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第2部 セイ国編 アニマル・キングダム 前編 犬人族編
第25話 トモエ不在の奮戦
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リコウたちの目の前には、多数の歩兵が展開していた。大軍を相手にするのは慣れたものであるが、今回は勝手が違う。トモエが不在な上に、エイセイも疲労しており戦闘に加わることは望めない。
「オレたちがやるしかない……トウケン、行けるか?」
「行けるかどうか以前に、やるしかないのだ」
トウケンは両手に持ったナイフをぐっと握って答えた。リコウとしては、新参者で、しかも当初は軋轢のあったトウケンと肩を並べて戦うことに不安があった。しかし、四の五の言っている暇はない。トモエがいなくても、やるしかないのだ。
「シフも頑張ってサポートするけど……気をつけて!」
「分かった。行くぞ!」
「やってやるのだ!」
リコウは矢を番え、トウケンは敵中へ突進した。リコウの矢が敵を貫き、トウケンのナイフが木人形の手足を切り離してゆく。敵の弩兵も矢を射かけてきたが、シフの光障壁によって叩き落とされた。
「この術を使う時が来たのだ! 光の魔術、不可視化する黒猫!」
トウケンは立ち止まると、「透明化」の術を使った。敵の姿が捉えられなくなったことで、傀儡兵たちが戸惑ったような動きをする。心を持たない傀儡兵に戸惑いという感情はないが、さっきまで見えていた敵が見えなくなりそれを探そうと視線を左右に振る様は、人間が戸惑ってきょろきょろとしているように見える。
一体の槍兵が、首を斬り落とされた。犠牲になった槍兵の方へ、他の槍兵が一斉に槍を振り下ろす。しかし、その槍は首なし傀儡兵の胴を縦に切り裂いただけであった。
何とか順調に戦えていたリコウたち。しかし、敵の左右から、黄色い砂塵を巻き上げて、何かが急接近してきていた。
「くそっ戦車か!」
戦車が左右から四台ずつ。計八台。それが、側面から仕掛けてきた。トモエならすぐさま破壊できる戦車も、リコウにとっては難敵である。
車上から、弩兵が矢を放ってくる。リコウはそれを魔導鎧で受け止めると左側へ走り出し、突進してくる戦車の右側に回り込んだ。
「これでも食らえ!」
リコウは戈兵の攻撃をしゃがんで躱すと、その車輪に剣を差し込んだ。輻の部分が剣によって切り裂かれ、脱輪して車台が横転した。リコウは強く柄を握り締め、剣が持っていかれそうになるのを何とか耐えた。
他の戦車から、弩兵の矢が放たれる。リコウは横転した戦車に素早く駆け寄ると、腕の外れた傀儡兵を盾にし、矢を防いだ。
「オレの矢も残り少ないし……これ使ってみるか」
矢筒の矢はヤユウで支給されたが、それももう残り少ない。リコウは落ちていた弩に目をつけ、拾った。握ってみると、存外に重量がある。弩を扱うには、弓術のような熟練を要する技術は必要ない。ただ引き金を引くだけで、威力の高い射撃を加えることができる。
「死ねっ!」
リコウは走ってくる戦車に狙いをつけ、引き金を引いた。飛び出した矢は、そのまま敵戦車の戈兵を貫き、動きを止めた。胸を射抜かれた戈兵の腕から戈が取り落とされる。
「装填が面倒だ……」
リコウは弩を投げ捨て、自分の弓を構えた。戦車が七台、反転してこちらへ戻ってくる。一人で複数の戦車を相手にするなど、無謀もいい所だ。
リコウは矢を放ち、車上の弩兵一体を仕留める。だが、戦車兵はまだまだ多い。
「暗黒雷電!」
これまで疲労困憊だったエイセイが、何とか力を振り絞って魔術攻撃を仕掛けた。黒雲から降り注ぐ稲妻が、戦車五台を丸焼きにしてしまった。
「ありがとうエイセイ!」
「……ごめん、もうここまでだ……」
エイセイは、力が抜けたようにがっくりと膝を折った。もう魔術は使えないようだ。残る敵戦車は一台。何としてでも食い止めなければならない。リコウは戦車を睨みつけた。
もう、戦車はリコウの目の前に迫ってきていた。咄嗟に回避しようとしたが、間に合わない。リコウの体は、馬に追突され吹き飛んだ。
「うわあああっ!」
「リコウお兄さん! 今シフが回復するから!」
衝突されたリコウにシフが駆け寄り、回復魔術を施した。シフが一番得意としているのは、この回復魔術である。リコウはみるみるうちに体の痛みが取れていくのを感じた。
「ありがとう……まずい、エイセイが危ない!」
リコウが後ろを振り向くと、リコウを跳ね飛ばした戦車は、そのままエイセイに狙いをつけて突進していた。今、エイセイは魔術の使い過ぎで疲れている。抵抗する手段はほぼないといってよい。
「……くっ!」
エイセイはすんでの所で左に飛び跳ね、戦車を避けた。だが通り過ぎた戦車は旋回し、再びエイセイの方に馬首を向ける。
その時であった。突然、ナイフが飛んできて、御者、戈兵、弩兵の胸に正確に突き刺さった。凄い腕前だ。
「どうだ! ぼくの投げナイフ術を思い知ったか、なのだ!」
トウケンが、透明化の術を解いて姿を現した。
