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ヤミノ・パワーズ
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「さて、どうしたものかな……」
実用性重視の簡素なベッドに転がって、先のことを考える。
神殿に入らないとなれば、選べる進路は限られてくる。
一番無難なのはどこかの商家か同格の貴族家に婿入りすることだが、そうなればどちらにせよ決めるのは両親になるので、俺自身に選択肢はない。
商家の主筋ではなく、見習いとして入るのであればある程度自由は利くだろうが、自前の組織を持てるようになるまでには相当な努力と時間が必要になるだろう。
まあどのみち、俺一人で決められないことであるのは間違いない。最悪、家を出奔して腕一本で成り上がってゆくという道もある。相当ハードモードにはなるだろうが、浪漫だけはあふれている。
俺の中の元カヴェノが、バカなこと考えずに素直に神殿に入ろうよとせっついてくるが、無視だ無視。
さて。どの進路を選ぶにせよ、例外なく手に入れなければいけないのがカネと力だ。
俺、カヴェノ・パワーズも一応は領主子息なので、幼少の頃より剣術の手ほどきは受けていて、十一歳の今、最低限の身体づくりはできている。平民のせがれよりはずいぶんと恵まれているといえるだろう。
だが、俺に剣の才能は、おそらくそれほどない。三つ年上の兄は姉と比べれば平凡な人間だが、父に似たのか頑健な体格をしていて、その肉体を活かした剣の腕はパワーズ領の騎士たちと比べても遜色ない。対して俺は今のところあまり背も伸びず、同年代の村の子どもたちとも体格的にそれほど差がない。三年後に兄のようになれているかといえば、怪しいところだ。
もちろん剣術修行をおろそかにするつもりはないが、別の技能を伸ばした方が得策だろう。
それに、何といってもここは、魔術のある世界なのだ。ファンタジー世界の魔術。ぜひとも使ってみたい。そちらの方が何か悪のボスっぽいし! 人外の肉体的強さを誇る魔王タイプとか変身を残していたりするタイプならともかく、人型そのままの悪のボスが自ら剣で戦う図というのは、イマイチ締まらない絵だ。個人的イメージだけど。
自分はその場から動かず、杖の一振りでヒーローを右に左に走らせるってのが、格上っぽくていいと思う。アンデッドとか、悪魔とかをわらわら召喚するのとかもいいな。で、自分は椅子にふんぞり返って眺めるのだ。
うん。魔術方面を伸ばすのは、悪くない選択肢のような気がする。
幸いにして、魔術に関してはコネがある。
というわけで、俺は意を決して、館に滞在している姉を訪ねることにした。
マルサを姉への使いへ出すと、ほどなくして中庭で会うとの返事をもらえた。
姉は前世でいうところの、片づけられない女である。自室に招かないということは、姉上、また自分の部屋を魔境に変えてるな……。帰ってきてから一週間も経ってないのにどういうことだよ……。
マルサを連れて中庭で待つことしばし、簡素なドレスの上に学院の制服であるオリーブ色の長衣を羽織った、俺と同色の黒髪ぼさぼさ頭にそばかすの目立つ童顔、俺より六歳年上とはどうしても思えないちんまい少女が、前世のコギャルが履いていたような超厚底サンダルをかぽかぽいわせながらやってきた。
この実年齢十七歳の合法ロリこそが、我が実姉にして学院で魔術師資格と導師位を卒業と同時に取得した才媛、ヤミノ・パワーズである。
「何でまだ学園の長衣着てんだよ姉上……」
「ん、調合のとき便利だから」
確かにそういうふうに着てたら医者や薬剤師さんの白衣みたいだけどさあ……。学校の制服って、卒業してから着たらもうコスプレなんだぜ?
