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事情聴取するも……
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※※※
「ん……、眩し」
ミークの寝ている床に、丁度窓から朝日が差し込み顔を照らした。その光で目が覚める。
「んっ、うーん」
上体を起こし思い切り伸びをする。だが直ぐ「あ、痛てて……」と身体のあちこちが軋む様な痛みを感じる。
「あ、そっか。筋肉痛か」
昨日オルトロスを倒す際、身体能力5倍にした事で、朝起きると軽い筋肉痛になっていた。だが身体を動かすのに殆ど影響が無い程度のものなので然程気にはならない。そしてミークは床に敷いた布団から出て立ち上がる。
昨晩ミークは、サーシェクと食卓を共にしたが、何やら色々喋りたそうなサーシェクが鬱陶しいので、本当はゆっくり味わいたかった料理をさっさと食べてしまい「手伝ってきます」とまだ食事しているサーシェクを1人置いてそそくさと厨房に向かった。残念そうな顔でやれやれ、と手のひらを上に広げながら、サーシェクは仕方なく残りを平らげ、一応ミークには会釈だけして1人帰って行った。
そしてある程度片付いた所で、ネミルの母親が「今日もネミルの寝室使って良いからね」と火と水の魔石、そして湯桶と手拭いを渡してくれた。ミークは「ありがとうございます」と丁寧に頭を下げお礼を言い、まだネミルが帰っていない2階の部屋に1人上がり、部屋の中で服を脱ぎ身体を拭いた後、布団を敷き床に入ったら、疲れていたのか直ぐ寝入った。
そして隣のベッドには、いつの間にか帰って来ていたネミルが寝息を立てている。
「私が寝ている間、起こさない様そっと入ってきてくれたんだな」
睡眠中AIがネミルの入室を感知していただろうが、そこは最先端の技術の粋を集めたAIなだけあって、友好的な人物だと判断して無反応を通した様だ。
「てかまあ、敵じゃない事判ってるからだろうけどね」
日が差し込んで来ている閉じた窓の外からは、チチチ、と小鳥の囀りが耳に入ってくる。ミークの今の格好は上半身キャミソールの様なスポーツブラタイプのインナーに、下半身はやや面積の狭い白い下着のみだが、気にせずその格好のまま窓を開けてみる。
瞬間、心地良い、草の香りを運んでくる風がミークの頬を撫でる。「気持ち良~い」と顔を綻ばせミークは深呼吸した。
「本当、ここって平和だね。この町好きになりそう。いやでも、人間関係は面倒臭いかも。ゴルガみたいなのも居るし」
再び草の香りを乗せた風がふわりとミークの黒髪を撫でる。その心地良い感触につい笑みが溢れる。
「ま、でも、空気は綺麗し良い人は多いし、居心地の良さは間違いない」
最初にこの町に来て良かった。それは心からそう思っている。だが直ぐ、スッと表情に影が落ちる。
「望仁……、私だけ居ても……」
「ん? あ、ミーク起きたの?」
ミークの呟きが聞こえたからかどうかは分からないが、ベッドで寝ていたネミルが目を覚ました。ミークは慌てて右目を拭い、振り返って「おはよう」と返すと、「ふあ~あ。おふぁよ~う」とネミルは欠伸しながら返事する。
そんなネミルを見てミークはニコっと笑顔を返しながら、「昨晩ネミル居なかったけど、ご両親に了承を得てもここ使わせて貰っちゃった。ごめんね」と頭を下げる。ネミルはそれを聞いて微笑む。
「お母さんから聞いてるから問題無いわよ。でも逐一確認しなくても、暫くは勝手に使ってて良いのよ」
「そう言う訳にはいかないよ」
「フフ。律儀なのね」
そして、んー、と上体だけ起こして豊かな双丘を揺らし伸びをした後、ネミルもベッドから降りる。
「さ、着替えて下行きましょ。今日もギルドに行かないと」
「そうだった」
昨日倒したオルトロスの素材の所有者はミーク。当然素材全てミークの物なので、換金やその後の処理について詳しくギルドで聞かなければならない。これから活動するに当たってミークも資金は必要なので、ある意味オルトロスが出没した事は、ラッキーだと思っていたりする。
