上 下
4 / 23

ヤミノ・パワーズ

しおりを挟む
「さて、どうしたものかな……」
 実用性重視の簡素なベッドに転がって、先のことを考える。
 神殿に入らないとなれば、選べる進路は限られてくる。
 一番無難なのはどこかの商家か同格の貴族家に婿入りすることだが、そうなればどちらにせよ決めるのは両親になるので、俺自身に選択肢はない。
 商家の主筋ではなく、見習いとして入るのであればある程度自由は利くだろうが、自前の組織を持てるようになるまでには相当な努力と時間が必要になるだろう。
 まあどのみち、俺一人で決められないことであるのは間違いない。最悪、家を出奔して腕一本で成り上がってゆくという道もある。相当ハードモードにはなるだろうが、浪漫だけはあふれている。
 俺の中の元カヴェノが、バカなこと考えずに素直に神殿に入ろうよとせっついてくるが、無視だ無視。

 さて。どの進路を選ぶにせよ、例外なく手に入れなければいけないのがカネと力だ。
 俺、カヴェノ・パワーズも一応は領主子息なので、幼少の頃より剣術の手ほどきは受けていて、十一歳の今、最低限の身体づくりはできている。平民のせがれよりはずいぶんと恵まれているといえるだろう。
 だが、俺に剣の才能は、おそらくそれほどない。三つ年上の兄は姉と比べれば平凡な人間だが、父に似たのか頑健な体格をしていて、その肉体を活かした剣の腕はパワーズ領の騎士たちと比べても遜色ない。対して俺は今のところあまり背も伸びず、同年代の村の子どもたちとも体格的にそれほど差がない。三年後に兄のようになれているかといえば、怪しいところだ。
 もちろん剣術修行をおろそかにするつもりはないが、別の技能を伸ばした方が得策だろう。
 それに、何といってもここは、魔術のある世界なのだ。ファンタジー世界の魔術。ぜひとも使ってみたい。そちらの方が何か悪のボスっぽいし! 人外の肉体的強さを誇る魔王タイプとか変身を残していたりするタイプならともかく、人型そのままの悪のボスが自ら剣で戦う図というのは、イマイチ締まらない絵だ。個人的イメージだけど。
 自分はその場から動かず、杖の一振りでヒーローを右に左に走らせるってのが、格上っぽくていいと思う。アンデッドとか、悪魔とかをわらわら召喚するのとかもいいな。で、自分は椅子にふんぞり返って眺めるのだ。
 うん。魔術方面を伸ばすのは、悪くない選択肢のような気がする。
 幸いにして、魔術に関してはコネがある。
 というわけで、俺は意を決して、館に滞在している姉を訪ねることにした。
 マルサを姉への使いへ出すと、ほどなくして中庭で会うとの返事をもらえた。
 姉は前世でいうところの、片づけられない女である。自室に招かないということは、姉上、また自分の部屋を魔境に変えてるな……。帰ってきてから一週間も経ってないのにどういうことだよ……。
 マルサを連れて中庭で待つことしばし、簡素なドレスの上に学院の制服であるオリーブ色の長衣を羽織った、俺と同色の黒髪ぼさぼさ頭にそばかすの目立つ童顔、俺より六歳年上とはどうしても思えないちんまい少女が、前世のコギャルが履いていたような超厚底サンダルをかぽかぽいわせながらやってきた。
 この実年齢十七歳の合法ロリこそが、我が実姉にして学院で魔術師資格と導師位を卒業と同時に取得した才媛、ヤミノ・パワーズである。
「何でまだ学園の長衣着てんだよ姉上……」
「ん、調合のとき便利だから」
 確かにそういうふうに着てたら医者や薬剤師さんの白衣みたいだけどさあ……。学校の制服って、卒業してから着たらもうコスプレなんだぜ?
 あと、自室を工房代わりにするのもおやめなさい。
 そんな俺からの白眼視を意にも介さず、姉は右足でたん、と地面を軽く叩く。
 すると、地面の一部が円柱状に盛り上がってくる。その平たくなった上面に、姉は腰掛ける。
 ……本当に、気軽に魔術を行使してきやがるな、この姉は。
 種を明かすと、姉が履いているあの超厚底サンダル、実は姉の発明品で、地面への指向性を限定として、術式を補助する回路と魔法陣が組み込んであるらしいのだ。なので、あのサンダルを履いていれば詠唱や予備動作を短縮して、足トン一つで地表に作用する魔術を行使できるのだそうな。
 いつだって口や手指が自由に使える状態にあるとは限らないものな。この発明が魔術師にとって画期的であろうことは、素人の俺にだってわかる。
 問題点は、見ての通りものすごく目立つ造形なので、そのサンダルを履いていますよ、ってのが誰の目にもバレバレなことであるが……。小型化は今後の課題であるらしい。
 でも俺&元カヴェノは、姉が自分がちっさいことをとても気にしていると知っているので、わざとこういう造形にしたんじゃないかと疑っている。この姉ならそれくらいはやる。俺たちは詳しいんだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