残る敵部隊は、本隊が陣を張る方向へ撤退していった。艦隊が撤退してしまった今、この援軍はそれほど意味を持たないものとなっており、これ以上戦っても無駄に兵を損耗するだけだと判断したのであろう。
こうして、リコウたちはヤユウへの帰路に就くことができた。
「オレたちがやるしかない……トウケン、行けるか?」
「行けるかどうか以前に、やるしかないのだ」
トウケンは両手に持ったナイフをぐっと握って答えた。リコウとしては、新参者で、しかも当初は軋轢のあったトウケンと肩を並べて戦うことに不安があった。しかし、四の五の言っている暇はない。トモエがいなくても、やるしかないのだ。
「シフも頑張ってサポートするけど……気をつけて!」
「分かった。行くぞ!」
「やってやるのだ!」
リコウは矢を番え、トウケンは敵中へ突進した。リコウの矢が敵を貫き、トウケンのナイフが木人形の手足を切り離してゆく。敵の弩兵も矢を射かけてきたが、シフの光障壁によって叩き落とされた。
「この術を使う時が来たのだ! 光の魔術、不可視化する黒猫!」
トウケンは立ち止まると、「透明化」の術を使った。敵の姿が捉えられなくなったことで、傀儡兵たちが戸惑ったような動きをする。心を持たない傀儡兵に戸惑いという感情はないが、さっきまで見えていた敵が見えなくなりそれを探そうと視線を左右に振る様は、人間が戸惑ってきょろきょろとしているように見える。
一体の槍兵が、首を斬り落とされた。犠牲になった槍兵の方へ、他の槍兵が一斉に槍を振り下ろす。しかし、その槍は首なし傀儡兵の胴を縦に切り裂いただけであった。
何とか順調に戦えていたリコウたち。しかし、敵の左右から、黄色い砂塵を巻き上げて、何かが急接近してきていた。
「くそっ戦車か!」
戦車が左右から四台ずつ。計八台。それが、側面から仕掛けてきた。トモエならすぐさま破壊できる戦車も、リコウにとっては難敵である。
車上から、弩兵が矢を放ってくる。リコウはそれを魔導鎧で受け止めると左側へ走り出し、突進してくる戦車の右側に回り込んだ。
「これでも食らえ!」
リコウは戈兵の攻撃をしゃがんで躱すと、その車輪に剣を差し込んだ。輻の部分が剣によって切り裂かれ、脱輪して車台が横転した。リコウは強く柄を握り締め、剣が持っていかれそうになるのを何とか耐えた。
他の戦車から、弩兵の矢が放たれる。リコウは横転した戦車に素早く駆け寄ると、腕の外れた傀儡兵を盾にし、矢を防いだ。
「オレの矢も残り少ないし……これ使ってみるか」
矢筒の矢はヤユウで支給されたが、それももう残り少ない。リコウは落ちていた弩に目をつけ、拾った。握ってみると、存外に重量がある。弩を扱うには、弓術のような熟練を要する技術は必要ない。ただ引き金を引くだけで、威力の高い射撃を加えることができる。
「死ねっ!」
リコウは走ってくる戦車に狙いをつけ、引き金を引いた。飛び出した矢は、そのまま敵戦車の戈兵を貫き、動きを止めた。胸を射抜かれた戈兵の腕から戈が取り落とされる。
「装填が面倒だ……」
リコウは弩を投げ捨て、自分の弓を構えた。戦車が七台、反転してこちらへ戻ってくる。一人で複数の戦車を相手にするなど、無謀もいい所だ。
リコウは矢を放ち、車上の弩兵一体を仕留める。だが、戦車兵はまだまだ多い。
「暗黒雷電!」
これまで疲労困憊だったエイセイが、何とか力を振り絞って魔術攻撃を仕掛けた。黒雲から降り注ぐ稲妻が、戦車五台を丸焼きにしてしまった。
「ありがとうエイセイ!」
「……ごめん、もうここまでだ……」
エイセイは、力が抜けたようにがっくりと膝を折った。もう魔術は使えないようだ。残る敵戦車は一台。何としてでも食い止めなければならない。リコウは戦車を睨みつけた。
もう、戦車はリコウの目の前に迫ってきていた。咄嗟に回避しようとしたが、間に合わない。リコウの体は、馬に追突され吹き飛んだ。
「うわあああっ!」
「リコウお兄さん! 今シフが回復するから!」
衝突されたリコウにシフが駆け寄り、回復魔術を施した。シフが一番得意としているのは、この回復魔術である。リコウはみるみるうちに体の痛みが取れていくのを感じた。
「ありがとう……まずい、エイセイが危ない!」
リコウが後ろを振り向くと、リコウを跳ね飛ばした戦車は、そのままエイセイに狙いをつけて突進していた。今、エイセイは魔術の使い過ぎで疲れている。抵抗する手段はほぼないといってよい。
「……くっ!」
エイセイはすんでの所で左に飛び跳ね、戦車を避けた。だが通り過ぎた戦車は旋回し、再びエイセイの方に馬首を向ける。
その時であった。突然、ナイフが飛んできて、御者、戈兵、弩兵の胸に正確に突き刺さった。凄い腕前だ。
「どうだ! ぼくの投げナイフ術を思い知ったか、なのだ!」
トウケンが、透明化の術を解いて姿を現した。
残る敵部隊は、本隊が陣を張る方向へ撤退していった。艦隊が撤退してしまった今、この援軍はそれほど意味を持たないものとなっており、これ以上戦っても無駄に兵を損耗するだけだと判断したのであろう。
こうして、リコウたちはヤユウへの帰路に就くことができた。
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