「ま、換金以外にも使い道はあるから、その辺りもギルドで説明すると思うわ」
「使い道? お金にするだけじゃないって事?」
そうよ、と微笑みながら、ネミルは寝巻きから着替え部屋の外に出る。ミークも首を傾げながら同じく部屋を出て下に降りた。
……モチヒトって何だろう? その言葉を口にする時、ミークって寂しそうな顔をするのよね。
※※※
「申し訳ないな……」
「親がいいって言ってるんだから気にしないの」
「でも……。本当なら宿代だって払わなきゃいけないのに」
今日もネミルの両親は朝食をご馳走してくれた。それが申し訳なく思っているミーク。その様子にネミルは「じゃあ宿屋に戻って親にお金払えば良いわよ」と言ってみる。
「ま、きっと受け取らないと思うけれど」
フフ、と笑いながらネミルが付け加えると、ええ~? とミークは困惑した顔。「とりあえずギルドに急ぎましょ」とネミルは軽く駆け足になる。ミークも遅れまいと付いていった。
そしてギルドに到着すると、たっぷり髭を蓄えた、大きな鷲鼻の男が一昨日空いた壁の穴の修理をしていた。ネミルは「お疲れ様です」と笑顔で挨拶すると「おう」と一言返事するのみ。作業に集中している模様でミークが傍に居る事さえ気付いていない様子。
ミークも挨拶しようか迷っていると、その様子に気付いたネミルが背中を押しながら、「邪魔しちゃ悪いから入りましょうか」と中に誘った。
中は相変わらずむさ苦しい。屈強な男達が今日も依頼を受けようと沢山居る。だがミークが入るや否や、皆一斉に視線を向けざわざわし始める。明らかにミークに興味があるが、それでも誰も声をかけない。傍にネミルいるので話しかけるのを躊躇っている模様。ギルドでは受付嬢の方が冒険者より立場が強いので、話しかけたくても出来ない様である。
「フフ。私と一緒で良かったわね。でも今日は受付じゃなくそのままギルド長室に行くわね」
人払い本当助かる、とミークは安堵しながら、2人で2階へ上がった。
※※※
「……」
ラルはギルド長室で1人、深く考え込んでいた。
それは昨日捕まえたゴルガから色々聴き込みをした内容について。流石にゴルガももう観念していて、嘘偽り無く正直に全てを話す、と事前に宣言してからの聴取だった。
まず昨日出没したオルトロスについて。ゴルガは以前、他のブロンズランク達とパーティーを組んでダンジョンに行った際、1人勝手に下の層へ潜って行った事がある。その時出会ったのがオルトロスだったと言う。仲間を置いて真っ先に逃げたそうだが。
その、ダンジョンで見たオルトロスが昨日出没した、とゴルガは言うのである。
また一昨日の夜、ラルの言う通り丸腰のまま1人迷いの森に入ってしまったゴルガは、一角獣の群れに囲まれた際、ボング達に助けられ、その後仲間入れて貰ったとの事。そして次の日、フォレストウルフが沢山死んでいるのを見つけ不審に思うも、あの女が急に現れ自分達を倒した。だが殺すでも無く気絶させた、との事。
その話は昨日ミークから簡単に聞いていたので、概ね齟齬は無いと言う判断なのだが、気になったのはその後、
『俺は幸運な事に、ボング達より先に縄が解けちまったんで、これ幸いと一足先にその場から離れたんだ。だが直ぐあの場所に……、オーガが、オーガが3匹顕れやがったんだ。俺は慌てながらも息を潜め木の陰に隠れて事の成り行きを見てた。そしたら気絶したままのボング達を抱えてどっかに運びやがった』
『オーガ3匹? ならお前1人でも何とかなったんじゃないのか? その時武器は持ってたんだろ?』
『……その中の1匹が、オーガキングだったんだよ』
当時の事を思い出してか、冷や汗を掻きながら語るゴルガの様子からして、どうも嘘を吐いている様には思えなかった。
因みにオーガとは人型の魔物。背丈は5m程あり頭に角が生えていて、俊敏で怪力。棍棒や人から奪った武器を身に着けている事が多い。主に動物を食すが人も好物で、迷いの森でも時折出没する。数匹であればブロンズランクなら倒すのは難しくないので討伐依頼もちょくちょく出ている。
だが、オーガキングとなると話は別。オルトロス同様ゴールドランクでやっと倒せる程の強い魔物。知能が高く武器を扱うのも上手く魔法も使える。背丈はオーガと変わらないが、その代わり角が2本生えていて全身が真っ黒。
