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オーガキングも大した事無かった
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※※※
眼前にはオーガ2匹とオーガキング1匹。確かにその風貌は鬼の様。上半身裸で下半身には申し訳程度の腰巻き。3匹とも背丈は5m位で、両横の2匹はやや茶色ががかった毛深い体色で額から角が1本突き出ている。だが真ん中で肩に剣を担いでいるのは、角が2本で毛の色も体表も全身真っ黒。
「真ん中がオーガキングだね」
ミークを見るや否や、3匹は揃って「「「ウギヒヒヒ」」」と何故か嗤い始める。
「ウガヒヒ。オマエ女だったノカ。ウギヒヒヒ」
「「ウギヒヒヒ」」
「女は食っテモ旨い。だがソレヨリ子を孕んで貰オウ。ウギヒヒヒ」
「「ウギヒヒヒ」」
……知能が高いから喋れるのか。てか確かオーガって繁殖に人間の女性を襲う事がある、と書いてたけど、それ目と向かって言われると悪寒しか感じない。
ミークが気分悪そうな顔をしているのを理解したかどうかは分からないが、そのままオーガキングは嗤いながら話し続ける。
「ウギヒヒ。しかもオマエ、魔素無いナア? 魔法使えねぇナア? 武器もどうヤラ持ってねぇナア? じゃあやりたい放題だナア?」
「「だナア?」」
「へー。魔素無いって分かるんだ。てか空飛んでた事は疑問に思わないんだ」
両横の2匹が語尾だけ真似るのがちょっと鬱陶しいと思いつつ、知能が高いと言っても賢い訳じゃなさそう、魔素あるかどうかは判るのに、とミークは思いながらも、それでも強いらしいので一応気をつけよう、と左腕を下げファイティングポーズを取る。
刹那、「ストーンバレット」とオーガキングが唱えたとほぼ同時に、ミークの上空から沢山の石の塊が降ってきた。
「おお?」突然何も無い空からふってきた沢山の石礫に驚きながらも、ミークは落下する箇所から瞬速で移動。だが回避したその先にいつの間にかオーガが回り込んで待ち伏せしていた。「ほほう」と感心するミークと「ギギヒ~!」としてやったりの顔でニヤけるオーガ。そしてミークの括れた細いウエストを、その大きな手で掴もうとするが、ミークはそれを左手でバン、と弾く。
「ウギヒ?!」
力には自信があるのにこんな細い腕に難なく弾かれた? 弾かれた勢いで痺れる腕に驚くオーガ。今度はもう1匹が弓を引き絞りミークに狙いを定め、ヒュウ、と風をきる音を立て矢を飛ばした。ミークは「おおマジ?」とほんの少し焦りはしたものの、その飛んできた矢をまたも難なく左手でバシン、と下にはたき落とす。
「ウギヒ?!」
弦が切れる寸前まで力一杯引き絞った矢なのに、それをそんな細い腕で簡単に弾いた? 驚きあんぐり口を開けるオーガ。だが次はオーガキングがその巨体に見合わぬ俊敏な動作で、ミークの正面に現れる。持っていた剣は腰に差し、両腕を広げ双方からミークに掴みかかる。「おっと」ミークは上空に浮遊、地表ではバシィン、とオーガキングの両手がぶつかる音が響く。既の所で掴まれずに済んだミーク。
「ウガガア! すばしっコイ奴メ!」
悔しそうに上空でホバリングしながら「ふいー」と一息吐くミークを見つめるオーガキング。
「中々どうしてやるじゃん。連携凄いね。正直油断してた。やりにくさでいったらオルトロスよりこっちの方が上かも」
ま、オルトロスの時と違い身体能力3倍ってのもあるけどね、と思いながら下を見据えるミーク。一方のオーガキング達はふよふよ空に浮かぶミークを見上げ歯軋りしている。
「ちょこまかしやガッテ。さっさと掴マレ。そして俺の子を孕メ」
「「孕メ」」
「そう言われて、はい、分かりました、と言うとでも?」
ミークがそう呆れて言い返すと同時に、オーガキングが「サイクロン」と唱える。すると小さい竜巻が発生し、それが空にいるミークに向かってきた。
「そうきたか」
