上 下
6 / 83

第6話.サワダサン

しおりを挟む
『ドリーム』 を出ると辺りは陽が落ちてすっかり暗くなっていた。道沿いの心細い明るさしかない電灯に虫が集まっていた。僕は気持ち分早足で自分が住んでいる市営住宅の方向に足を運んだ。

少し時間を喰ってしまったな、姉ちゃんに小言を言われるかもしれない。しかしまあ時間を喰った理由が人助けなら姉もとやかくは言わないだろう。

ふと後ろで人の気配がしたので振り向くとさっきの女の子が歩いて帰っているようだった。歩いて『ドリーム』 まで来たということは家は比較的近所のはず。しかしあんな子は見覚えがない。

最近ここら辺に引っ越してきて、年齢が近いだけで同い年じゃないのかもしれない。もしそうだったら分からなくても無理はないな。深くは考えないことにした。

家に帰ると姉ちゃんが忙しくなにかを切ってるようだった。トントントントンと軽快な包丁の音がする。自分の姉が意外と料理ができるのに感心した。

「おかえり、遅かったね」

姉ちゃんは思っているよりご機嫌なようだ、怒っている様子もないし、なにより声のトーンがいつもより半音高い気がした。

「ちょっと人助けしてたから」
「人助け? あんたが?」

『ドリーム』であった出来事を姉ちゃんに話すと麻婆豆腐を作りながらも興味深そうに聞いてくれた。

「それって佐和田さんのところの娘さんじゃないの?」

姉ちゃんは最後に片栗粉でとろみの調節をしながら、聞き慣れない名前を口にした。サワダサン? そんな名前近所では聞き覚えがない。

「サワダサンって誰?」

「あんた知らないの?」と呆れたように姉ちゃんが言う。そんな顔をされても、知らないものは仕方ないじゃないか。

「最近3号棟に引っ越してきたの、わざわざ挨拶に来たんだよ。娘さんと2人暮らしって言ってたから多分その子じゃないかな」

知らなかった・・・・。いやそれよりも3号棟からわざわざ挨拶に来るなんて律儀な人だな。

僕たちが住んでいる市営住宅は全部で3つの棟から成り、僕が住んでいるのが1号棟。それぞれの棟は駐車場が隣接しているので、3号棟から1号棟となるとそこそこに距離がある。それをわざわざ挨拶回りするなんて面倒くさがりの僕からすると考えられない労力だ。

「そんなことよりほら、できたから皿持ってきて」

美味しそうな匂いを感じながら、言われるがままに深めの皿を取り出す。盛り付けているところを見ると、絶妙なとろみと色合いで食欲をかきたてられた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

結構な性欲で

ヘロディア
恋愛
美人の二十代の人妻である会社の先輩の一晩を独占することになった主人公。 執拗に責めまくるのであった。 彼女の喘ぎ声は官能的で…

壁の薄いアパートで、隣の部屋から喘ぎ声がする

サドラ
恋愛
最近付き合い始めた彼女とアパートにいる主人公。しかし、隣の部屋からの喘ぎ声が壁が薄いせいで聞こえてくる。そのせいで欲情が刺激された両者はー

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

どうして隣の家で僕の妻が喘いでいるんですか?

ヘロディア
恋愛
壁が薄いマンションに住んでいる主人公と妻。彼らは新婚で、ヤりたいこともできない状態にあった。 しかし、隣の家から喘ぎ声が聞こえてきて、自分たちが我慢せずともよいのではと思い始め、実行に移そうとする。 しかし、何故か隣の家からは妻の喘ぎ声が聞こえてきて…

処理中です...