そして、オーガキングが出没するなど、この迷いの森でこれまで一度も聞いた事が無かった。
それが顕れたと言うのである。オルトロスと言い、立て続けにそんな強大な魔物が迷いの森に出現するなんて。確かに迷いの森は魔物が沢山棲んでいる。だがいくら強くても、シルバーランクが居れば事足りる程度の強さの魔物しか居ない筈。
町の入り口近くの影に隠れていた事については、何やら言葉を濁していたが、そこは今はどうでも良い。
「しかしダンジョンに居たオルトロスが出てきた、ってのはなあ……。だってダンジョンの入り口、あんな巨体が出入り出来る程大きくない」
迷いの森に唯一あるダンジョン。ラルの言う通り、入り口は高さ3m、幅10m程で横に広くガマガエルの口の様になっている。一方のオルトロスは背丈だけでも15mはある。それがどうやってダンジョンから出てきたのか。
難しい顔をしながら思案するラル。そこで、コン、コン、と扉をノックする音が聞こえ、「ネミルです。ミークと一緒です」と聞こえたので、「ああ、入ってくれ」と答えると、扉が開きネミルとミークが揃って頭を下げた。
2人を迎え入れると、ギルは気持ちを切り替え笑顔で「そこ、座ってくれ」と長机の椅子への着席を勧め、ギルも対面に座る。そして一枚の紙をミークの前に差し出した。
「オルトロスの素材の詳細が書いてある。全て換金すると白金貨1枚金貨50枚になる」
ラルから受け取った紙を見るミーク。内訳はオルトロスの魔石1つで白金貨1枚、牙4本で金貨40枚、毛皮で金貨10枚との事。因みに金貨1枚で銀貨100枚分、白金貨1枚で金貨100枚分とも記載されてあった。
「え? じゃあ白金貨1枚って銅貨100万枚分て事ですか?」
「そういう事だ」
ひええ~、と素っ頓狂な声を出しミークは驚く。普段余り感情を見せないミークのそんな表現に、ラルは「何だそれ」と笑う。ネミルもクスクス笑っている。
「え、でもこれ、結構大金なのでは?」
「そうだな。白金貨1枚あれば小さい家1軒は建てられるだろうな。更に金貨50枚だから、全部使えばネミルの宿屋位の立派な家は建てられるだろう」
「ええ~……」
確かにこれから生活する為に資金は欲しいと思っていた。だがいきなり大金過ぎる。明らかにミークが動揺しているのが可笑しく思いながらも、ギルは「そこで提案なんだが」と話しかける。
「オルトロスの魔石、あれ何かしらの魔導具に加工して貰うってのはどうだ? 他に毛皮もミークの服の仕立てや防具にも変えられるぞ?」
「そうね。全部換金するよりそっちの方が良いかも」
ネミルも同意しながらそう言うと、ふむ、とミークは少し考え込む。
……どうせ暫くはこの町で冒険者稼業をしようと思ってたし、直ぐ大金が必要って訳じゃない。そして下着も含め服は欲しい。ずっと同じ服着てるの気になってたし……そろそろ洗濯しなきゃ。で、それらを買うんじゃなく素材で仕立てて貰えるんなら儲けものだよね。
「分かりました。じゃあ加工して貰います」
ミークの決断を聞いて「了解。じゃあその様に処理しておこう」とニカと笑うラル。
「……そうだな。魔石は魔石屋、毛皮は仕立て屋で加工、そして余った毛皮と牙を換金、でどうだ? ミークの戦闘スタイルからして武器は不要だろ? 牙は武器にしかならないからな」
「はい。それでお願いします。でも魔石で何が出来るんですか?」
ミークの質問にラルは「それは魔石屋行ってジャミーに聞いてくれ。きっと役に立つ良い品に加工してくれる。あいつ口は悪いが根は良い奴だから悪い様にはしないだろうよ」と答える。
……口悪いだけかなあ? お金持ってたら身体売ったのか? とか言う失礼な人だし。
ネミルも良い人だって言ってたがどうも信憑性に欠けると思いつつも、「分かりました」とミークは答えた。
「それと、だ。ウッドランクのメダル出してくれ」
ラルにそう言われ「?」と思いながらも腰のポシェットから言われた通りメダルを出すと、ラルはそれを受け取り、代わりにシルバーに輝くメダルをミークに差し出した。
