「心得って、あなた転移者じゃないの」
「私は転移者であり、作家だ。作家の想像力を馬鹿にしてはいけない」
本当に大丈夫かな……という空気をよそに、私は席を立っていた。
森で魔物に遭遇したら、とりあえず逃げようと身構えていたのだが、ドワーフいわく木と毒キノコしかめぼしいものがない場所なので魔物も棲息していないという。
やや肩透かし気味に森を抜けて辿り着いた砦は見るからに堅牢な造りで、オークと同じくらいの背格好のミノタウロスたちが辺りを警戒して立っていた。
「何だお前たちは!?」
ミノタウロス衛兵二人が早速飛んできて怒鳴る。
「恐れ入ります。私は見ての通り異世界からの転移者でございますが、この地域を支配しておられる御方に一度お目にかかりたいと思いまして」
「ほう、転移者か」
「久方ぶりだな」
衛兵はそれぞれ両手斧を手に互いに何やら話し始めた。
「本当に転移者だろうか」
「弟よ、見るがいい。あの戦う気の一切ない服装はまさしく転移者だ」
「確かに。しかし転生者かもしれない」
「この際、転移者でも転生者でも別に構わない。大事なことはボスに有益か否かだ、弟よ」
「確かに」
見た目のどこで区別するのか正直全然わからないが、おそらく兄の方が私に話しかけた。
「転移者よ。して貴様は我々のボスに対して何を与える?」
「はい。私が住んでいる世界の話をいたします」
「……要らん。異世界の話は聞き飽きておる」
ありゃりゃ? 転生者も転移者も多いからなあ……。
「……わかりました。では逆にお訊ねしますが、あなた方のボスが欲しいものは何ですか」
私がそう質問すると、ミノタウロス衛兵の兄と弟は再び顔を見合わせて話し始めた。
「兄さん。この転移者にも知恵を借りましょう」
「馬鹿いうな。ボスはあの転移者に騙されたのかもしれないんだぞ」
「この転移者はあの転移者とは違う気がしますよ、兄さん。一度謁見させてみましょう」
「ううむ……」
兄は相当悩んでいる風だったが、弟の説得に押し切られた。
「……よし。ボスへの謁見を許す。但しよく聴けよ転移者。我らのボスは気が短い。もし一言でも気に障ることをいってみろ、貴様の頭と胴体は永遠におさらばするぞ。わかったな」
「はいっ」
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