この風魔法は食らってもダメージは余り無い。だが物理攻撃が効かない上、食らったらその竜巻に巻き込まれ身動き出来ず落下してしまう。魔石屋でトレースした本に記載されていたのでその事を知っていたミークは、その小さな竜巻を避ける。
更にその間、またも弓を持ったオーガが上空にいるミーク目掛けて攻撃してくる。それをも躱すも、何と避けた筈の竜巻が、ミークのいる所に舞い戻って来た。
「え? 追尾機能とか付いてんの?」
驚きながらまたもそれを避ける。またも下から矢も飛んでくる。だがそれら全て躱し続けるミーク。中々当たらない事に業を煮やしたオーガキングは苛立ちながら上空を睨み付け、「サイクロン」と更に数回詠唱する。すると更にいくつもの小さい竜巻が発生し、それら全てミーク目掛けて飛んで行った。
「当たらないと分かったら今度は数を増やしてきた、か」
確かにそれなりに知能あるね、とミークは感心しながらも増えた小さい竜巻達を難なく躱していく。1つ1つのスピードは時速60km位だろうか。かなりのハイスピードだが空を優雅に飛びながらそれら全て避けていく。そして時折オーガが下から矢を飛ばす。だがそれもやはり当たらない。
「ま、音速で飛んでくる弾道ミサイルに比べたら鈍いしね」
でもここままでは埒が明かない。そう思ったミークはスタ、と一旦地表に降りた。すると空中にいた竜巻達が、一斉に地表にいるミークに向かってきた。
それを確認したミークは、竜巻達が自分に当たる寸前、オーガ達の方へスッと移動する。すると当然竜巻達も追いかけて来る。
「こ、こっちに来ル!」
「「来ル!!」」
慌てたオーガキングは手のひらを竜巻達に向けると、全ての竜巻がフッと霧散した。
「成る程詠唱者はそうやって消せるんだ。でも風の魔法かあ。対策考えた方が良いかもね。物理攻撃ならなんとかなるんだけど」
風の魔法が消えたのを確認したミークは、一旦オーガ達から距離を取る。地表に降りた事で攻撃できる、とオーガ2匹が同時にミークに飛びかかり殴りかかって来た。それを1つは身を仰け反らして躱しもう1つは左手でガシ、と受け止める。
「「ウゲガガ!?」」
オーガは驚き狼狽える。そもそも怪力が自慢の魔物であるオーガ。そして今はオーガキングの下僕となっている事でその身体能力は更に向上している。なのにこんな華奢で小さい人間なのに躱され、その細い腕で止められる。
「「……」」
オーガ2匹とも信じられないといった表情になる。先程弾かれた時もそうだが、明らかにバランスがおかしい。
そして2匹が動きを止めたその隙に、ミークは受け止めた方のオーガをそのままオーガキング向けて放り投げた。「ウガガガアア~~!!」投げられたオーガは驚き叫びながらオーガキングの方へと飛んで行く。それをオーガキングはギリ、と歯噛みし、飛んでくるオーガを片腕でバシン、と弾き飛ばす。
「ウゲガガ~!」
弾かれたオーガが叫びながらドーン、と地面にバウンドしうつ伏せで倒れる。そして今度はオーガキング自ら、その巨体にそぐわぬ俊敏な動きで一気にミークとの距離を詰め、剣を引き抜きミークの横腹目掛け思い切り斬り付けてきた。
そのスピードとパワーは鋼鉄をも砕く程の剛力。普通の人間であればあっという間に胴体真っ二つになっているであろう膂力。振るった剣戟がゴオオと唸る。
だがそれも、ミークは涼しい顔のまま、左手で難なくガシィ、と受け止めた。
「ウ……、ウゲガガ!?」
あり得ない。信じられない。オーガキングは明らかにびっくりした顔になる。オーガの殴打を受け止めただけでなく、自身の圧倒的膂力で振るった剣まで、その枝の様に細い腕なのに受け止めたという事実に理解が追いつかない。しかも普通、その威力によって身体が吹っ飛んでいるだろうにその場から微動だにしない。
それでも流石はオーガキングと言ったところか。何とか気を取り直し、掴まれているその剣を引き離そうと引っ張る。
「ウッグウウウウゥ~!!」
だが、地面を突っ張り思い切り気合を入れ両手で剣を掴み引き剥がそうするも全く動かない。
……何だコイツ? ただの人間の女ナノニ? こんな細っこイノニ? 魔法も使えないノニ? 何で、何でこんなに強インダ?