「ミーク。オルトロス討伐と町を守った事の功績を持って、シルバーランクに昇格だ」
「ん……、眩し」
ミークの寝ている床に、丁度窓から朝日が差し込み顔を照らした。その光で目が覚める。
「んっ、うーん」
上体を起こし思い切り伸びをする。だが直ぐ「あ、痛てて……」と身体のあちこちが軋む様な痛みを感じる。
「あ、そっか。筋肉痛か」
昨日オルトロスを倒す際、身体能力5倍にした事で、朝起きると軽い筋肉痛になっていた。だが身体を動かすのに殆ど影響が無い程度のものなので然程気にはならない。そしてミークは床に敷いた布団から出て立ち上がる。
昨晩ミークは、サーシェクと食卓を共にしたが、何やら色々喋りたそうなサーシェクが鬱陶しいので、本当はゆっくり味わいたかった料理をさっさと食べてしまい「手伝ってきます」とまだ食事しているサーシェクを1人置いてそそくさと厨房に向かった。残念そうな顔でやれやれ、と手のひらを上に広げながら、サーシェクは仕方なく残りを平らげ、一応ミークには会釈だけして1人帰って行った。
そしてある程度片付いた所で、ネミルの母親が「今日もネミルの寝室使って良いからね」と火と水の魔石、そして湯桶と手拭いを渡してくれた。ミークは「ありがとうございます」と丁寧に頭を下げお礼を言い、まだネミルが帰っていない2階の部屋に1人上がり、部屋の中で服を脱ぎ身体を拭いた後、布団を敷き床に入ったら、疲れていたのか直ぐ寝入った。
そして隣のベッドには、いつの間にか帰って来ていたネミルが寝息を立てている。
「私が寝ている間、起こさない様そっと入ってきてくれたんだな」
睡眠中AIがネミルの入室を感知していただろうが、そこは最先端の技術の粋を集めたAIなだけあって、友好的な人物だと判断して無反応を通した様だ。
「てかまあ、敵じゃない事判ってるからだろうけどね」
日が差し込んで来ている閉じた窓の外からは、チチチ、と小鳥の囀りが耳に入ってくる。ミークの今の格好は上半身キャミソールの様なスポーツブラタイプのインナーに、下半身はやや面積の狭い白い下着のみだが、気にせずその格好のまま窓を開けてみる。
瞬間、心地良い、草の香りを運んでくる風がミークの頬を撫でる。「気持ち良~い」と顔を綻ばせミークは深呼吸した。
「本当、ここって平和だね。この町好きになりそう。いやでも、人間関係は面倒臭いかも。ゴルガみたいなのも居るし」
再び草の香りを乗せた風がふわりとミークの黒髪を撫でる。その心地良い感触につい笑みが溢れる。
「ま、でも、空気は綺麗し良い人は多いし、居心地の良さは間違いない」
最初にこの町に来て良かった。それは心からそう思っている。だが直ぐ、スッと表情に影が落ちる。
「望仁……、私だけ居ても……」
「ん? あ、ミーク起きたの?」
ミークの呟きが聞こえたからかどうかは分からないが、ベッドで寝ていたネミルが目を覚ました。ミークは慌てて右目を拭い、振り返って「おはよう」と返すと、「ふあ~あ。おふぁよ~う」とネミルは欠伸しながら返事する。
そんなネミルを見てミークはニコっと笑顔を返しながら、「昨晩ネミル居なかったけど、ご両親に了承を得てもここ使わせて貰っちゃった。ごめんね」と頭を下げる。ネミルはそれを聞いて微笑む。
「お母さんから聞いてるから問題無いわよ。でも逐一確認しなくても、暫くは勝手に使ってて良いのよ」
「そう言う訳にはいかないよ」
「フフ。律儀なのね」
そして、んー、と上体だけ起こして豊かな双丘を揺らし伸びをした後、ネミルもベッドから降りる。
「さ、着替えて下行きましょ。今日もギルドに行かないと」
「そうだった」
昨日倒したオルトロスの素材の所有者はミーク。当然素材全てミークの物なので、換金やその後の処理について詳しくギルドで聞かなければならない。これから活動するに当たってミークも資金は必要なので、ある意味オルトロスが出没した事は、ラッキーだと思っていたりする。
「ま、換金以外にも使い道はあるから、その辺りもギルドで説明すると思うわ」
「使い道? お金にするだけじゃないって事?」
そうよ、と微笑みながら、ネミルは寝巻きから着替え部屋の外に出る。ミークも首を傾げながら同じく部屋を出て下に降りた。
