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理由

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 ※※※

 ダンジョン。そこは命懸けのアトラクションとも言える危険な場所である。

 何故ならダンジョンは不思議な事に、常に魔物が溢れ途切れる事が無いからである。更に自然に出来たのか否か不明だが、罠が仕掛けられているのも理由の1つとも言える。

 そしてこの迷いの森にあるダンジョンは、地上から下に潜っていく形状になっており、潜れば潜る程顕れる魔物のレベルも高くなる。それに合わせて厄介な罠が仕掛けられている。ブロンズランクになればダンジョンに入る事を許可されるが、それでも行く事が出来るのは地下4階まで。5階以降は顕れる魔物のレベルを鑑み、シルバーランクでないと潜ってはいけない決まりになっている。

 シルバーランクだと地下10階、ゴールドランクはそれ以降実力に応じて進んで構わない事になっているが、それでも15階が限度だと言われている。

 地下15階まで進んでも、ダンジョンの最下層には及ばない。迷いの森にダンジョンが発見されてから既に100年以上は経過しているが、未だ誰も踏破した事が無いのである。

 そして現在、迷いの森の中に唯一あるこのダンジョンは、冒険者達の格好の稼ぎの場になっている。

 浅い層でそれなりの魔物を狩り、魔石や素材を獲得して帰って行くと言うのが専ら冒険者の日常。迷いの森より強い魔物が多くいるので、危険度は高くなるものの、腕に自信のある熟練の冒険者ともなれば、どの辺りにどんな魔物が顕れるかまで把握しているので、安定した収入源となっているのだ。

 なので素材や魔石を定期的に提供してくれるこのダンジョンは、ある意味ファリスの経済の一助になっていると言っても過言ではない。

 その様に冒険者達はダンジョンを利用している為、誰も踏破しようなどと考えもしない。今の現状で十分実入りがあるのでその必要が無いからだ。そもそも、踏破するとしても、最低でもゴールドランクでないと難しい。現在ファリスにはシルバーランクのギルド長ラルが最高ランクなので、この先も踏破される事はまず無いだろう、とファリスの誰しもが思っていた。

 そんな平和な町の近くにあるダンジョンの中から、何者かが辺りを慎重に警戒し、人が居ない事を確認すると、見つからない様細心の注意を払いながら、そろりそろりと抜き足差し足でそっとダンジョンの外に出て来た。

 出た後も警戒を怠らず、入り口から直ぐ近くの大木にササっとよじ登り、またも人がいないか確認する為キョロキョロと見回す。今は昼を過ぎた辺り。眩しく照らす太陽が丁度真上に来ている。冒険者達も昼食時だからか、どうやらこの辺には誰も居ない様である。

 それを確認出来ると、木陰に潜みながら「フゥー」と小さく溜息を吐く。そして鋭い眼差しに代わりキッと、とある方向を睨む。

「……」

 それは盗賊達が以前塒にしていた洞穴の方向。

「……オーガキングの気配が無くなった。じゃあやっぱり、オルトロスの気配を感じなくなったのも勘違いじゃなかったのか」

 ……狭く暗いダンジョンに居たから、久々に外の空気を吸いたい、という、大した理由じゃなかった。だから目立たない様にする事、町には行かない事を条件に外に出してやった。それなのに。

「どっちも死んでしまったらしい。だが何故だ?」

 ……長年生きてきたから寿命だった? いやそれは無い。外に出してやる前も元気に魔物食らっていやがったから。

「じゃあ、答えは1つ。誰かに殺された、となるが……。そんな事あり得るのか? あそこは平和な町で冒険者も大して強くない筈。王都の様にゴールドランクの冒険者が沢山居るのならまだしも」

 さっぱり理由が分からない。とても気にはなるが今はまだ満足に動ける状態では無い。調査したくともこのダンジョンの傍から離れる訳にはいかない。

 もどかしい気持ちを腹に抱え、それでも何か事情が分からないだろうか、と、オーガキングの気配が消えた洞穴辺りを、遠視の魔法を使って見てみる事にした。これは遠くを見るだけの魔法。大して魔素も使用しないが、出来る者は限られる特殊な魔法でもある。

 もし洞穴辺りに誰か居たとしても、この距離ならまず見つかる事は無いだろう。そう思って早速遠視魔法を使い洞穴辺りを見てみる。

 すると、

 左目だけが紅い黒髪の女が、明らかにこちらを見ており目があった。

「!」

 驚き慌て遠視を止め、大木から降り慎重に周りを気にしながらも、急いでダンジョンの中に逃げ戻る。

「な、何だあいつは? 目があった? この距離なのに? こっちが見えていた? ……まさかあいつ、魔法使いか?」

 もしかしたら向こうも遠視の魔法が使えたのかも知れない。だがこの魔法は誰でも使えるものじゃない。仮にそうだとしたら魔素の有無が班別可能なので、こちらを見ている理由は分からなくもないが。