そう言えばずっと3匹で攻撃しているが全くダメージを与えていない。オーガキングは苛立ちと焦りの表情を浮かべ、握っていた左手を一旦離し、そして渾身の一撃を食らわそうと左拳でミークをそのまままるごと潰す勢いで、脳天から思い切り殴りつける。「ウガアアアアア!!」フルパワーの殴打。だがその瞬間、フッとミークの身体がその場から消えた。
「ウゲア?」
驚いた時にはもう遅い。勢いそのまま、オーガキングの左拳はミークが居なくなった地面を思い切り叩きつける。ゴバアァン! と大音響が辺りに響き渡り地面にビシビシと長い亀裂が入り大きな陥没が出来る。だがそれに構わずオーガキングは、キョロキョロと急に消えたミークの行方を必死に探す。
……そう言えバ、あの女は居ないノニ何故か右腕は相変わラズ動かセナイ。
不思議に思って右手に持っている剣を見てみると、そこには身体から離れた左腕だけが、しっかり剣を握り締めていたままになっていた。
「な、何だこリャア! 腕だケガ、残ってル!」
驚いたオーガキングは、つい握っていた剣を手放してしまう。手を離しても未だ剣を掴んだままでふよふよその場で浮いている左腕。得体が知れず恐ろしさを感じたオーガキングは、その剣を持った左腕からズザザと一旦距離を取る。だが直ぐ、真後ろに気配を感じハッとしてオーガキングがそちらを見ると、左腕だけが無い黒髪の美女がそこに立っていた。
……どういう事ダ? 一体何がどうなっていルンダ? 腕だけガ切り離セル人間って何ダ?
まるで得体の知れない生き物を見る様な眼差しでミークを見つめるオーガキング。額から冷や汗が流れ落ちていく。一方、剣を握ったままの左腕がミークの元に移動する。スッと音も無く左腕がミークの身体に接着し、ミークは手元にやってきたその剣を紅色の左目でスキャンする。
「これ、やっぱり捜索中のブロンズランクの冒険者の持ち物だ。そういや弓矢も確かあの冒険者の1人が持ってた筈。ねえ、この剣とオーガが使ってた弓矢、どうしたの?」
「……」
それには答えず、止まらない冷や汗を掻きながらミークを睨み続けるオーガキング。
「お前ハ……、お前ハ何者ダ?」
「私? この世界で言う人族ってやつじゃない?」
「う、嘘ダ! 人族ハそんナニ強くナイ! そもそもお前、魔法使えナイ武器も使ってナイ!」
オーガキングが狼狽えながら叫ぶも、そんな事言われても知らないよ、と心のなかで呟くミーク。この間他のオーガ2匹は、そんなオーガキングを見て、同じくミークの圧倒的な強さに動揺しながら様子を伺っている。ふと、ミークがオーガキングの腰に巻いているその布に、ブロンズメダルがぶら下がっているのに気付いた。
「もしかしてあんた達、冒険者3人殺しちゃった?」
「3人? 3人いタ人間は食っタ」
「「食っタ」」
「食った……、か。分かった」
確かにオーガは人を食べる習性がある。だからこの3匹はきっと本当の事を言っているのだろう。その言葉を聞いてミークは、3人が既にこの世に居ない事を理解し残念な気持ちで溜息を吐く。とりあえずブロンズランク3人については分かったので、ミークはそろそろ終わりにしよう、と思った。
「ま、身体能力3倍で何処までやれるか試したかったんだよね。こいつら確かゴールドランクで手古摺る相手らしいし。ま、3倍がそれ位って事かな?」
オルトロス討伐の時は身体能力5倍だったが、それで余りにも弱いと感じていたミーク。やはりゴールドランクレベルの魔物は大した事無さそう、と思った様である。
