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教えてよ
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俺の部屋のベッドが軋む。愛なんて存在しないのに、お互いの愛を確かめるための行為。脳が、溶けてるんじゃないかと錯覚するほど熱い。出したての毛布と美沙の柔らかい肌が全身を包み込み、目の前に火花が散る。
「猟くん、流雨ちゃんと仲良いよね」
「そんなの今更だろ」
「彼女としては嫉妬しちゃうな」
「だから、今更だろ」
「こんなオバさんより同級生の方が良いよね、流雨ちゃんなら将来安泰だと思うし」
「それは公務員のあんたも一緒だろ」
「アスリートと公務員じゃ天と地の差だよ」
「でもアスリートは通用しなくなったら終わりだぜ」
「そのままコーチになったりとか、スポーツトレーナーになったりとか、そういう話結構聞くけどな。タレント性があればテレビにも出れるし、そう考えたらアスリートも安泰じゃない?」
「どうだか、そんなもんその時じゃないと分かんないし」
「流雨ちゃん、彼氏とかいないのかな? あの遺伝子は残さなきゃスポーツ界にとって大損だよね」
「・・・・・・チッ」
ベッドから立ち上がって服を着る。
せっかく盛り上がってきたのに、現実的な話をされたもんだから気分が落ち込んでしまった。
「ちょっと猟くん、どこ行くの?」
「・・・・・・顔洗ってくるだけだ」
洗面台の方へ向かうと、金魚のフンみたいに美沙もヒョコヒョコついてきた。服も着ないで、こいつは寒くないのか?
俺が顔を洗っている間、美沙は俺の背後から離れる気配もなく、所定の位置からタオルを取って、顔を拭いて元の位置に戻すまで、無言で俺の後ろに立っていた。
「なんだよ」
さっきまで行為に励んでいた相手が無言で後ろに突っ立ってるのは気持ち悪い。
「別にぃ」
いつもと変わらない口調。変わらない声色。変わらない表情。きっとこいつの中では今俺の後ろに立っていることになんの意味もないんだろう。
ホッと一安心して、今度はリビングのソファに腰かけてタバコに火を着けた。
「コラ未成年」
職業病なのか俺に構ってほしいのか、他の誰でも言いそうな決まり文句を背中越しに投げられる。どうやら今日は俺の背後が居心地が良いらしい。猫か。
「その未成年と付き合ってる成人は誰だよ」
「ぐぅ、でもそれは猟くんも合意してるし・・・・・・」
「してるし、なんだ?」
「・・・・・・好き」
「は?」
「好き」 の言葉とほぼ同時に、美沙の腕が俺に絡みついた。そういえばこいつはまだ服を着ていない、色々な柔らかい部分が俺の服を通してでも伝わってくる。
「ねえ猟くん、好きだよ、好き」
「わかってるよ」
「猟くんは私のこと好き?」
「なんで?」
「ねえ、好き?」
「好きじゃなかったら付き合ってない」
「そうやって含みを持たせる言い方で逃げないでよ」
「逃げてないし」
「猟くんは本当に私のこと好きなの?」
「いやだから、なんで?」
「猟くんの気持ち、教えてよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「っ!」
キス。
言葉にするのも面倒だし、いつこの気持ちが消えるか分からない状態で言質をとられるのは避けたい。手っ取り早く黙らせるにはこれが一番だ。
「んっ、んぅ」
いつもより激しい舌使いに、美沙の声が漏れる。
<もっと鳴けよ>
その方がお前は綺麗だ。
心も体もズタズタにして、何もかも忘れさせてやるよ。
「んんー! ん!」
「んぅ・・・・・・」
「んっ、んっ」
「あむぅ」
「んあ」
「・・・・・・ぷはぁ」
長い長いキスが終わって流石に俺も息切れを起こした。最近走らなくなったからかな、昔より遥かに体力が落ちている。タバコのせいも少しはあるだろう。唇を重ねた時間で灰が落ちてしまったタバコの火を消した。どうでもいいことで貴重な一本を無駄にしてしまい、まだ感触が残る唇を噛んだ。俺が肩で息をしてる横で澄ました顔をしてるこいつの態度も癪に触る。
「服着ろよ」
「ん」
促されるまま、美沙はベッドの横に脱ぎ捨てたソレを下着から順番に身に纏い始めた。その様子を観察するつもりもなく、俺の興味はテーブルに置いていたスマホに移った。新着通知が一件。流雨か?
流雨>りょう~、天体のところの課題が終わらないよ~助けて(泣)
やっぱり流雨だ。しかもその課題出した本人が今目の前にいるんだけど。
「そういえば猟くん、課題は終わった?」
「課題なんてあったっけ」
「今日出したでしょ、教科書の文章写しただけの穴埋め問題」
「そんなのやって意味ある?」
「それやるだけで今度の授業の予習になるよ」
「俺もう大学決まってるし勉強するつもりない」
「大学は勉強するために行くところだよ」
「それ、流雨にも言ってやってよ。あいつ多分大学で勉強するつもりないぜ?」
「流雨ちゃんは特別だもん。勉強しなくたっていいでしょ」
「そんなこと教師が言っていいの?」
「私だけじゃなくて色んな先生が言ってるよ。あの子は特別だって」
「あっそ」
「怪我した誰かさんとは違うって」
「は?」
「クスッ、怒った?」
バチッ!
