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認めるべきか、認めざるべきか

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 神殿長は俺の反応を見て薄く微笑む。
「我らにも宣託があったのですよ。パワーズ家に、光陰神の代言者が現れるであろう、と」
 神殿長は少しだけ勝ち誇ったような顔で俺と目を合わせた。
「宣託を授けられるのは、何もカヴェノ様だけには限りませんよ。そもそも、われらは神職なのですから」
 ……告げられた言葉に、それはそうだと納得した。神殿組織なら当然、宣託を授かることができるような信仰心篤い人材を、数多く抱えていることだろう。むしろ俺の方がイレギュラーなのだともいえる。
 ……まあ、俺の記憶が目覚めたのが、本当に神の御業であれば、の話だが。
 ともかくも、神殿長がわざわざ俺を呼び出した理由は理解した。
「それで、どのような宣託を授かったのか、改めてお聞きしても?」
 ううむ、と俺は唸る。この人は俺が受け取ったのが神からの宣託だと信じているようだが、実際俺が聞いたのって「目覚めよ……」の一言だけで、その結果としてカヴェノの中に俺というもう一つの人格が生まれたわけなんだが。
 いやまあ確かにここで礼拝しているときに授かったからさ。俺も元カヴェノもたぶん神の言葉だって思ったけど。
 だけど冷静になって色々考えているうちに、本当にそうなのかって疑問も沸いてきた。え? 神聖なる宣託を疑うなんてとんでもないだって? 元カヴェノ君はいい少年だが、信仰心が高すぎるのが玉に瑕だなぁ……。
 それはともかく。あれが神の宣託であったと信じるとしてだ。俺は神の言葉によって目覚めた人間なのだということになる。
 ……つまりこの人らの理屈でいうなら、この人格の俺が神の使途とかそういう扱いになるってことじゃね? これ、そのままこの人に伝えても大丈夫か?
 この世界でただ生きていくだけならば、ここでバラしてしまってもきっと問題ない。むしろ神殿が後ろ盾になるならば、この先の人生はイージーモードだっていえる。少なくとも食うものに困ることはなくなるだろう。
 その代わり、俺個人の自由というものはなくなるといっていい。神殿の意向に沿った振る舞い、神殿の意向に沿った生き方を強制され、清く正しく信仰心篤い人格者の仮面をかぶって、生涯を費やすことになるだろう。
 もちろんそういった生き方を貴び、神に仕えることを喜びとする方もいるのだろうし、その生き方を否定するものではないのだが……。
 俺にそれが務まるかといえば、到底無理だと断言できる。ここは慎重に対応すべきだろう。
「なぜそのような宣託があったのか、私にはわかりませんが……その宣託が正しいのだとすれば、後継者候補であるわが姉か長兄なのでは? もしくは現当主である父上か」
「ですがそのお三方とも、こう申し上げては何ですが……光陰神の教えを貴ばれる方々ではございませんよね」
 ですよねー。
 姉はあの通りの研究バカで、全盛における聖書やコーラン的存在の神書すら研究対象にする罰当たりだし、長兄は戒律破りなんて何のそのな放蕩息子だ。親父は二人と比べればまだマシな部類だが、どちらかといえば実利を重視する性格だから、神への信仰もそれが領政や貴族としての付き合いで利益があるからという側面が大きい。パワーズ家で最も信仰心篤いのがだれかといえば、ダントツでカヴェノ・パワーズなのである。
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