「まあでも、連携と魔法にはちょっと驚いたよ」
そう言って剣を右手に持ち、左手のひらをオーガキング達に向けて広げる黒髪のオッドアイの超絶美女。それを見てオーガキングは嫌な予感を感じ、慌ててミークに背を向け森の奥へ一目散に逃げ出した。それに驚いた2匹だが、急いで後を追う様に同じく森の中に逃げていく。
「そうきたか」
巨体ながらまるで鹿の如く森の中を逃げる俊敏な3匹。このままでは攻撃できないと、ミークは空中にふわりと浮かび上がり、紅色の左目でオーガキング達をサーチすると、然程離れていないのもあって、即3匹を発見出来た。
「ま、そこそこ頑張ったと思うよ」
そして左手のひらに白く光るソフトボール大の球を出現させ、それからそれは3つの氷柱の様に尖った形状に変わる。そして、
「じゃあね」
と呟いた後、ピシュン、と3本の光の柱は、それぞれ逃げている方向へ光の速さで飛んでいった。
刹那、
「ウギャ!」「ウガア!」「ギャアア!」
と、悲鳴が聞こえ、ズシィン、とそれぞれ倒れる音が、森の中に響き渡った。
眼前にはオーガ2匹とオーガキング1匹。確かにその風貌は鬼の様。上半身裸で下半身には申し訳程度の腰巻き。3匹とも背丈は5m位で、両横の2匹はやや茶色ががかった毛深い体色で額から角が1本突き出ている。だが真ん中で肩に剣を担いでいるのは、角が2本で毛の色も体表も全身真っ黒。
「真ん中がオーガキングだね」
ミークを見るや否や、3匹は揃って「「「ウギヒヒヒ」」」と何故か嗤い始める。
「ウガヒヒ。オマエ女だったノカ。ウギヒヒヒ」
「「ウギヒヒヒ」」
「女は食っテモ旨い。だがソレヨリ子を孕んで貰オウ。ウギヒヒヒ」
「「ウギヒヒヒ」」
……知能が高いから喋れるのか。てか確かオーガって繁殖に人間の女性を襲う事がある、と書いてたけど、それ目と向かって言われると悪寒しか感じない。
ミークが気分悪そうな顔をしているのを理解したかどうかは分からないが、そのままオーガキングは嗤いながら話し続ける。
「ウギヒヒ。しかもオマエ、魔素無いナア? 魔法使えねぇナア? 武器もどうヤラ持ってねぇナア? じゃあやりたい放題だナア?」
「「だナア?」」
「へー。魔素無いって分かるんだ。てか空飛んでた事は疑問に思わないんだ」
両横の2匹が語尾だけ真似るのがちょっと鬱陶しいと思いつつ、知能が高いと言っても賢い訳じゃなさそう、魔素あるかどうかは判るのに、とミークは思いながらも、それでも強いらしいので一応気をつけよう、と左腕を下げファイティングポーズを取る。
刹那、「ストーンバレット」とオーガキングが唱えたとほぼ同時に、ミークの上空から沢山の石の塊が降ってきた。
「おお?」突然何も無い空からふってきた沢山の石礫に驚きながらも、ミークは落下する箇所から瞬速で移動。だが回避したその先にいつの間にかオーガが回り込んで待ち伏せしていた。「ほほう」と感心するミークと「ギギヒ~!」としてやったりの顔でニヤけるオーガ。そしてミークの括れた細いウエストを、その大きな手で掴もうとするが、ミークはそれを左手でバン、と弾く。
「ウギヒ?!」
力には自信があるのにこんな細い腕に難なく弾かれた? 弾かれた勢いで痺れる腕に驚くオーガ。今度はもう1匹が弓を引き絞りミークに狙いを定め、ヒュウ、と風をきる音を立て矢を飛ばした。ミークは「おおマジ?」とほんの少し焦りはしたものの、その飛んできた矢をまたも難なく左手でバシン、と下にはたき落とす。