静まりかえった暗い部屋に渇いた平手打ちの音が響き渡った。
ほとんど反射だった。頭で考えたわけじゃない。ただ気に入らなかった。自分たちの都合で勝手に呼んだくせに俺が怪我をしたらその瞬間から蔑み始める。そんな奴らが許せなかった。
俺だって・・・・・・好きで怪我したわけじゃないのに。
「いったぁ」
頬を撫でながら、上目遣いでニヤリと笑った美沙の顔に、初めて恐怖を覚えた。
「猟くん、流雨ちゃんと仲良いよね」
「そんなの今更だろ」
「彼女としては嫉妬しちゃうな」
「だから、今更だろ」
「こんなオバさんより同級生の方が良いよね、流雨ちゃんなら将来安泰だと思うし」
「それは公務員のあんたも一緒だろ」
「アスリートと公務員じゃ天と地の差だよ」
「でもアスリートは通用しなくなったら終わりだぜ」
「そのままコーチになったりとか、スポーツトレーナーになったりとか、そういう話結構聞くけどな。タレント性があればテレビにも出れるし、そう考えたらアスリートも安泰じゃない?」
「どうだか、そんなもんその時じゃないと分かんないし」
「流雨ちゃん、彼氏とかいないのかな? あの遺伝子は残さなきゃスポーツ界にとって大損だよね」
「・・・・・・チッ」
ベッドから立ち上がって服を着る。
せっかく盛り上がってきたのに、現実的な話をされたもんだから気分が落ち込んでしまった。
「ちょっと猟くん、どこ行くの?」
「・・・・・・顔洗ってくるだけだ」
洗面台の方へ向かうと、金魚のフンみたいに美沙もヒョコヒョコついてきた。服も着ないで、こいつは寒くないのか?
俺が顔を洗っている間、美沙は俺の背後から離れる気配もなく、所定の位置からタオルを取って、顔を拭いて元の位置に戻すまで、無言で俺の後ろに立っていた。
「なんだよ」
さっきまで行為に励んでいた相手が無言で後ろに突っ立ってるのは気持ち悪い。
「別にぃ」
いつもと変わらない口調。変わらない声色。変わらない表情。きっとこいつの中では今俺の後ろに立っていることになんの意味もないんだろう。
ホッと一安心して、今度はリビングのソファに腰かけてタバコに火を着けた。
「コラ未成年」
職業病なのか俺に構ってほしいのか、他の誰でも言いそうな決まり文句を背中越しに投げられる。どうやら今日は俺の背後が居心地が良いらしい。猫か。
「その未成年と付き合ってる成人は誰だよ」
「ぐぅ、でもそれは猟くんも合意してるし・・・・・・」
「してるし、なんだ?」
「・・・・・・好き」
「は?」
「好き」 の言葉とほぼ同時に、美沙の腕が俺に絡みついた。そういえばこいつはまだ服を着ていない、色々な柔らかい部分が俺の服を通してでも伝わってくる。
「ねえ猟くん、好きだよ、好き」
「わかってるよ」
「猟くんは私のこと好き?」
「なんで?」
「ねえ、好き?」
「好きじゃなかったら付き合ってない」
「そうやって含みを持たせる言い方で逃げないでよ」
「逃げてないし」
「猟くんは本当に私のこと好きなの?」
「いやだから、なんで?」
「猟くんの気持ち、教えてよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「っ!」
キス。
言葉にするのも面倒だし、いつこの気持ちが消えるか分からない状態で言質をとられるのは避けたい。手っ取り早く黙らせるにはこれが一番だ。
「んっ、んぅ」
いつもより激しい舌使いに、美沙の声が漏れる。
<もっと鳴けよ>
その方がお前は綺麗だ。
心も体もズタズタにして、何もかも忘れさせてやるよ。
「んんー! ん!」
「んぅ・・・・・・」
「んっ、んっ」
「あむぅ」
「んあ」
「・・・・・・ぷはぁ」
長い長いキスが終わって流石に俺も息切れを起こした。最近走らなくなったからかな、昔より遥かに体力が落ちている。タバコのせいも少しはあるだろう。唇を重ねた時間で灰が落ちてしまったタバコの火を消した。どうでもいいことで貴重な一本を無駄にしてしまい、まだ感触が残る唇を噛んだ。俺が肩で息をしてる横で澄ました顔をしてるこいつの態度も癪に触る。
「服着ろよ」
「ん」
促されるまま、美沙はベッドの横に脱ぎ捨てたソレを下着から順番に身に纏い始めた。その様子を観察するつもりもなく、俺の興味はテーブルに置いていたスマホに移った。新着通知が一件。流雨か?
流雨>りょう~、天体のところの課題が終わらないよ~助けて(泣)
やっぱり流雨だ。しかもその課題出した本人が今目の前にいるんだけど。
「そういえば猟くん、課題は終わった?」
「課題なんてあったっけ」
「今日出したでしょ、教科書の文章写しただけの穴埋め問題」
「そんなのやって意味ある?」
「それやるだけで今度の授業の予習になるよ」
「俺もう大学決まってるし勉強するつもりない」
「大学は勉強するために行くところだよ」
「それ、流雨にも言ってやってよ。あいつ多分大学で勉強するつもりないぜ?」
「流雨ちゃんは特別だもん。勉強しなくたっていいでしょ」
「そんなこと教師が言っていいの?」
「私だけじゃなくて色んな先生が言ってるよ。あの子は特別だって」
「あっそ」
「怪我した誰かさんとは違うって」
「は?」
「クスッ、怒った?」
バチッ!
静まりかえった暗い部屋に渇いた平手打ちの音が響き渡った。
ほとんど反射だった。頭で考えたわけじゃない。ただ気に入らなかった。自分たちの都合で勝手に呼んだくせに俺が怪我をしたらその瞬間から蔑み始める。そんな奴らが許せなかった。
俺だって・・・・・・好きで怪我したわけじゃないのに。
「いったぁ」
頬を撫でながら、上目遣いでニヤリと笑った美沙の顔に、初めて恐怖を覚えた。
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