……モチヒトって何だろう? その言葉を口にする時、ミークって寂しそうな顔をするのよね。
※※※
「申し訳ないな……」
「親がいいって言ってるんだから気にしないの」
「でも……。本当なら宿代だって払わなきゃいけないのに」
今日もネミルの両親は朝食をご馳走してくれた。それが申し訳なく思っているミーク。その様子にネミルは「じゃあ宿屋に戻って親にお金払えば良いわよ」と言ってみる。
「ま、きっと受け取らないと思うけれど」
フフ、と笑いながらネミルが付け加えると、ええ~? とミークは困惑した顔。「とりあえずギルドに急ぎましょ」とネミルは軽く駆け足になる。ミークも遅れまいと付いていった。
そしてギルドに到着すると、たっぷり髭を蓄えた、大きな鷲鼻の男が一昨日空いた壁の穴の修理をしていた。ネミルは「お疲れ様です」と笑顔で挨拶すると「おう」と一言返事するのみ。作業に集中している模様でミークが傍に居る事さえ気付いていない様子。
ミークも挨拶しようか迷っていると、その様子に気付いたネミルが背中を押しながら、「邪魔しちゃ悪いから入りましょうか」と中に誘った。
中は相変わらずむさ苦しい。屈強な男達が今日も依頼を受けようと沢山居る。だがミークが入るや否や、皆一斉に視線を向けざわざわし始める。明らかにミークに興味があるが、それでも誰も声をかけない。傍にネミルいるので話しかけるのを躊躇っている模様。ギルドでは受付嬢の方が冒険者より立場が強いので、話しかけたくても出来ない様である。
「フフ。私と一緒で良かったわね。でも今日は受付じゃなくそのままギルド長室に行くわね」
人払い本当助かる、とミークは安堵しながら、2人で2階へ上がった。
※※※
「……」
ラルはギルド長室で1人、深く考え込んでいた。
それは昨日捕まえたゴルガから色々聴き込みをした内容について。流石にゴルガももう観念していて、嘘偽り無く正直に全てを話す、と事前に宣言してからの聴取だった。
まず昨日出没したオルトロスについて。ゴルガは以前、他のブロンズランク達とパーティーを組んでダンジョンに行った際、1人勝手に下の層へ潜って行った事がある。その時出会ったのがオルトロスだったと言う。仲間を置いて真っ先に逃げたそうだが。
その、ダンジョンで見たオルトロスが昨日出没した、とゴルガは言うのである。
また一昨日の夜、ラルの言う通り丸腰のまま1人迷いの森に入ってしまったゴルガは、一角獣の群れに囲まれた際、ボング達に助けられ、その後仲間入れて貰ったとの事。そして次の日、フォレストウルフが沢山死んでいるのを見つけ不審に思うも、あの女が急に現れ自分達を倒した。だが殺すでも無く気絶させた、との事。
その話は昨日ミークから簡単に聞いていたので、概ね齟齬は無いと言う判断なのだが、気になったのはその後、
『俺は幸運な事に、ボング達より先に縄が解けちまったんで、これ幸いと一足先にその場から離れたんだ。だが直ぐあの場所に……、オーガが、オーガが3匹顕れやがったんだ。俺は慌てながらも息を潜め木の陰に隠れて事の成り行きを見てた。そしたら気絶したままのボング達を抱えてどっかに運びやがった』
『オーガ3匹? ならお前1人でも何とかなったんじゃないのか? その時武器は持ってたんだろ?』
『……その中の1匹が、オーガキングだったんだよ』
当時の事を思い出してか、冷や汗を掻きながら語るゴルガの様子からして、どうも嘘を吐いている様には思えなかった。
因みにオーガとは人型の魔物。背丈は5m程あり頭に角が生えていて、俊敏で怪力。棍棒や人から奪った武器を身に着けている事が多い。主に動物を食すが人も好物で、迷いの森でも時折出没する。数匹であればブロンズランクなら倒すのは難しくないので討伐依頼もちょくちょく出ている。
だが、オーガキングとなると話は別。オルトロス同様ゴールドランクでやっと倒せる程の強い魔物。知能が高く武器を扱うのも上手く魔法も使える。背丈はオーガと変わらないが、その代わり角が2本生えていて全身が真っ黒。
そして、オーガキングが出没するなど、この迷いの森でこれまで一度も聞いた事が無かった。