「ウギヒ?!」
弦が切れる寸前まで力一杯引き絞った矢なのに、それをそんな細い腕で簡単に弾いた? 驚きあんぐり口を開けるオーガ。だが次はオーガキングがその巨体に見合わぬ俊敏な動作で、ミークの正面に現れる。持っていた剣は腰に差し、両腕を広げ双方からミークに掴みかかる。「おっと」ミークは上空に浮遊、地表ではバシィン、とオーガキングの両手がぶつかる音が響く。既の所で掴まれずに済んだミーク。
「ウガガア! すばしっコイ奴メ!」
悔しそうに上空でホバリングしながら「ふいー」と一息吐くミークを見つめるオーガキング。
「中々どうしてやるじゃん。連携凄いね。正直油断してた。やりにくさでいったらオルトロスよりこっちの方が上かも」
ま、オルトロスの時と違い身体能力3倍ってのもあるけどね、と思いながら下を見据えるミーク。一方のオーガキング達はふよふよ空に浮かぶミークを見上げ歯軋りしている。
「ちょこまかしやガッテ。さっさと掴マレ。そして俺の子を孕メ」
「「孕メ」」
「そう言われて、はい、分かりました、と言うとでも?」
ミークがそう呆れて言い返すと同時に、オーガキングが「サイクロン」と唱える。すると小さい竜巻が発生し、それが空にいるミークに向かってきた。
「そうきたか」
この風魔法は食らってもダメージは余り無い。だが物理攻撃が効かない上、食らったらその竜巻に巻き込まれ身動き出来ず落下してしまう。魔石屋でトレースした本に記載されていたのでその事を知っていたミークは、その小さな竜巻を避ける。
更にその間、またも弓を持ったオーガが上空にいるミーク目掛けて攻撃してくる。それをも躱すも、何と避けた筈の竜巻が、ミークのいる所に舞い戻って来た。
「え? 追尾機能とか付いてんの?」
驚きながらまたもそれを避ける。またも下から矢も飛んでくる。だがそれら全て躱し続けるミーク。中々当たらない事に業を煮やしたオーガキングは苛立ちながら上空を睨み付け、「サイクロン」と更に数回詠唱する。すると更にいくつもの小さい竜巻が発生し、それら全てミーク目掛けて飛んで行った。
「当たらないと分かったら今度は数を増やしてきた、か」
確かにそれなりに知能あるね、とミークは感心しながらも増えた小さい竜巻達を難なく躱していく。1つ1つのスピードは時速60km位だろうか。かなりのハイスピードだが空を優雅に飛びながらそれら全て避けていく。そして時折オーガが下から矢を飛ばす。だがそれもやはり当たらない。
「ま、音速で飛んでくる弾道ミサイルに比べたら鈍いしね」
でもここままでは埒が明かない。そう思ったミークはスタ、と一旦地表に降りた。すると空中にいた竜巻達が、一斉に地表にいるミークに向かってきた。
それを確認したミークは、竜巻達が自分に当たる寸前、オーガ達の方へスッと移動する。すると当然竜巻達も追いかけて来る。
「こ、こっちに来ル!」
「「来ル!!」」
慌てたオーガキングは手のひらを竜巻達に向けると、全ての竜巻がフッと霧散した。
「成る程詠唱者はそうやって消せるんだ。でも風の魔法かあ。対策考えた方が良いかもね。物理攻撃ならなんとかなるんだけど」
風の魔法が消えたのを確認したミークは、一旦オーガ達から距離を取る。地表に降りた事で攻撃できる、とオーガ2匹が同時にミークに飛びかかり殴りかかって来た。それを1つは身を仰け反らして躱しもう1つは左手でガシ、と受け止める。
「「ウゲガガ!?」」