「いやそれはおかしい。何てたってこの距離だぞ? 絶対に判る筈が無い」

 ……そうだ。判る筈が無い。なのに間違いなく明らかにこっちを見ていた。様子からして予めここに居るのが判っている様だった。


 何か得体の知れないものに出会った時の様な、気持ちの悪い胸騒ぎが止まらない。だがきっと、あの不可思議な女が、オルトロスとオーガキングの気配が消えた事と関係しているだろう。

 ……とても気になる。気になるが。

「だが今はまだ。まだだ。だがそのうち……」

 ※※※

「……」

 ーー追撃しますか?ーー

「いやいいや。あっちから攻撃してきた訳じゃないし。倒したオーガキング達の素材も取らなきゃいけないしね」

 AIがアラートを鳴らしたので何があったのか聞いてみると、これまで感じた事の無い、オルトロスやオーガキング以上の膨大な魔素を持った生物をセンサーで発見したと言うので、その方向を左の紅色の目で望遠機能を用い見てみたミーク。するとその対象は大木の上に居た。だがこちらが見た途端、慌てて直ぐ様地面に降り、近くにあるダンジョンに消えていった。

「何か、あっちもこっちを見てる感じだった」

 そんな事あるのかな? ここからその場所まで約4kmは離れている。到底肉眼じゃ見えない距離。だがミークはとある可能性を思いつく。

「あー、確か遠視って魔法があったね」

 魔石屋で見た本の中に記載されていた魔法。だが相当熟練の魔法使いで無いと取得出来ないし、殆どの魔法使いは先に必須となる魔法を覚える為、大抵後回しにされ余り取得されない魔法、とも書かれていた。

「しかもダンジョンに逃げてったよね?」

 ……そしてあの見た目……。ふむ。

「とりあえず素材の採取しますか」

 ふう、と一息吐いた後ミークは、バラバラに逃げていったオーガキングとオーガ2匹の死体の元へ走って行く。各々5mはあり重さにして約1トンはありそうな巨体を左腕で軽々運ぶミーク。3体は然程離れていなかったので、直ぐに一箇所に集める事が出来た。

 早速必要な素材を各死体から採取する。既に屍となっていても死んだばかりなので血液や体液は当然死体の中に残っている。ミークは汚れたくないので、オルトロスの時同様、左人差し指から細い針の様なビームを出し、それを15cm位で止め、レーザーナイフの様にして素材搾取を開始した。

「うへぇ。何で目玉なんて要るんだよ~」

 何の素材が必要かは既に魔石屋でトレース済。なのでオーガキングから採取する必要がある素材も分かっている。因みに目玉と角が素材として活用できるとの事。ミークは気持ち悪い~、と嘆きながら、右目を閉じてオーガキングの2つの目を繰り抜く作業に入る。それでも左目は必要なので仕方なくオーガキングを見ながら。

 気持ち悪~い、を連呼し何とか両目玉をくり抜き終えると、次にオーガキング、そしてオーガ2匹の角を頭から切り取り、それからサーチで胸の辺りに魔石があると分かると、それもレーザーナイフで肉体を切って取り出した。当然取り出す際も何とか一切触らずに。そして血だらけ体液だらけの魔石を、うげぇ、と言いながらもポシェットに入っている水の魔石を取り出し綺麗に丁寧に洗う。因みにオーガ2匹の魔石は無色透明、オーガキングはルビーの様な輝かしい赤で、どちらも球体で大きさはピンポン玉位だった。

 必要な素材を全て取り出し終わったミークは、オーガキング達の亡骸を左手のひらからレーザーを照射し骨までも完全に残らない様焼き切った。

「ふう。これで良し。さて帰るか」

 真上にあった太陽がほんの少し傾いている。予定よりやや時間は過ぎたがそれでもお昼ご飯を食べるには頃合いだろう。オルトロスの時と違い素材自体も小さいので、そのまま持ち帰れる。

「……これ持って帰ったら、またネミルとかギルド長に色々言われるだろうなあ」

 でもあっちから襲ってきたんだから仕方無いよね? と誰にとも無く言い訳を呟き、ミークはフワリと迷いの森の上空に浮き、そしてファリスの町へ飛んで行った。





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