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第62話.夏祭り①

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>きたよ

ボーッとスマホの画面を眺めているとりえからLINEがきたので急いで準備した。顔を洗っていると「女の子を待たせるなよー」 と背中越しに姉ちゃんの声が聞こえる。うるさい、そんなこと言ってるとお土産買ってこないからな。

ドアの前でひとつ深呼吸をしてドアノブに置いた手に力を込める。

「お待たせ」

目の前にいつもの服装のりえがいて少し安堵した。浴衣姿とか、想像しなかったわけじゃないがやっぱりこっちの方がホッとする。こんなこと、りえに言ったら怒られるかもしれないけど。

「ううん、待ってないよ」
「そう? よかった」
「神社ってどこにあるの?」
「歩いて10分くらいかな、少し山の方に登ったところ」
「そんなところあるんだ」
「分かりにくいところだもんね、引っ越してきたばっかりじゃ仕方ないよ」
「お祭りって初めてだなあ、人がいっぱいいるんでしょ?」

そういう聞き方をするってことはりえも僕と同じで人混みは苦手なのかな。「いるけど、楽しいよ」 と言うとさっきまで強張っていた表情が少し緩んだ。

まだ外も明るいことだし、せっかくなのでゆっくりと、いつもの倍くらいの時間をかけて歩いてみよう。

「・・・・・・」
「・・・・・・」

あれ? いつもこんなに静かだったっけ? というか、いつもどんなこと話してたっけ?考えれば考えるほど分からなくなってくる。どうにかして雰囲気を良くしないと、このまま無言ってのは流石に気まずい。

「「あの」」
「「あ」」

なにやら少女漫画の一コマみたいなことになってしまった。もしかしたらりえも同じようなことを考えていたのかな。

「あ、いいよ」
「ううん、幸一くんからいいよ」

じゃあお言葉に甘えて。ちょっと気になってたことを

「祭り、なんとなく誘っちゃったけどあんまり乗り気じゃなかったかなって」
「そ、そんなことないよ!」

「そんなことない」 と繰り返しりえは続けた。

「ちょっと怖さはあるけどね、でもどっちかって言うとワクワクしてるよ! お祭りって楽しそうなイメージあるし、幸一くんも一緒だしね!」

半分自分に言い聞かせるようにりえは言った。多分口調からしてちょっとどころか半分くらいは怖さで埋まってそうな感じはする。

これまた、りえに悪いことをしてしまったな。罪悪感に苛まれた。それでも一応「ありがとう」 と言っておいた。

「りえはなんて言おうとしたの?」

さっき遮ってしまった言葉を聞こうとすると、ちょっと恥ずかしそうに笑いながら人差し指で頬をかいてみせた。「私はねー」

「誘ってくれてありがとうって言おうとしたんだ」
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