オーガは驚き狼狽える。そもそも怪力が自慢の魔物であるオーガ。そして今はオーガキングの下僕となっている事でその身体能力は更に向上している。なのにこんな華奢で小さい人間なのに躱され、その細い腕で止められる。
「「……」」
オーガ2匹とも信じられないといった表情になる。先程弾かれた時もそうだが、明らかにバランスがおかしい。
そして2匹が動きを止めたその隙に、ミークは受け止めた方のオーガをそのままオーガキング向けて放り投げた。「ウガガガアア~~!!」投げられたオーガは驚き叫びながらオーガキングの方へと飛んで行く。それをオーガキングはギリ、と歯噛みし、飛んでくるオーガを片腕でバシン、と弾き飛ばす。
「ウゲガガ~!」
弾かれたオーガが叫びながらドーン、と地面にバウンドしうつ伏せで倒れる。そして今度はオーガキング自ら、その巨体にそぐわぬ俊敏な動きで一気にミークとの距離を詰め、剣を引き抜きミークの横腹目掛け思い切り斬り付けてきた。
そのスピードとパワーは鋼鉄をも砕く程の剛力。普通の人間であればあっという間に胴体真っ二つになっているであろう膂力。振るった剣戟がゴオオと唸る。
だがそれも、ミークは涼しい顔のまま、左手で難なくガシィ、と受け止めた。
「ウ……、ウゲガガ!?」
あり得ない。信じられない。オーガキングは明らかにびっくりした顔になる。オーガの殴打を受け止めただけでなく、自身の圧倒的膂力で振るった剣まで、その枝の様に細い腕なのに受け止めたという事実に理解が追いつかない。しかも普通、その威力によって身体が吹っ飛んでいるだろうにその場から微動だにしない。
それでも流石はオーガキングと言ったところか。何とか気を取り直し、掴まれているその剣を引き離そうと引っ張る。
「ウッグウウウウゥ~!!」
だが、地面を突っ張り思い切り気合を入れ両手で剣を掴み引き剥がそうするも全く動かない。
……何だコイツ? ただの人間の女ナノニ? こんな細っこイノニ? 魔法も使えないノニ? 何で、何でこんなに強インダ?
そう言えばずっと3匹で攻撃しているが全くダメージを与えていない。オーガキングは苛立ちと焦りの表情を浮かべ、握っていた左手を一旦離し、そして渾身の一撃を食らわそうと左拳でミークをそのまままるごと潰す勢いで、脳天から思い切り殴りつける。「ウガアアアアア!!」フルパワーの殴打。だがその瞬間、フッとミークの身体がその場から消えた。
「ウゲア?」
驚いた時にはもう遅い。勢いそのまま、オーガキングの左拳はミークが居なくなった地面を思い切り叩きつける。ゴバアァン! と大音響が辺りに響き渡り地面にビシビシと長い亀裂が入り大きな陥没が出来る。だがそれに構わずオーガキングは、キョロキョロと急に消えたミークの行方を必死に探す。
……そう言えバ、あの女は居ないノニ何故か右腕は相変わラズ動かセナイ。
不思議に思って右手に持っている剣を見てみると、そこには身体から離れた左腕だけが、しっかり剣を握り締めていたままになっていた。
「な、何だこリャア! 腕だケガ、残ってル!」
驚いたオーガキングは、つい握っていた剣を手放してしまう。手を離しても未だ剣を掴んだままでふよふよその場で浮いている左腕。得体が知れず恐ろしさを感じたオーガキングは、その剣を持った左腕からズザザと一旦距離を取る。だが直ぐ、真後ろに気配を感じハッとしてオーガキングがそちらを見ると、左腕だけが無い黒髪の美女がそこに立っていた。
……どういう事ダ? 一体何がどうなっていルンダ? 腕だけガ切り離セル人間って何ダ?