それが顕れたと言うのである。オルトロスと言い、立て続けにそんな強大な魔物が迷いの森に出現するなんて。確かに迷いの森は魔物が沢山棲んでいる。だがいくら強くても、シルバーランクが居れば事足りる程度の強さの魔物しか居ない筈。
町の入り口近くの影に隠れていた事については、何やら言葉を濁していたが、そこは今はどうでも良い。
「しかしダンジョンに居たオルトロスが出てきた、ってのはなあ……。だってダンジョンの入り口、あんな巨体が出入り出来る程大きくない」
迷いの森に唯一あるダンジョン。ラルの言う通り、入り口は高さ3m、幅10m程で横に広くガマガエルの口の様になっている。一方のオルトロスは背丈だけでも15mはある。それがどうやってダンジョンから出てきたのか。
難しい顔をしながら思案するラル。そこで、コン、コン、と扉をノックする音が聞こえ、「ネミルです。ミークと一緒です」と聞こえたので、「ああ、入ってくれ」と答えると、扉が開きネミルとミークが揃って頭を下げた。
2人を迎え入れると、ギルは気持ちを切り替え笑顔で「そこ、座ってくれ」と長机の椅子への着席を勧め、ギルも対面に座る。そして一枚の紙をミークの前に差し出した。
「オルトロスの素材の詳細が書いてある。全て換金すると白金貨1枚金貨50枚になる」
ラルから受け取った紙を見るミーク。内訳はオルトロスの魔石1つで白金貨1枚、牙4本で金貨40枚、毛皮で金貨10枚との事。因みに金貨1枚で銀貨100枚分、白金貨1枚で金貨100枚分とも記載されてあった。
「え? じゃあ白金貨1枚って銅貨100万枚分て事ですか?」
「そういう事だ」
ひええ~、と素っ頓狂な声を出しミークは驚く。普段余り感情を見せないミークのそんな表現に、ラルは「何だそれ」と笑う。ネミルもクスクス笑っている。
「え、でもこれ、結構大金なのでは?」
「そうだな。白金貨1枚あれば小さい家1軒は建てられるだろうな。更に金貨50枚だから、全部使えばネミルの宿屋位の立派な家は建てられるだろう」
「ええ~……」
確かにこれから生活する為に資金は欲しいと思っていた。だがいきなり大金過ぎる。明らかにミークが動揺しているのが可笑しく思いながらも、ギルは「そこで提案なんだが」と話しかける。
「オルトロスの魔石、あれ何かしらの魔導具に加工して貰うってのはどうだ? 他に毛皮もミークの服の仕立てや防具にも変えられるぞ?」
「そうね。全部換金するよりそっちの方が良いかも」
ネミルも同意しながらそう言うと、ふむ、とミークは少し考え込む。
……どうせ暫くはこの町で冒険者稼業をしようと思ってたし、直ぐ大金が必要って訳じゃない。そして下着も含め服は欲しい。ずっと同じ服着てるの気になってたし……そろそろ洗濯しなきゃ。で、それらを買うんじゃなく素材で仕立てて貰えるんなら儲けものだよね。
「分かりました。じゃあ加工して貰います」
ミークの決断を聞いて「了解。じゃあその様に処理しておこう」とニカと笑うラル。
「……そうだな。魔石は魔石屋、毛皮は仕立て屋で加工、そして余った毛皮と牙を換金、でどうだ? ミークの戦闘スタイルからして武器は不要だろ? 牙は武器にしかならないからな」
「はい。それでお願いします。でも魔石で何が出来るんですか?」
ミークの質問にラルは「それは魔石屋行ってジャミーに聞いてくれ。きっと役に立つ良い品に加工してくれる。あいつ口は悪いが根は良い奴だから悪い様にはしないだろうよ」と答える。
……口悪いだけかなあ? お金持ってたら身体売ったのか? とか言う失礼な人だし。
ネミルも良い人だって言ってたがどうも信憑性に欠けると思いつつも、「分かりました」とミークは答えた。
「それと、だ。ウッドランクのメダル出してくれ」
ラルにそう言われ「?」と思いながらも腰のポシェットから言われた通りメダルを出すと、ラルはそれを受け取り、代わりにシルバーに輝くメダルをミークに差し出した。
「ミーク。オルトロス討伐と町を守った事の功績を持って、シルバーランクに昇格だ」
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