世界最強の勇者は伯爵家の三男に転生し、落ちこぼれと疎まれるが、無自覚に無双する

平山和人
ファンタジー
世界最強の勇者と称えられる勇者アベルは、新たな人生を歩むべく今の人生を捨て、伯爵家の三男に転生する。 しかしアベルは忌み子と疎まれており、優秀な双子の兄たちと比べられ、学校や屋敷の人たちからは落ちこぼれと蔑まれる散々な日々を送っていた。 だが、彼らは知らなかったアベルが最強の勇者であり、自分たちとは遥かにレベルが違うから真の実力がわからないことに。 そんなことも知らずにアベルは自覚なく最強の力を振るい、世界中を驚かせるのであった。

転生先が森って神様そりゃないよ~チート使ってほのぼの生活目指します~

紫紺
ファンタジー
前世社畜のOLは死後いきなり現れた神様に異世界に飛ばされる。ここでへこたれないのが社畜OL!森の中でも何のそのチートと知識で乗り越えます! 「っていうか、体小さくね?」 あらあら~頑張れ~ ちょっ!仕事してください!! やるぶんはしっかりやってるわよ~ そういうことじゃないっ!! 「騒がしいなもう。って、誰だよっ」 そのチート幼女はのんびりライフをおくることはできるのか 無理じゃない? 無理だと思う。 無理でしょw あーもう!締まらないなあ この幼女のは無自覚に無双する!! 周りを巻き込み、困難も何のその!!かなりのお人よしで自覚なし!!ドタバタファンタジーをお楽しみくださいな♪

拝啓、お父様お母様 勇者パーティをクビになりました。

ちくわ feat. 亜鳳
ファンタジー
弱い、使えないと勇者パーティをクビになった 16歳の少年【カン】 しかし彼は転生者であり、勇者パーティに配属される前は【無冠の帝王】とまで謳われた最強の武・剣道者だ これで魔導まで極めているのだが 王国より勇者の尊厳とレベルが上がるまではその実力を隠せと言われ 渋々それに付き合っていた… だが、勘違いした勇者にパーティを追い出されてしまう この物語はそんな最強の少年【カン】が「もう知るか!王命何かくそ食らえ!!」と実力解放して好き勝手に過ごすだけのストーリーである ※タイトルは思い付かなかったので適当です ※5話【ギルド長との対談】を持って前書きを廃止致しました 以降はあとがきに変更になります ※現在執筆に集中させて頂くべく 必要最低限の感想しか返信できません、ご理解のほどよろしくお願いいたします ※現在書き溜め中、もうしばらくお待ちください

若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双

たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。 ゲームの知識を活かして成り上がります。 圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。

異世界無知な私が転生~目指すはスローライフ~

丹葉 菟ニ
ファンタジー
倉山美穂 39歳10ヶ月 働けるうちにあったか猫をタップリ着込んで、働いて稼いで老後は ゆっくりスローライフだと夢見るおばさん。 いつもと変わらない日常、隣のブリっ子後輩を適当にあしらいながらも仕事しろと注意してたら突然地震! 悲鳴と逃げ惑う人達の中で咄嗟に 机の下で丸くなる。 対処としては間違って無かった筈なのにぜか飛ばされる感覚に襲われたら静かになってた。 ・・・顔は綺麗だけど。なんかやだ、面倒臭い奴 出てきた。 もう少しマシな奴いませんかね? あっ、出てきた。 男前ですね・・・落ち着いてください。 あっ、やっぱり神様なのね。 転生に当たって便利能力くれるならそれでお願いします。 ノベラを知らないおばさんが 異世界に行くお話です。 不定期更新 誤字脱字 理解不能 読みにくい 等あるかと思いますが、お付き合いして下さる方大歓迎です。

転生テイマー、異世界生活を楽しむ

さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

あの、神様、普通の家庭に転生させてって言いましたよね?なんか、森にいるんですけど.......。

▽空
ファンタジー
テンプレのトラックバーンで転生したよ...... どうしようΣ( ̄□ ̄;) とりあえず、今世を楽しんでやる~!!!!!!!!! R指定は念のためです。 マイペースに更新していきます。

平民として生まれた男、努力でスキルと魔法が使える様になる。〜イージーな世界に生まれ変わった。

モンド
ファンタジー
1人の男が異世界に転生した。 日本に住んでいた頃の記憶を持ったまま、男は前世でサラリーマンとして長年働いてきた経験から。 今度生まれ変われるなら、自由に旅をしながら生きてみたいと思い描いていたのだ。 そんな彼が、15歳の成人の儀式の際に過去の記憶を思い出して旅立つことにした。 特に使命や野心のない男は、好きなように生きることにした。

処理中です...