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1章はじまりの場所[ヘイルの里]編
4 闘い
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ユムシの攻撃。それはイレインの前に立ち塞がった風に吸収されつくした。
薄暗がりの中、浮かび上がる銀の影は――。
「お師匠様?!」
彼女の師であるリヴィエラは、息つく間もなく素早く印を結び、呪言を唱える。
自分の産土、発動の呪、そして呪術の種名を。
最後にリヴィエラの口から短く鋭い呪言が放たれる。弦が張り詰めるような高い音が空気を震わせて、イレインの周囲が見えない遮蔽に覆い包まれた。
と同時に、ユムシの第二撃が襲い掛かる。リヴィエラと、イレインに。
だがユムシの攻撃はイレインには届かない。周辺の空気がバチバチッと音を立てて火花を散らす。リヴィエラの張った遮蔽が防いでいるのだろう。
対するリヴィエラは、前に突き出した右腕一本でユムシの棘を受け止めた後、なんら変わった様子もなく次の詠唱に入っていく。
師の背中を見つめながら、イレインは唇を嚙みしめた。
おのれの不甲斐なさに腹が立つ。リヴィエラが打撃を受けていないわけではない。
涼しい顔をしているから見た目には分からないが、イレインは薄っすらと勘づいていた。
呪術師の技には必ず呪言が伴う。反対に魔獣や幽体など人外のものにはその必要がない。
また、この呪言は呪力を消費する。呪力は個人差があるが、だからと言って無尽蔵にあるわけではない。技の程度が高ければ多くの呪力を消耗するし、さらに敵からの攻撃を受ければさらに減少速度も上がる。
一見、リヴィエラは平然として見えるが、それは外見上に過ぎない。イレインに施された遮蔽に使われた力、それによって攻撃が遅れて受けた一撃。この時点ですでにユムシに対してリヴィエラは二つも遅れをとっている。
何もないように見えるのは、それはリヴィエラが力のある呪術師であるからに他ならない。
(私なんかの為に)
リヴィエラの愛情に縋りつくばかりだった。見捨てられた、嫌われたとそれしか考えられなかった。
なのにリヴィエラは、あの危機に来てくれた。助けを求めたわけでもないのに、リヴィエラはイレインの窮地に文字通り飛んできたのだ。
自分はどこまでも愚かだと思う。けれど胸に熱いものがこみ上げてくるのを止められなかった。
「ekr Indra ( 吾、インドラに住まう者 )…」
次の術のために、新たに発動の呪が唱えられ始める。
同時にユムシが咆哮した。巨体ながらも素早い動きでリヴィエラの頭上に覆いかぶさる、だがバチバチっと火花が散って弾かれた。どうやらリヴィエラもすでに自身に防御を施したようだ。
ほっとイレインは安堵の息を吐いた。リヴィエラの呪言がさらに続く。高く低く歌のように紡ぎ出される。澄んだ声が術名を唱えた。
「downburst( 暴風)」
ふわり。リヴィエラの長い髪が巻き上げられ、長い袍の裾がバタバタと波打ち始めた。
生暖かい風が天に向かって立ち上り、かと思うと周囲の気温が急激に下がりだした。
冷たい風がひゅうと渦巻いた刹那、頭上から巨大な空気の塊が叩きつけるように落ちてきた。
暴れ狂う風は、地上にぶつかったその勢いのまま四方八方に広がり、洞穴内を吹き荒れる。
風は強い雨だけでなく雹を巻き込んでいるらしく、拳ほどもある大きな氷の塊が洞穴の壁にも激しくぶつかり、岩肌をえぐり取っていく。
今や数メートル先も見通せないほどに無数の氷の塊が振り注いだ。しかも氷の凶器は真上ではなく真横からも恐ろしいスピードでぶつかってくるのだから、どこにも逃げ場がない。
ユムシは遁走を計るも風になぶられてままならず、ただただ氷の塊に身を削られ続けるしかなかった。
遮蔽に守られたイレインの目に、それはまるで地獄絵図のように映った。
風の威力は時間にして10分足らず。完全に風が止んだ後、シンクホールは砂に埋まり、ユムシのいた辺りには小さな塊がわずかばかり残った。
イレインを取り巻く遮蔽が効力を失い、霧散する。
闘いが終わったことを意味していた。
