平行した感情

伊能こし餡

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第二章 思い出したくないもの

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自分>ごめん、さっきは言い過ぎた
星川>もう、何回も謝らないでよ
星川>私の方こそ悪いことしちゃったなって思ってるよ
自分>別に美麗は悪くないだろ
星川>そう? でも蓮怒ってたじゃん
自分>それは、突拍子もなかったからビックリして
星川>嘘だー、めっちゃ怒ってたよ
自分>ごめん・・・・・・
星川>そんなに気に病まないでよ、私まで気にしちゃう
自分>じゃあもう気にしない
星川>うん、それにね、嫌いって言っても普通に友達やれるくらいには良い印象持ってるから
自分>どういうこと?
星川>まあ、なんだかんだ言っても仲良くやれそうってこと
自分>本当?
星川>本当だよ、だって私咲ちゃんしか友達いないし
自分>あー
星川>あーってヒドイよ笑
自分>ごめんごめん、でもそれなら僕が心配する必要もないんだね?
星川>うん、今まで通りだよ。ってさっきも言ったかも
自分>そういえばそうだったかな
星川>そうだよー
自分>じゃ、僕そろそろ寝るから
自分>今日はごめん、おやすみ
星川>うん、おやすみー


◇◇


  鬱陶うっとうしいせみの声に、病気になりそうなほどの暑さ、一歩外に出れば揺らめく陽炎かげろうを加速させる。
  暑い。
  日本の夏ってのはどうしてこうもジメジメしてるんだ。
「で、田中、なんで僕が買い出し担当なの?」
「えへへ、船井がオープンキャンパス行ってるからさ」
「だからってなんで僕が?」
「だってどうやったって重くなるでしょー、荷物持ち」
「まったくもう」
「なに? か弱い女子に大量の荷物を持たせるつもり?」
「分かったよ、やるよ」
  今日は明後日あさってに予定されているバーベキュー・・・・・・の食材以外、諸々もろもろの買い出し。流石に食材は当日でないと時期的にも怖いものがあるので、それ以外の、例えば木炭もくたんなんかを買いに近くのホームセンターまで来た。
「バーベキューコンロは前使ってたのがあるから、とりあえず炭と着火剤ちゃっかざいと・・・・・・」
  田中は過去にも家族でやったことがあるらしく、必要なものがある程度経験で分かっているようだ。僕は分からないことだらけなので変に口を出さず面倒なところは全て田中に任せることにした。
  それにしても炭が重い。カゴに入れたままずっと持っていたら指が千切ちぎれるんじゃないかと思うほど、運動不足の僕に一箱五キロの木炭は高いハードルだった。
  買い物も無事に終わり、帰り道に自転車で並走へいそうしながら風を切る。自転車のカゴが重いので、ちょっとしたカーブでバランスを崩しそうになりそうなのを必死に抑えながら、ちょっとした疑問を田中に問う。
「なあ田中」
「うん?」
「田中と船井は友達が多いよな?」
「人並みだよー、浅尾くんもまあまあ多いでしょ」
「まあ、そういうことにしとこう」
「学校の人たちなんてみんな友達みたいなもんだよ」
  それは君みたいな一部の人間だけだよ。僕なんてコミュニケーション能力のカケラもない人間なんだから。なんて言ったら田中は怒りそうだな。
「もし普通に友達やってる人間が実は自分を嫌いだって分かったら田中はどうする?」
  予想外の問いに、田中のペダルをぐ足から力がゆるまる。うーん、と数瞬すうしゅん宙を睨み、いつもより深く息を吸い込んだ。
「多分、普通に友達だと思う」
「なんで?」
「なんで? って・・・・・・嫌われてても嫌われてなくても相手が普通に接してくれるなら私から態度を変える必要はないと思うから」
「ふーん」
「うわ、自分から聞いてきたのに興味なさそう」
「いやいや、そんなことないよ。田中は大人だなぁって思った」
「なにそれ、バカにしてる?」
「いや今褒めてたじゃん」
「浅尾くんに言われても嬉しくないなー」
「船井なら良かった?」
「そうじゃないよ、私から見れば浅尾くんの方が大人っぽいんだもん」
「そんなことないよ」
  そんなことない。そんなことないよ。
  例え話、もし船井が僕のことを嫌いって聞かされたら・・・・・・。その時は人間不信にんげんふしんにでもなるかもしれない。だから田中のその考え方は立派だと思う。
「なーに? 浅尾くんのこと嫌いって人がいるの?」
  まさか自分のことだとは思っていない田中が的外れな予想を立てる。まあ誰だって自分が嫌われてるなんて思いたくはないだろう。
「んー、いるかもね、だからそういうこと聞いたのかも」
「えーなにそれ意味深」
「あはは、気にしないでよ」
「むー」
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