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古い住人
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ふと敷地の前庭を見ると、また猫の糞が落ちているのを見つけた。出かけるまでにはまだ時間に余裕があったので、この件についても聞いてみた。
「ああ……餌をやっている件は……何度か……問題になっているみたいですね……。管理会社の方からも……注意があったみたいですけど……」
ポスト脇に貼られた「猫や鳩にエサをあげないで!」と書かれた注意書きを二人して眺める。
「それでもずっと、続けているんですか?」
「そうみたいですねぇ……。まあ……あの人たちは……このアパートでも一番古い住人だそうですから……」
彼ら彼女らからすれば、この場所は自分たちの場所で、文句をつける私たちの方こそよそ者という気持ちなのかもしれない。だから自分たちのすることに文句をつけるな、という思いなのだろう。だからいくら何を言われようと、聞く耳を持たない。
でも、ずっとこの辺りに住んでいる持ち家の人たちからも苦情が寄せられているはずなのだが、そのあたりはどう考えているんだろうか。
「私も階段に落ちているのを片付けたりしたこともあるんですけど、困りますよねえ」
「ああ……最近あまり見ないと思ったら……掃除していてくれてたんですか……。私や尾向さんも……見つけたときは掃除するようにしているんですが……」
「そうだったんですね」
音鳴さんと逆隣の尾向さんとは、音鳴さんより顔を合わす機会が多い。とはいえ挨拶程度の会話しか交わさないので、穏やかそうな人だな、という以上の人となりはまだわかっていない。ただこちらも静かに部屋を使う人で、これまでに嫌な思いをしたことはまだない。ちらりと見ただけだが、ベランダの上に鳩除けネットを張っていたりもしていたので、住環境を維持するのに最低限の気を払える人だということがわかった。
やはり今回は、隣人には恵まれたようで、ちょっとだけうれしい。
「何か、全部うまく解決するような方法があればいいんですけどねぇ」
「本当に……そうですねえ……」
私と音鳴さんは小さく苦笑しあってから別れた。道路に出ると、はす向かいの民泊施設からちょうど、大きな笑い声が聞こえてきた。
本当に、何もかもが上手く解決する方法があればいいのに。心の底からそう思った。
「ああ……餌をやっている件は……何度か……問題になっているみたいですね……。管理会社の方からも……注意があったみたいですけど……」
ポスト脇に貼られた「猫や鳩にエサをあげないで!」と書かれた注意書きを二人して眺める。
「それでもずっと、続けているんですか?」
「そうみたいですねぇ……。まあ……あの人たちは……このアパートでも一番古い住人だそうですから……」
彼ら彼女らからすれば、この場所は自分たちの場所で、文句をつける私たちの方こそよそ者という気持ちなのかもしれない。だから自分たちのすることに文句をつけるな、という思いなのだろう。だからいくら何を言われようと、聞く耳を持たない。
でも、ずっとこの辺りに住んでいる持ち家の人たちからも苦情が寄せられているはずなのだが、そのあたりはどう考えているんだろうか。
「私も階段に落ちているのを片付けたりしたこともあるんですけど、困りますよねえ」
「ああ……最近あまり見ないと思ったら……掃除していてくれてたんですか……。私や尾向さんも……見つけたときは掃除するようにしているんですが……」
「そうだったんですね」
音鳴さんと逆隣の尾向さんとは、音鳴さんより顔を合わす機会が多い。とはいえ挨拶程度の会話しか交わさないので、穏やかそうな人だな、という以上の人となりはまだわかっていない。ただこちらも静かに部屋を使う人で、これまでに嫌な思いをしたことはまだない。ちらりと見ただけだが、ベランダの上に鳩除けネットを張っていたりもしていたので、住環境を維持するのに最低限の気を払える人だということがわかった。
やはり今回は、隣人には恵まれたようで、ちょっとだけうれしい。
「何か、全部うまく解決するような方法があればいいんですけどねぇ」
「本当に……そうですねえ……」
私と音鳴さんは小さく苦笑しあってから別れた。道路に出ると、はす向かいの民泊施設からちょうど、大きな笑い声が聞こえてきた。
本当に、何もかもが上手く解決する方法があればいいのに。心の底からそう思った。
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