薄暗がりの中、浮かび上がる銀の影は――。
「お師匠様?!」
彼女の師であるリヴィエラは、息つく間もなく素早く印を結び、呪言を唱える。
自分の産土、発動の呪、そして呪術の種名を。
最後にリヴィエラの口から短く鋭い呪言が放たれる。弦が張り詰めるような高い音が空気を震わせて、イレインの周囲が見えない遮蔽に覆い包まれた。
と同時に、ユムシの第二撃が襲い掛かる。リヴィエラと、イレインに。
だがユムシの攻撃はイレインには届かない。周辺の空気がバチバチッと音を立てて火花を散らす。リヴィエラの張った遮蔽が防いでいるのだろう。
対するリヴィエラは、前に突き出した右腕一本でユムシの棘を受け止めた後、なんら変わった様子もなく次の詠唱に入っていく。
師の背中を見つめながら、イレインは唇を嚙みしめた。
おのれの不甲斐なさに腹が立つ。リヴィエラが打撃を受けていないわけではない。
涼しい顔をしているから見た目には分からないが、イレインは薄っすらと勘づいていた。
呪術師の技には必ず呪言が伴う。反対に魔獣や幽体など人外のものにはその必要がない。
また、この呪言は呪力を消費する。呪力は個人差があるが、だからと言って無尽蔵にあるわけではない。技の程度が高ければ多くの呪力を消耗するし、さらに敵からの攻撃を受ければさらに減少速度も上がる。
一見、リヴィエラは平然として見えるが、それは外見上に過ぎない。イレインに施された遮蔽に使われた力、それによって攻撃が遅れて受けた一撃。この時点ですでにユムシに対してリヴィエラは二つも遅れをとっている。
何もないように見えるのは、それはリヴィエラが力のある呪術師であるからに他ならない。
(私なんかの為に)
リヴィエラの愛情に縋りつくばかりだった。見捨てられた、嫌われたとそれしか考えられなかった。
なのにリヴィエラは、あの危機に来てくれた。助けを求めたわけでもないのに、リヴィエラはイレインの窮地に文字通り飛んできたのだ。
自分はどこまでも愚かだと思う。けれど胸に熱いものがこみ上げてくるのを止められなかった。
「ekr Indra ( 吾、インドラに住まう者 )…」
次の術のために、新たに発動の呪が唱えられ始める。
同時にユムシが咆哮した。巨体ながらも素早い動きでリヴィエラの頭上に覆いかぶさる、だがバチバチっと火花が散って弾かれた。どうやらリヴィエラもすでに自身に防御を施したようだ。
ほっとイレインは安堵の息を吐いた。リヴィエラの呪言がさらに続く。高く低く歌のように紡ぎ出される。澄んだ声が術名を唱えた。
「downburst( 暴風)」
ふわり。リヴィエラの長い髪が巻き上げられ、長い袍の裾がバタバタと波打ち始めた。
生暖かい風が天に向かって立ち上り、かと思うと周囲の気温が急激に下がりだした。
冷たい風がひゅうと渦巻いた刹那、頭上から巨大な空気の塊が叩きつけるように落ちてきた。
暴れ狂う風は、地上にぶつかったその勢いのまま四方八方に広がり、洞穴内を吹き荒れる。
風は強い雨だけでなく雹を巻き込んでいるらしく、拳ほどもある大きな氷の塊が洞穴の壁にも激しくぶつかり、岩肌をえぐり取っていく。
今や数メートル先も見通せないほどに無数の氷の塊が振り注いだ。しかも氷の凶器は真上ではなく真横からも恐ろしいスピードでぶつかってくるのだから、どこにも逃げ場がない。
ユムシは遁走を計るも風になぶられてままならず、ただただ氷の塊に身を削られ続けるしかなかった。
遮蔽に守られたイレインの目に、それはまるで地獄絵図のように映った。
風の威力は時間にして10分足らず。完全に風が止んだ後、シンクホールは砂に埋まり、ユムシのいた辺りには小さな塊がわずかばかり残った。
イレインを取り巻く遮蔽が効力を失い、霧散する。
闘いが終わったことを意味していた。
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・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
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