あと、自室を工房代わりにするのもおやめなさい。
そんな俺からの白眼視を意にも介さず、姉は右足でたん、と地面を軽く叩く。
すると、地面の一部が円柱状に盛り上がってくる。その平たくなった上面に、姉は腰掛ける。
……本当に、気軽に魔術を行使してきやがるな、この姉は。
種を明かすと、姉が履いているあの超厚底サンダル、実は姉の発明品で、地面への指向性を限定として、術式を補助する回路と魔法陣が組み込んであるらしいのだ。なので、あのサンダルを履いていれば詠唱や予備動作を短縮して、足トン一つで地表に作用する魔術を行使できるのだそうな。
いつだって口や手指が自由に使える状態にあるとは限らないものな。この発明が魔術師にとって画期的であろうことは、素人の俺にだってわかる。
問題点は、見ての通りものすごく目立つ造形なので、そのサンダルを履いていますよ、ってのが誰の目にもバレバレなことであるが……。小型化は今後の課題であるらしい。
でも俺&元カヴェノは、姉が自分がちっさいことをとても気にしていると知っているので、わざとこういう造形にしたんじゃないかと疑っている。この姉ならそれくらいはやる。俺たちは詳しいんだ。
実用性重視の簡素なベッドに転がって、先のことを考える。
神殿に入らないとなれば、選べる進路は限られてくる。
一番無難なのはどこかの商家か同格の貴族家に婿入りすることだが、そうなればどちらにせよ決めるのは両親になるので、俺自身に選択肢はない。
商家の主筋ではなく、見習いとして入るのであればある程度自由は利くだろうが、自前の組織を持てるようになるまでには相当な努力と時間が必要になるだろう。
まあどのみち、俺一人で決められないことであるのは間違いない。最悪、家を出奔して腕一本で成り上がってゆくという道もある。相当ハードモードにはなるだろうが、浪漫だけはあふれている。
俺の中の元カヴェノが、バカなこと考えずに素直に神殿に入ろうよとせっついてくるが、無視だ無視。
さて。どの進路を選ぶにせよ、例外なく手に入れなければいけないのがカネと力だ。
俺、カヴェノ・パワーズも一応は領主子息なので、幼少の頃より剣術の手ほどきは受けていて、十一歳の今、最低限の身体づくりはできている。平民のせがれよりはずいぶんと恵まれているといえるだろう。
だが、俺に剣の才能は、おそらくそれほどない。三つ年上の兄は姉と比べれば平凡な人間だが、父に似たのか頑健な体格をしていて、その肉体を活かした剣の腕はパワーズ領の騎士たちと比べても遜色ない。対して俺は今のところあまり背も伸びず、同年代の村の子どもたちとも体格的にそれほど差がない。三年後に兄のようになれているかといえば、怪しいところだ。
もちろん剣術修行をおろそかにするつもりはないが、別の技能を伸ばした方が得策だろう。
それに、何といってもここは、魔術のある世界なのだ。ファンタジー世界の魔術。ぜひとも使ってみたい。そちらの方が何か悪のボスっぽいし! 人外の肉体的強さを誇る魔王タイプとか変身を残していたりするタイプならともかく、人型そのままの悪のボスが自ら剣で戦う図というのは、イマイチ締まらない絵だ。個人的イメージだけど。
自分はその場から動かず、杖の一振りでヒーローを右に左に走らせるってのが、格上っぽくていいと思う。アンデッドとか、悪魔とかをわらわら召喚するのとかもいいな。で、自分は椅子にふんぞり返って眺めるのだ。
うん。魔術方面を伸ばすのは、悪くない選択肢のような気がする。
幸いにして、魔術に関してはコネがある。
というわけで、俺は意を決して、館に滞在している姉を訪ねることにした。
マルサを姉への使いへ出すと、ほどなくして中庭で会うとの返事をもらえた。
姉は前世でいうところの、片づけられない女である。自室に招かないということは、姉上、また自分の部屋を魔境に変えてるな……。帰ってきてから一週間も経ってないのにどういうことだよ……。
マルサを連れて中庭で待つことしばし、簡素なドレスの上に学院の制服であるオリーブ色の長衣を羽織った、俺と同色の黒髪ぼさぼさ頭にそばかすの目立つ童顔、俺より六歳年上とはどうしても思えないちんまい少女が、前世のコギャルが履いていたような超厚底サンダルをかぽかぽいわせながらやってきた。
この実年齢十七歳の合法ロリこそが、我が実姉にして学院で魔術師資格と導師位を卒業と同時に取得した才媛、ヤミノ・パワーズである。
「何でまだ学園の長衣着てんだよ姉上……」
「ん、調合のとき便利だから」
確かにそういうふうに着てたら医者や薬剤師さんの白衣みたいだけどさあ……。学校の制服って、卒業してから着たらもうコスプレなんだぜ?
あと、自室を工房代わりにするのもおやめなさい。
そんな俺からの白眼視を意にも介さず、姉は右足でたん、と地面を軽く叩く。
すると、地面の一部が円柱状に盛り上がってくる。その平たくなった上面に、姉は腰掛ける。
……本当に、気軽に魔術を行使してきやがるな、この姉は。
種を明かすと、姉が履いているあの超厚底サンダル、実は姉の発明品で、地面への指向性を限定として、術式を補助する回路と魔法陣が組み込んであるらしいのだ。なので、あのサンダルを履いていれば詠唱や予備動作を短縮して、足トン一つで地表に作用する魔術を行使できるのだそうな。
いつだって口や手指が自由に使える状態にあるとは限らないものな。この発明が魔術師にとって画期的であろうことは、素人の俺にだってわかる。
問題点は、見ての通りものすごく目立つ造形なので、そのサンダルを履いていますよ、ってのが誰の目にもバレバレなことであるが……。小型化は今後の課題であるらしい。
でも俺&元カヴェノは、姉が自分がちっさいことをとても気にしていると知っているので、わざとこういう造形にしたんじゃないかと疑っている。この姉ならそれくらいはやる。俺たちは詳しいんだ。
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