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第2部 セイ国編 アニマル・キングダム 前編 犬人族編

第40話 海豹妖精の来訪

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「さて、これからあたしたち、どうしよう」

 トモエの部屋に、五人全員が集っていた。議題は、これからの自分たちの行動である。
 そもそもトモエ、リコウ、シフ、エイセイらが旅に出た本来の目的は、洋上の島々を拠点とする妖精族の一種、海豹妖精セルキーたちの元へ赴き、国交を樹立し軍事同盟を結んで魔族に対抗することにある。雇われ兵のような立場で犬人族たちとともにセイ国軍と戦うというのは、予定外の行動なのだ。
 勿論、犬人族とて魔族国家の圧迫を受ける者たちであり、手を取り合うべき相手である。しかしいつまでも犬人族の領内に留まっているわけにもいかないのだ。
 とはいえ、情報によればモン=トン半島沖合の制海権はセイ国軍に握られており、セイ国艦隊が自由に遊弋するところとなっている。つまり、犬人族の領内から航海に出れば、必然的にセイ国艦隊が妨害を仕掛けてくるということだ。

「あたしはセルキーの住む島まで行かないといけないと思ってる。皆はどう?」
「うーん……犬人族の水上戦力がどれほどかによるよな……オレたち海戦の経験とか全くないし」

 リコウが言うのも最もである。海戦の経験がない自分たちが単独でほぼ敵地と言える海に漕ぎ出すのは自殺行為に近い。可能であれば犬人族軍の支援を得たいところであるが、犬人族軍の艦隊は先の戦いで大きな損害を被ってしまっている。失った船を作り直す余裕もないであろうし、それ以上に軍船を運用できる兵員の損失が大きな痛手だ。
 今、犬人族の各都市では敵に破壊された市街地や城外の農村の再建に尽力しつつ、武器の整備や兵の訓練を行っている。彼らも余裕はないのだ。
 結局、この時は結論を出せなかった。

***

 ところが、である。後日、国都に思わぬ来訪者があった。

「我々はアルタン島のセルキーです。犬人王様に謁見を求めたく存じます」

 褐色の肌をした美形の男女一組が、謁見を求めてやってきたのだ。
 犬人族にとって、セルキー側の使節の来訪は、驚くべきことであると同時に喜ばしいことである。セイ国軍と戦う上で彼らの強力が得られるのであれば、それは願ってもないことだ。
 
「あれがセルキー? あたしたちと変わらないね。あの男の方、もっと小さければきっとあたしの好みだっただろうに……残念」

 トモエたちは、こっそり北門の側までやってきて、来訪者の姿を眺めていた。

「シフたちと同じ妖精族だから、見た目はニンゲンさんたちとそう変わらないんじゃないかなぁ……ドワーフもケット・シーも、見た目はニンゲン似だったし……」

 獣人族たちが獣の特徴を強く持っているのに対して、妖精族はニンゲンとあまり変わらない容姿をしている。エルフやドワーフがそうであったし、ケット・シーも猫耳以外は人間そっくりだ。セルキーたちもその例には漏れないのであろう。
 早速、セルキーたちは犬人族の役人に伴われて、王の鎮座する御殿へ導かれた。

「遠路はるばる、我らの国都までご苦労であった。褒美を取らせよう」

 犬人王。それは全ての犬人族を統べる君主である。冕冠べんかんを被った老齢の王は、国都の御殿で遠方からの使者たちを労った。王の傍に侍る役人たちが、狐の白い毛皮を持ってきて使者に与えた。

「今、我らとセルキーの間の海は野蛮剽悍なるセイ国軍が掌握していると聞き及んでいる。敵中を行き我らの領内へとたどり着くまでの労苦は察するだに余りある。して、その目的は」

 犬人王の細い目が、平伏する二人の異邦人をじろじろと眺めた。

「我らと貴国とはともにセイ国によって鯨呑蚕食される身。しからば、盟約を結び、ともに手を取り合いセイ国の脅威に立ち向かうべきです。そのために……」
「そのために……?」
「我々の国に、トモエなる者とその仲間たちを招待させていただきたく存じます。我々はかねてより、トモエなる者とその仲間たちの武勇を聞き及んでおりました。我らと貴国の間を塞ぐセイ国軍を打通するには、絶対不可欠な戦力となりましょう」

 その時、犬人王のまなこに、慍怒うんどの炎が灯った。

セイ国編 前編  完
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