まるで得体の知れない生き物を見る様な眼差しでミークを見つめるオーガキング。額から冷や汗が流れ落ちていく。一方、剣を握ったままの左腕がミークの元に移動する。スッと音も無く左腕がミークの身体に接着し、ミークは手元にやってきたその剣を紅色の左目でスキャンする。
「これ、やっぱり捜索中のブロンズランクの冒険者の持ち物だ。そういや弓矢も確かあの冒険者の1人が持ってた筈。ねえ、この剣とオーガが使ってた弓矢、どうしたの?」
「……」
それには答えず、止まらない冷や汗を掻きながらミークを睨み続けるオーガキング。
「お前ハ……、お前ハ何者ダ?」
「私? この世界で言う人族ってやつじゃない?」
「う、嘘ダ! 人族ハそんナニ強くナイ! そもそもお前、魔法使えナイ武器も使ってナイ!」
オーガキングが狼狽えながら叫ぶも、そんな事言われても知らないよ、と心のなかで呟くミーク。この間他のオーガ2匹は、そんなオーガキングを見て、同じくミークの圧倒的な強さに動揺しながら様子を伺っている。ふと、ミークがオーガキングの腰に巻いているその布に、ブロンズメダルがぶら下がっているのに気付いた。
「もしかしてあんた達、冒険者3人殺しちゃった?」
「3人? 3人いタ人間は食っタ」
「「食っタ」」
「食った……、か。分かった」
確かにオーガは人を食べる習性がある。だからこの3匹はきっと本当の事を言っているのだろう。その言葉を聞いてミークは、3人が既にこの世に居ない事を理解し残念な気持ちで溜息を吐く。とりあえずブロンズランク3人については分かったので、ミークはそろそろ終わりにしよう、と思った。
「ま、身体能力3倍で何処までやれるか試したかったんだよね。こいつら確かゴールドランクで手古摺る相手らしいし。ま、3倍がそれ位って事かな?」
オルトロス討伐の時は身体能力5倍だったが、それで余りにも弱いと感じていたミーク。やはりゴールドランクレベルの魔物は大した事無さそう、と思った様である。
「まあでも、連携と魔法にはちょっと驚いたよ」
そう言って剣を右手に持ち、左手のひらをオーガキング達に向けて広げる黒髪のオッドアイの超絶美女。それを見てオーガキングは嫌な予感を感じ、慌ててミークに背を向け森の奥へ一目散に逃げ出した。それに驚いた2匹だが、急いで後を追う様に同じく森の中に逃げていく。
「そうきたか」
巨体ながらまるで鹿の如く森の中を逃げる俊敏な3匹。このままでは攻撃できないと、ミークは空中にふわりと浮かび上がり、紅色の左目でオーガキング達をサーチすると、然程離れていないのもあって、即3匹を発見出来た。
「ま、そこそこ頑張ったと思うよ」
そして左手のひらに白く光るソフトボール大の球を出現させ、それからそれは3つの氷柱の様に尖った形状に変わる。そして、
「じゃあね」
と呟いた後、ピシュン、と3本の光の柱は、それぞれ逃げている方向へ光の速さで飛んでいった。
刹那、
「ウギャ!」「ウガア!」「ギャアア!」
と、悲鳴が聞こえ、ズシィン、とそれぞれ倒れる音が、森の中に響き渡った。
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前任の教皇が急逝後、教皇選定の儀にて有力候補二名が不慮の死を遂げ、混乱に陥った教会で年功序列の精神に従い、選出された教皇。
元からの候補ではなく、支持者もおらず、穏健派であることと健康であることから選ばれた。故に、就任直後はぽっと出教皇や漁夫の利教皇と揶揄されることもあった。
しかし、教皇就任後に教会内でも声を上げることなく、密やかにその資格を有していた聖者や聖女を見抜き、要職へと抜擢。
教皇ロマンシスの時代は歴代の教皇のどの時代よりも数多くの聖者、聖女の聖人が在籍し、世の安寧に尽力したと言われ、豊作の時代とされている。
また、教皇ロマンシスの口癖は「わしよりも教皇の座に相応しいものがおる」と、非常に謙虚な人柄であった。口の悪い子供に「徘徊老人」などと言われても、「よいよい、元気な子じゃのぅ」と笑って済ませるなど、穏やかな好々爺であったとも言われている。
その実態は……「わしゃ、さっさと隠居して子供達と戯れたいんじゃ~っ!?」という、ロマ爺の日常。
短編『わし、八十九歳。ぴっちぴちの新米教皇。もう辞めたい……』を連載してみました。不定期更新。
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